第17話 今はそんなんえーやんか
「そしたらピンポン押しましょか」
「いや、ピンポンとかなくない?」
目的の家は、それはとても豪華な塀と門に包まれていた。しかし、門のあたりには『アルフレッド』と書かれた表札があるだけで、ボタンのようなものは一切ない。
「……ほんまやなぁ、あれかな? 『アルフレッドくーん、あーそーぼー』とか言わなあかん系?」
「……それ系かも知らんの」
祐奈達が言うのを横目に、拓郎が門に手をかける。
「あー、あかんでぇ、勝手に入ったら怒られるでー」
「なんか文句言うてきたらシバいたったらえーんすよ、……奴隷買うてるやつとか別にバチバチいったったらえーでしょ」
そう言う拓郎の目は座っていた。奴隷制度について聞かされて以来、拓郎はその不条理さが頭の中をグルグルと回り、その思考は言葉にならないもやもやとした怒りに支配されていた。
「ちょちょお前やめろや、ポリ呼ばれたらどうすんねん」
和夫は慌てて後ろから拓郎の肩を掴む。
「……それやったらポリ署泊めてもらいましょうよ」
めんどくさそうに振り返りながら言う拓郎を見て和夫はより強い焦りを浮かべる。
行動を共にするようになってから薄々感じてはいたがこの男、後先考えないタイプだ。
「いやいやお前それはさすがにイケイケすぎるやろ、日本のポリとはちゃうねんぞ、いきなり銃撃ってきたりしたらどないすんねん」
「……まぁそーっすけど」
そもそも一般市民がいきなり攻撃してくることを想定していないのも、日本という守られた国で生きてきた少年たちには仕方ないことなのであろう。
拓郎は不服そうにしながらも門から手を放す。
「ていうかさー、この仕事ってあれやんな? この家の人が法律破ってないか調べるんやんな?」
キョトンとした様子で言う祐奈に和夫は頷く。
「せやな」
「そんで歩合制やんな」
「おう」
「どーやって調べるん?」
和夫は一瞬うつむいたのち、ごまかすように言う。
「え? それはあれやろ、普通に聞いたらええやんけ」
「え~? それおかしくない? なぁたっくん?」
話を振られた拓郎は納得したように言う。
「……確かに、パクった原チャ乗ってるときにポリに『それどうしてん』言われてパクりました言うやつおらんすね」
「それお前やん」
横槍を入れられた拓郎は少しムッとする。
「まだパクってないっすよ」
「お前もうやめとけよ、自分のモンパクられた人間がどれだけつらいか……」
「……脅そうとしたくせに」
拓郎は少し拗ねたように言う。
そんな二人に祐奈は呆れた視線を向け、
「もう、今はそんなんえーやんかlぁ。でもさー、訊ーて来ました悪いことはしてません言うてました、だけやったら多分やけど、……お金くれへん気ぃせーへん?」
拓郎はワクワクした様子で肩を揺らす。
「やっぱあれっすね。シバいて口割らすしか……」
「……怒るで?」
祐奈は拓郎を睨みつけ、拓郎に向かって人差し指と親指で空を掴む動作をする。
「え? でも今度のは別に悪い奴相手やから別に……、嘘、嘘っす、その手やめて」
拓郎は慌てて前言を撤回し自分の耳を手で覆い隠す。
「ほなあれやな、とりあえず窓とか割ってこっそり入ってみるか」
「とりあえず窓割るって、……思考がナチュラルに空き巣っすね」
「あのー」
「えっ?」
「お兄さんたち、うちに何か用?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます