第7話 お腹周り
でね、人間ドック行ってきたんだけどさ、鬼門のエコー検査、史上最高の美人技師さんだったの。お若いし、マスク越しなのに明らかに綺麗で、しかも、アニメ声。
もう、ベッドに横たわる前から緊張しちゃってね、サンダル履いたまま仰向けになっちゃってさ。でも、そこで技師さん笑ってくれて、俺もいくらか緊張が解けてね。
あとは、技師さんの決まり文句に従って、上着をはだけたり、両腕を後ろ頭で組んだりしたんだけど、技師さん「何か心配な事ありますか?」って聞いてくれたの。これだって史上初よ!今までそんなこと聞いてくれる愛想のいい技師さん居なかったもの。
「えっと…実は、昨年、右脇腹の肋骨を折った後だったので、肝臓のところとかだいぶ加減してもらったんですわ」
「ええっ?今はどうです?大丈夫ですか?」
「あ、はい。もう完治しているんで大丈夫なんですが、元々、脇腹が弱いんで、時々、ぶはっって吹き出しちゃうことがあるんです」
「ああ、そこ、弱いんですね~ わかりました。なるべく、私も気を付けて当てますね~ でも、厳しかったら言ってくださいね」
そんな会話だったんだけど、あったかいジェルをお腹に塗られる前から最早、よからぬ妄想のスイッチが入ってしまってさ。
ううん、ほんとに、技師さんは上手に機械を当ててくれたし、息遣いの指示も最後まで丁寧に言ってくれたし、俺はずっと目を瞑ってたから、アニメ声でもなんとか酷い妄想にはならなかったよ。
「是非、来年のドックの時もあなたでお願いします!」
と、言いたかったけど、まあ、飲み込んだけどね。
それで、その後に栄養指導ってのがあって、紫のセルロイドの眼鏡を掛けた異常に早口のおばちゃんが、BMIがどうのこうの、お腹周りが何センチなのでどうのこうのって言うわけ。要するに、基準値を超えた人は組合からの要請で3カ月間毎日体重を計って記録して、1カ月に1回病院に来なきゃだめなんだと。
で、俺は「丁重にお断りします」って言ったわけ。ま、去年も、同じこと言われて「それって、断れないんですか?」って言ったら、組合に申請書を出せば断れるって言うもんだから、あ、そいういえば、去年も早口のおばちゃんだったな。したら、「ああ、そうですか…でも、組合からの要請も厳しいので、なんとかできませんか?」って言うわけ。だから、「組合からの要請が厳しいって、それは私に対してではなくて、病院に対してですよね。数値が基準を上回っているのは、私の不徳の致すところではありますが、肋骨の骨折やら、頚椎症で身体を動かせなかったっていうはっきりとした理由があって、しかも、頚椎症は全快はしてないけど、身体を動かせるところまできているんで、こちらの病院に面倒を見てもらわなくても大丈夫です」って言ったら納得してもらったわけ。
だいたいさ、数値が超えているだけでそんな3か月も罰みたいなのをくらうなんてさ、ほんと、馬鹿々々しくて。じゃあ、お相撲さんはみんな病院送りですね!っていつか言ってやろうと思ってるの。「だって、お相撲さんは職業ですもの」なんて言い返して来たら、職業で健康だったり不健康になったりするもんなんですね!って言ってやろうと思ってるの!
面倒くさい奴だって?
ま、確かにな。
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