第8話 どっちが好き?

 好きな季節?そりゃ、もう、断然、夏ね。夏しかないよ!

 だってさ、夏って開放的じゃない。うん、閉じてないのがいいねぇ。

 ありきたりな表現だって?最早、俺たちくらいの歳になれば、回りくどい言い方は要らないっしょ。

 それでも、学生の頃は、好きな季節も嫌いな季節もなかったねえ。学生つったって、小学生の頃から大学生までずっとね。ま、夏は夏休みあるし、夏がいいよな、くらいで。

 なんだかんだ言っても、学生って自由になる時間がいっぱいあるでしょ。だからかなあ。限られた時間とか、限られた季節とか、って感覚ないんだろうね。

 ところがさ、働きだすとね。わかるっしょ?自由な時間なんてごく限られているもんだから、時間が経つのが早い早い。

 し、か、も、年齢を重ねると、ね!一日の時間は長く感じるのに、日数はあっという間に経っているってのあるっしょ?それよ、それ。

 そーすると、俄然、夏が好きになるわけよ。

 だって、夏だけが初めと終わりがはっきりしてるじゃん。ん?わかんない?

 ほら、梅雨明けで夏が始まって、8月31日に終わる、感じあるっしょ?だから、なおのこと、夏の始まりはワクワクして、夏の終わりは物悲しく感じる。ってか、無理やり物悲しく感じさせられるって感じだなありゃ。

 ん?それもわかんない?ほら、ラジオ聴いてるとさ、お盆が終わるのを待ってましたかのように森山直太郎の「夏の終わり」流すでしょ?そんだけじゃないよ、陽水の「少年時代」なんか「な~つが過ぎ風あざみ」の一節だけで夏の終わりの歌になっちゃてるもの。あとは、陽水と玉置浩二の「夏の終わりのハーモニー」に、達郎の「さよなら夏の日」と目白押し。9月になれば、これまた、待ってましたかのごとくアースの「September」に、竹内まりあの「セプテンバー」。

 テレビじゃ「今日も記録的な猛暑日で…」なんて言っているのに、ラジオじゃ夏の終わりの曲を無理やりかけて夏を終わらせようとしてるものね。馬鹿じゃないかと思うね。

 あと、ほら、俺って面倒くさがり屋だからさ、夏なんてTシャツかシャツを一枚着れば終わりでしょ?ところが、冬とくれば、Tシャツ着て、シャツ着て、ネクタイして、ジャケット着て、コート着て、マフラーして~ もう、ほんと勘弁。

 あと、ほら、エアコン点けてない日だと、ドアも開けっ放し、窓も開けっ放し!いちいち閉めなくていいでしょ。もう、夏は手がかからないもの。


 昼と夜どっちが好きかって?今日は、お前、聞いてくるね~

 昔は、断然、夜が好きだったね。昔って?そうだな~やっぱ、学生の頃だな。大してしがらみがないくせに、それでも、夜ってそういうのから解き放たれて自由になれる感じあったんだわね。テレビ観ててもいいし、音楽聴いててもいいし、女の子とイチャイチャするのも夜を待ってやってたしね。あ、今は違うね~ 夜なんて待ってらんないもの。したきゃ、こうやってさ、昼間っからでもぜんぜんオーケーでしょ?

あ、痛い!なんだよ、いきなり!ん?ムードが無いって?何がムードだよ!俺たちに必要か?ムード。俺はお前とするなら時間なんて関係ないの。あ、痛い!まあ、最後まで聞けよ。

 今は、断然、日が出ている時間だね~ 夜なんて、子ども並みに早く布団に入ってるからね。

 夏はいーよー。4時前から白々してきて、7時過ぎまで明るいでしょ。それだけで、わくわくしちゃう。きっと、仕事してる時間が充実してて、逃げ場を求めなくてもいいからなんかもしれないね。

 俺なんか、エヴァンゲリオンの世界のように一年中夏で、しかも、一年中白夜でもいいと思ってるよ。

 ああ、年中じゃなくてもいいから白夜の季節できないかなあ。地軸がさ、右の方に90度曲がってくれると、夏に白夜になるんじゃね?

 あ、そっか、ということは、その逆の日が昇らない冬の季節があるってことか!そりゃいかん!だめだ!お前、頭いいな~!

 で、聞いてるお前の方はどうなの?

 ん?暑いの苦手だから冬が好きで、陽に焼けるのが嫌いだから夜が好きだって?

 あゝ俺とは真逆のお前だったか~

 でも、いいのいいの、俺、お前がだ~いすきだから!

 あ、痛い!そんなん蹴らなくてもいいだろ~ ほんとに、もう。



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