第12話 ええやん行こうや〜
窮地に立たされた人間が、そのまま朽ち果てるのか? はたまたなんとか立ち上がり窮地を脱するのか? それを決める一番大きな要素は、間違いなく"運"であろう。
しかし、その次に大切なのは、心である。なんとかなると信じる心、なんとかすると決める決意、それらがなければ、運だってついてはこない。『もうダメだ。もう終わりだ』とタカをくくってじっと蹲っているだけで脱せられるものはそもそも窮地とは言わないのだから。
「はぁ〜、マジでどーすんすか?」
拓郎が恨めしげな視線を向ける。
「いやー、そんなもんなんもわからんやんけ? さっきのにーちゃんもぴゃ〜っと逃げてもーたし」
「ほらぁ〜、たっくんが怖いからやんかぁ〜、カツアゲなんかいいことないねんで?」
和夫と祐奈は飄々と答える。そんな彼らの様子からは、『なんとかしてやる!』という強い決意は感じられないが、それと同時に『もう終わりだ』という絶望もまた感じられないことは唯一の救いといえよう。
「何をそんな余裕こいとんすか、外国っすよ? 今日外で寝ることなったりしたら殺されるかも知らんっすよ?」
実際ここは外国どころか剣と魔法のファンタジーな世界なのだが、それに気付いていないことが今は彼らにプラスに働いているとも言える。
時刻は午後6時半。いい感じに沈んできた夕日が、拓郎にちょっとした焦燥感を訴えかける。
「いやいや、別にイケるやろ? あんな弱そうなにーちゃんが普通に歩いてんねんぞ?」
「あ〜、そんなん言うたらあかんねんで〜? あれはたっくんが怖かっただけ……あ! カズくんほら、みて?」
「なんやねん?」
「ほら、ほら、パチ屋あるで?」
祐奈が指差す方を見ると、そこには異様に電飾された、このオシャレな町並みには似合わない下品な建物がそびえ立っていた。様々な表情(8割がた絶望)の人々が行き来する入口の上には、青いネオンで『PARADISE☆CASTLE』の看板。
「どこにでもあるんやの」
「っていうかカジノちゃいます? パチ屋って日本にしかないらし〜っすよ?」
「……なぁ、行こうや?」
カジノ、と聞いた祐奈はニヤニヤと二人の裾を掴みながらぽそりと呟く。
「いや、お前そんな金あったら今頃ホテルでワイングラス回しながらなんか白いタレかかった魚とか食うてるやろ」
「えー? てっちゃんとかの方が好きなくせに〜? ええやん行こうや〜、メダル落ちてるかも知らへんで?」
「「…………」」
3人は無言で忍ぶように、カジノに足を踏み入れた。
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