第18話 迷惑な会だなぁ

「お兄さんたち、うちに何か用?」


 声の方を向くとそこには一人の少年がいた。

  

 透き通るような白い肌にサラサラとなめらかな金髪。


 それでいて鼻筋はよく通っており、見たところ身長も170センチ代後半。



「うわー、キレイな男の子やなぁ! 髪の毛サラッサラやんかぁ、和夫くんと全然ちゃう〜」


 言われた和夫は薬局で買った598円のブリーチで作りあげたバシバシの金髪を撫でる。


「……うるさいの〜」


「僕知ってますよ、こーいうの最近男の娘っていうんでしょ?」


 オタク系の流行に中途半端に明るい拓郎が嬉しそうに言う。


「いや、別に女っぽいわけではないやろ」


「え~? おるんやなぁ、こんなキレイな男の子。これやったらさすがのあたしも、……ギリギリ勝てるくらい?」


 祐奈は言いながら顎に指を当て探偵のようなポーズを取る。


「いや勝負ならんやろ、あとそのポーズなんやねん」


「えー? あたしそんなかわいい? もうカズくんようゆわんわ~」


「……せやの」


 ニヤニヤしながら肩をバシバシと叩いてくる祐奈に対して和夫は面倒くさそうに吐き捨てる。


「いやいや、そこは”逆やんけ”とか言うてやぁ! なんかあたしがイキってるみたいやん!」


「お前いつもイキってるやん」


 


「……あの~、うちになにか用なの?」


 美少年は少し不機嫌そうな笑みを浮かべながら口を挟む。


「あー、すまんすまん、ちゃうねん、あれ、えーっと、……ほらあれ、ジブン、……ここの家の持ち主かなんかなん?」


「……僕が質問してるんだけど」


 少年に訝しげな視線を向けられた祐奈はひょうひょうと言う。


「え? ほらぁ、あれやん、めっちゃ大きい家やな~って思ったからめっちゃ見ててん」


 やましい事があるかを調べに来て、調べに来ていることがバレて喋ってくれるワケがない。


 絶対にバレてはいけないというプレッシャーに和夫はどもる。


「そそ、……そうそう、お、……俺ら貧乏やから、……よ? こ、……こういうの珍しいねん」

  

 どもり散らす和夫に少年は鋭い視線を向ける。


『ちょっとぉ、カズくんのせーでバレるやん』


 祐奈も和夫に鋭い視線を向ける。


「……怪しいなあ」


 当然の感想といえよう。


「怪しないって~、あたしらアレやねん、大きい家みたらその前でしょ~もない話をしようの会の一員やねん」


「せやで、世の中ジブンの知ってる世界だけとちゃうねん、あるねんそういう会も」


 無理のありすぎるごまかし方に少年はため息をつき、


「……迷惑な会だなぁ」


「――まあいいや、で、その会の目的はもう達成したんでしょ? もう帰ってよ」


 心底迷惑そうに手をひらひらさせる。


「まーまーそう言わんと、ちょっと話しょーや? 俺ら暇やねん」


「……やっぱり怪しいなぁ」


「いや、なんも怪しないって」


「……ふーん、まあいいや、ちょっと上がっていきなよ?」


 親切そうな声で言う少年、しかし先程からずっと違和感を感じていた拓郎は少年の目をじっと見る。


 そして拓郎は素早く脳内に検索をかける。


 この少年の瞳から引き出された感情は"怒り"と"恐怖"。


 一度勝っても人数集めて何度もやり返してきたりする、強いというよりは厄介な輩と対峙した時を思い出す。


「……ねぇ、……ちょっとヤバないすか?」


 拓郎が二人に向けて小声で促すも、ふたりともキョトンとした様子。


 青春時代を強い友達におんぶに抱っこで基本的に安全に暮らして来た和夫と、ちょっとやそっとでは全く動じない祐奈、そんな二人にそんな野性的な嗅覚はなかった。


「……いや、このまま帰って外国でいきなり野宿する方がヤバいやろ」


「……あたしお風呂借りたいねんけど」


 拓郎は二人の顔を交互に見たあと嘆息する。


 同時に先程、自分がカツアゲをしようとして怒られた時に感じた暖かさを思い出す。


 とばっちりをくうのが嫌だとかではなく、本気で自分を心配してくれていた。


 それは、女の家から帰ってこない父親と、いつもリビングで腕に何かを注射して床ばかり掃除していた母親に育てられた拓郎が、おそらく初めて感じた、柔らかな温もり。


 ……この人を危ないところで野宿はさせたくないな。


 それに、イザとなったら自分がなんとかすればいい。


「まあそっすね、……んならちょっとお邪魔してええっすか?」

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