第33話 掃討作戦

国が極秘に行っていた投薬実験、その施設の人間がすべて殺されデータが失った、国は動物実験についての情報や個体数は把握できていない、実験動物は野に放たれた、警察や軍を派遣するもその守備は突破されていく、学校に配備された軍も2,3体を想定しての配置だったが、区内を巡回する隊員からの報告は想定外の数でしかない


軍の判断もまた迅速に行われていくが

熊は塀を乗り越え、学校の裏からも侵入し、1匹、また1匹と姿を現し、学校内に侵入を許していく、それに伴い軍や警官も増援が送られ、学校内で生徒の救出が行われていく、生徒を守るためとはいえ死体の山が築かれていく

悲鳴を挙げながら逃げてくる生徒たちの背後を熊が追いかけてくる、生徒の安全を確保し熊の足目掛け一斉射撃を行う、熊がバランスを失ったところにさらに銃弾を撃ち込んでいく

しかし、その姿を見た熊もまた戦い方を学習していく、最大限の武器である爪を使い学校の壁を伝い隊員たちの背後に周り込む熊や校舎の上から一気に降りてくる熊まで地の利を最大限に生かして攻撃してくる


「この体は素晴らしい、だがなぜ我々は人の血肉を欲するのだろう、お前たちはその答えを知らないか?」


「く、くまが人間の言葉を発するなどおかしいだろう、お前たちは一体なんなだ?」


「それは我が聞きたい、答えを持たぬものに用はない」


熊の鋭利な爪に人が反応できない程の瞬発力、その場にいる5人の隊員の首が一瞬で飛んだ


熊にも個体差があり戦い慣れしている熊も中には紛れていた

隊員達の犠牲をだしながらも次々と生存者をトラックに載せていく

一刻の猶予も許されない


「全員乗り込みました」

「よし離脱するぞ」

前後を装甲車に囲まれトラックは出発する


「隊長前方から大型の熊が接近しています」

「機銃で排除せよ」

「了解」

前方の大型の熊目掛け機銃が掃射される

だがこの熊は巨体なら鈍いという考え方を覆すくらいに動きが素早い、素早すぎる

熊は大きく旋回し、最後尾の装甲車へと向かっていく、機銃もまた熊を誘導するかのように掃射されていく

「隊長、そちらに向かいます」

「よし今のうちにできるだけ全速力でトラックは離脱しろ」

「了解」

熊の行く手を防げるものはなにも無い

熊は学校の塀にぶち当たり、塀を破壊していく

「おいおい、うそだろう」

思わず隊員から声が漏れる

次の瞬間、機銃をの砲塔に座る隊員の頭が吹き飛んだ

「隊長このままでは攻撃できません」

熊は塀の破片を投げつけてきたのだ

第2の投擲による攻撃は装甲車の車体に当ててきた

流石に装甲車の装甲を破ることはできないにしても、内部への衝撃は相当である

この攻撃を受けつづれば中の人間を含め車が走行不能になる可能性が高い、そう判断した隊長は

「お前たちは向こうの車両に乗って逃げろ」

「しかし隊長は」

「なーにお前たちの命に比べれば、装甲車1台と俺の命など安いものよ」

次々と装甲車目掛けて投げつけられる

「さぁ、動けるうちに行動しろ!」

「はい、ご武運を」

隊員達は1台の装甲車に乗って逃走を図る

「さあ。化け物めこれでも食らいやがれ」

装甲車の砲塔部分からグレーネードを構え熊に目掛けて撃ち込む

熊が塀の後ろに隠れる、肩に担いだありったけの武器で熊に攻撃していく

熊は投擲するわけでもなく上空へ飛んだ、巨体が綺麗な弧を描き隊長のいる場所に一気に突っ込んできた

隊長はこの好機を待っていた、飛んだと思った瞬間に体に付けたありったけの手りゅう弾のピンを抜いた、下には火薬などの爆発物が並べてあった

綺麗な弧を描いた熊の巨体から突き出された手は隊長の体ごと貫いていく

熊が絶命を確認した瞬間、下から行き場の失った火が一気に襲い掛かり爆風と共に火柱が上がる

逃げ行く装甲車から火柱に包まれる熊の姿が見えた

しかし熊は死ぬことはない、手を頭を失った熊はその場から起き上がり、学校の中へと消えていった


一方夕凪の家の付近にも熊は迫ってきていたが、周辺に縄張りを持つトラが熊を追い返していた、体の大きさは違えど魂の強さではトラの方が格上だ

トラが熊の前の攻撃態勢に入ると熊は逃げていった

トラが居る限りこの近隣は安全だ


雪音の会社も英二郎のセキュリティとロボットたちにより守られている

グリスの出資もあり英二郎は12号機まで作られていた

見た目より機動力を優先した10号でも十分に熊の対処が出来ていた

熊が周辺に現れると4つの平行した大きなタイヤにアームが付いた10号機が熊に体当たりをしていく、タイヤは発砲ゴムによりパンクすることはない、腕は万が一横になった時に起こす役目がある、不審者を取り囲み無力化する目的で作られたのだが意外とシンプルな構造の方が役に立ったりするものだ


一方、区の中心街を含め他の区域では街中を歩く人の姿はない、人は皆ひっそりと息をひそめてしまっている、区域外では軍が包囲しその包囲も徐々に狭まってきている、それと同時に救助と偵察のため街中を装甲車が走っていく、熊たちも賢い、装甲車から一定の距離を保ちながら襲っていく、それでも街中の熊はかなり数が減ってきていた

熊に炙り出されて悲鳴を上げる親子、陰に隠れはするも誰も助けるすべはない

子供をかばう母親に熊の一撃が背中の肉をかすめる、母親は子供を突き飛ばし早く逃げろと叫ぶ

そこへあまり現代の恰好とは似つかわしくない古風な衣装に身を包んだ少女達が現れる


「夕凪、これなら丁度良い大きさやな」

「そうですね」

「さっきの訓練の予習と行こうか」

「はい」

「どなたか知りませんが、せめて子供だけでも、お願いします」

懇願する母親

「お前たち邪魔だから少し下がるのじゃ」

「おま・・え、ひと・・・ちがう・・・気が・・・ちがう」

夕凪は熊の前に静かにでる

「じゃま・・・どけ・・・」

熊の右手が夕凪に振り下ろされたと思われた瞬間、熊の右手は夕凪をすり抜けるように地面に切り落とされる

「よし、うまくなったな」

「キトさんやりました」

熊が繰り出す攻撃の中で最大限に体重のかかる位置に、そっと刀を添えるだけで力を加えずとも熊の重みと力で自らの手を切り落としていく

流石の夕凪も熊と切りあっても熊の骨と肉厚な筋肉を切り落とすだけの力はない

そうなると相手の力を最大限利用するのが得策である

「これならば相手が何体居ようが構えるだけで事が済む、次は回転じゃ」

「はい」

熊は手を切り落とされたことで怒り、左手は振り下ろすのではなく横に薙ぎ払おうとしてきた

夕凪は力こそは無いがゴン太達に鍛えられ瞬間的な動きは熊を凌駕している

次は熊の薙ぎ払いに対し逆らうことはせず、熊の左手に刀を添えると同時に飛び上がり熊の左手を支点にクルリと1回転すると熊の左手は綺麗に地面に落ちる

両手を切り落とされた熊は最後の牙の攻撃を仕掛けてくる

夕凪は熊の全体重を掛けた牙の攻撃を、回転しながらスルリと避けたかと思うとすでに熊の喉元を切っていた

「やはり硬くて首を落とす、とまではいかないですね、それに熊の油で切れ味が悪くなってきてます」

「死んでいるとはいえ油が多くてやっかいやな~」

「こういう奴を相手するときはもっと別の刀が欲しいな、セツに頼んでおくよ」

「ありがとうございます、キトさん」

「もうこの熊から学ぶことはないな」

キトは石の力で熊に取りつく亡者の魂を吸い取る

魂を吸い取られた熊はただの肉塊と成り果てる

「刀を使った訓練は面白いですね」

「なかなか奥が深いやろ、人間が何千年と殺し合って作り上げてきた技に興味が出てな、こうやってついつい遊んでしまうんやで」

「じゃあキトさんたちはずっとこういう遊びをしていたのですか?」

「そうや、最初はハクが持ってきてな、ハクが妙に熱中しだしたんやけど、なんか懐かしいな~、ただハクの強さは異常やけどな」

「ははは・・・キトさんがそう思うなら相当なんでそうね」

「おかげで下手に逆らえんようにはなってしまったんやけど、セツのいう事だけは妙に聞くからな、なにかあったらセツに頼むのが1番なんやで」

「なんか良いことを聞いた気がします」

「これはうちら2人だけの秘密やで」

「はい」

「じゃあもう少し訓練してから帰ろか、あ、そうそう」

キトは少し離れた場所で隠れている母子に近寄り

「お主たち、ここで見たことは決して口外するでないぞ、口外すれば天罰が下るかもしれんぞ、よいな心しておくのじゃ」

「はい、助けていただいた恩人の言葉肝に銘じます、ありがとうございます」

夕凪達はその場を去っていった


朝日が昇ろうとしていたとき、一晩中、熊を相手に訓練していた夕凪達はビルの屋上から朝日が出るのを眺めていた

勉強で徹夜をしたときは眠たくて体が怠くて重かったが、今は一晩戦っても不思議と疲れもなく、朝日を浴びるのが心地よく感じるほどだ

やはり自分の体はすでに人から外れてきているのだろうと実感している、だが不思議と嫌な気分ではなくむしろ感謝しているくらいだ


「いよいよ始まりそうやな、やっぱこの場所に陣取って正解やったな、ここなら一望できるわ」

「いよいよですね」

「ああ、人が犯した過ちは人が責任を取らせないとな」

熊の多くは学校に引き寄せれた、学校から外に出ていた熊は夕凪達の遊び相手になり排除されおり学校以外の熊は存在しなかった、それに加え軍も学校を中心に包囲網を狭めていきほとんどの熊は学校に残っていた、


何かが爆発する轟音が周囲に響き渡る

人間の総攻撃が始まったのだ、ヘリが学校付近にロケット弾を撃ち込んでいき、地上からは戦車が砲弾を撃ち込んでいく

炎にたまらず出てきた熊は機関銃によってミンチにされていく


「やはり人の方が有利やな」

「あ、でも熊の中にも達人っぽいのがいますね」

「なかなか面白そうな奴もいるな」


物陰に隠れ的確に投擲し殺してく熊、さしずめスナイパーというところか

それによって防御が薄くなった所を突撃るつ1頭の熊、弾を躱し爪を使い兵士たちを貫いていく


「この2体は人間では倒せそうにないな」

「そうですね」

「生き残る奴は2体もいるか、もしかしたら1体くらいは生き残るかなと、思っとったけどなかなかやるではないか」

「なんか熊が校庭に集まり出しましたね」

「最終局面って感じになってきたな」


四肢が欠損した熊たちが校庭に集まり1頭の巨大熊に体をくっ付けていく、熊たち爪や牙をお互いの体の内部に突き立て繋がっていき、それは1つの巨大な肉塊の集合体となっていった


「退避、退避」


熊たちが繋がった1本の巨大な腕が学校を取りか国兵士たちを薙ぎ払っていく

巨大な肉塊に薙ぎ払われる装甲車や戦車、ただ標的が大きくなり繋がったことで動きも鈍い肉塊はヘリ達の的となっていく

肉塊は校舎を破壊しその破片を長く大きな腕を振り回しヘリに投げつけていき、ヘリに直撃していく、その攻撃でヘリも地上の部隊も後退していく


「さて、もう終わりそうやし、帰ろか」

「そうですね」


部隊が後退した後、戦闘機の轟音が聞こえてきた瞬間、戦闘機から放たれたミサイルが直撃し、巨大な熊の塊や学校もろとも一帯は吹き飛んだ

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霊が見えるからって日常が変わりすぎでしょ! 呼霊丸 @codeX84569752

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