第32話 三八子の秘密

学校の正門は閉じられ、学校の正門付近には警官達のみならず軍服を着た人まで集まって来ている

学校の外は危険なため生徒たちは学校に閉じ込められた

生徒だけではなく警察を求め近隣の住民たちまでもが慌てて学校へ逃げ込んでくる


「生徒の皆さんは教室で待機し、決して学校の外に出ないでください」


教室の生徒達にはまだその緊迫した状況が伝わらない

あまりにも慌てて駆け込んでくる住民を見て笑ってる余裕があるくらいだ

「なになに外で凶悪犯でも暴れているの?」

「この学校呪われてるんじゃない?」

「おい、あれって装甲車じゃねぇ」

「おお。すげ~、かっこいい」

そんな声まで聞こえてくるくらいだ


美央は嫌な予感しか感じない、三八子を見ると三八子も何かを感じているようでどこか遠いところの何かに警戒しているように見える

「対象複数確認、ここ危険、行こう、美央だけでも逃がす、任務開始」

三八子は美央の手を掴みものすごい力で引っ張っていく

「ちょ、ちょっとどこへ行くの?」

「美央大事、思う人居る」

美央は三八子に引っ張られていく途中で良一が血相を変えて各教室に向かって叫んでいる

「クマだ!巨大な人食いクマが襲ってくるぞ!あいつらもみんな熊に喰われた、ここに居ても熊に喰われる」

「何言ってんだこいつ、ここには軍、装甲車まで来てるんだぜ、ここより安全な場所ねぇだろう」

良一の言うことに耳を傾ける人などいない、軍隊に守られている、その現実が良一の言葉より重いのは言うまでもない

そんな良一を無視するかのように通り過ぎていく三八子達、そんな三八子達を良一は追いかけてくる

「おまえらどこへ行く気だ、外は熊がうろついていて危険だぞ、俺たちは、ここにいる連中はみんな危ないぞ、俺は、俺はここで死ぬのか・・・」

恐怖心で冷静な判断ができないのか言ってることも支離滅裂である

こんな奴のことなど正直どうでも良いのだが、なぜか付いて来ようとする

「ここで居ても死ぬ、死ぬ、死ぬ」

なにやらブツブツ言いながら付いてくる姿に、三八子がクルリと向きを変え良一に近寄りの腹に一撃を加える

「うるさい、静かに」

良一は痛みで声は出ないが、分かったと必死に頭を縦に振る

三八子達が学校の玄関に差し掛かったときに正門で動きがある


教室からもその光景を見守る生徒たち

逃げてくる住民に襲い掛かり肩に噛みつく熊

その熊の体に軍人達がライフル弾を撃ち込む、がやはり熊は怯む様子はない

「どけ!」

1人の軍服を来た男性が人もろとも熊の顔を目掛けてアサルトライフルを乱射する、熊の目は潰れ肉がそげ、骨がむき出しになり顔面が崩壊していく、それは噛みつかれた人も一緒だ

弾を打ち尽くすと肩にかけた散弾銃を構え更に熊の顔面目掛けて発射していく、もはな熊の顔は失われていた

それでも不死の熊は倒れることなく4つ足のまま立ち尽くしている

やったか?周りにいつ隊員たちもそう思ったのだが

熊の動きは止まらなかった

目で見ることに頼り切っている人の常識から考え相手の目を奪うことは有効だと思っていもおかしくはない、ただこの熊はその常識を覆してくる、人の数倍はある腕力を振りかざし軍人達に襲い掛かる、いくら防弾チョッキを着ているとはいえ、熊の一撃の強さに吹っ飛び負傷していく

「装甲車を持ってこい!」

怒号が響き渡る

隊員達が熊の周りから一斉に離れていく、それと同時に装甲車の重機関銃が掃射される、さすがに熊も重機関銃の前では肉片となっていく

教室からその光景を見ていた一部の生徒たちから歓声が起きる

この時点で生徒たちが気付き始めていた、熊は1頭だではないと

家族からの連絡、動画や、ニュース、次々と情報が流れてくる、それにより次第に学校はもはや膨れ上がった風船のような恐怖心の塊となりつつあった


「これはどういうことでしょう、学校の敷地内で重火器使用は教育上やめていただきたい」

「これはあなた方の為にやっているのではない、隊員達の命を守るためにやってることです」

「しかし、いくらなんでも野生の熊相手にやりすぎではないでしょうか?」

「あれが野生の熊に見えますか?すでにこの区域内には法は存在しない、これは国の決定です」

「それにこの熊のような生物はすでに何体か確認されいます、複数体来られると我々の手には負えないでしょう、我々も命がけだと言うことを事を理解してください」

「そんなことでは納得いきません、しかるべきところへ訴えます」

「その時まであなたが生きていられればどうぞご自由に、ただし命の保証はしませんよ」

指揮官らしき男が地図を広げ、熊の出現ポイントに印をつけていく、区内を偵察に出ている者からの報告が相次いでいるが連絡の途絶えた隊員も少なくなはない

「まもなく2体正門付近に近づきます」

「全員正門から離れろ装甲車で対処する」

そんな中、裏門からの連絡が途絶えていることにまだ気づいていない


学校の玄関から体育館ぬ抜ける間に熊との闘いの様子を見ていた美央は

「やったみたいね」

とつぶやくも三八子にすぐに否定される

「区域内に86体確認、学校の区域内に接近する個体は12体、裏から3体、その内1体と遭遇する確率が99%、どこにいっても危険」

建物の影に隠れながら裏門を目指す三八子達、途中裏門へ逃げてきた住民や先生達が襲われている悲鳴が聞こえてくる、裏門からはすでに熊が侵入しているようだ

正門の方でも激しい銃撃音が聞こえてくる


体育館の倉庫の裏に差し掛かった時

「遭遇率99%、危険」

倉庫の壁を破壊し1頭の熊が姿を現し、三八子達の行く手を遮る

熊は3人を観察した後にしゃべりだす

「おま・・え・・美・・・央・・・・」

「熊がしゃべった」

「魂が2つ混在、危険」

三八子が何かを感じる

熊がなぜ自分の名前を知っているのか、三八子の言葉で倉庫で自殺した啓二の事が頭をよぎる

「もしかして啓二?」

美央は熊に話しかける

「美・・・央・・・・、凛・・・・、どこ・・こ・・・こ・・気配・・する」

「啓二?啓二なの?」

どうやら熊には言葉が届かないようだ

しかし熊は良一の存在に気が付く

「良・・・い・・・ち・・・・、こ・・ろ・・す・・・ころす」

後ろから付いてきていた良一は腰を抜かす

熊はこちらを襲う感じで身構える

「あんたの恨みに巻き添えになるのは御免だけど、この状況は万事休すね」

「死にたくない、死にたくない」

美央の足に縋る良一

「なんだかこういう姿を見るとほんとこっちまで情けなくなるわ」

美央は父から教わった空手を思い出しながら構える

しかし、それを制しするかのように熊と美央の間に三八子が割って入る

「美央は戦わない、私戦う」

「おま・・え、おな・・じ、おなじ、なかま・・・、いや、すこし違う、てき、てき・・・おまえてき」

熊が前足を振り下ろし三八子を直撃する、三八子は腕でガードするも体ごと吹っ飛ばされ壁に激突する、あまりの衝撃に三八子は壁にめり込んだ

三八子の腕の部分に巻かれた布が引き裂かれ、その下から金属のような物が見える

三八子はもう隠す必要はないと体に巻かれた布を取り払う

取り払われた部分からむき出しの金属が現れる

「え、三八子ちゃんの体って・・・」

「そう、金属で出来ている」

「美央さん隠していてごめんなさい、三八子の頭部には私も埋め込まれております」

「え?この声は英二郎さん?」

「はい、そうです、言語機能など不十分な部分を補うために顔の左部分にカメラなども埋め込まれております」

「そんな大事なことを隠していたなんて、なんだか騙された気分です」

「それはすいません、しかし、私はあくまでサポートしているだけで、三八子自身の伝えたい事を言語化していただけなのでご安心ください、今回はあくまで緊急事態ということで」

「わかりました、あまり話している時間も与えてくれそうにないですね」

熊は排除の順番を決める、まずは仲間のような雰囲気をもった三八子が危険だと認識し襲い掛かる

三八子の体が機械で不死、しかも右京滋からの血を30%受け継い体で人と比べるとはるかに優れているが、素手である三八子が、強靭な顎に鋭い爪を持った不死の熊と戦っても勝率は限りなく0に近い、そもそも不死の熊など想定外なのだ、熊の攻撃を躱し素手で攻撃を加えるが熊の皮膚や筋肉は想像以上に分厚く、効いている感じもしない

「困った、不利、逃げて」

「私たちが相手をしている間に裏門まで逃げてください、そこで右京滋さんと合流する手はずになっております」

「でも、三八子ちゃんは・・・」

「大丈夫です、死ぬことはありません」

本当にそうなのだろうか、先の正門での軍と熊の戦いが目に浮かぶ、いくら不死とはいえバラバラにされたら終わりなのではないだろうか

良一は一目散に2人を置いて逃げていく

「さあ、美央さんも早く、でないと美央さんの身に何かあれば夕凪さんに怒られますので」

美央はこの状況で自分がこの場に残っても役に立たないどころか足手まといになりかねない、そう思い

「右京滋さんを呼んできますので、それまで持ちこたえてください」

そう言い残し走り去る、英二郎の事なのですでに右京滋には連絡済みであろうとは予想ができる、なのに現れないと言うことはまだ到着していないのだろうと頭によぎる


後ろで熊と格闘している三八子の腕が引きちぎられる、美央の方へ投げつけられる

美央が走る方向に三八子の腕が転がり落ちてくる

美央はその腕を拾い抱えながら早く来てと願う

三八子も必死に応戦するが、熊の腕力は想像以上だ、腕、足、の順に捥がれていく、残る頭部を破壊されればもうこの体を使うことはできないだろう、熊が最後の一撃を浴びせようと右手を振り上げた時に、三八子は最後の抵抗を行う、左目に仕込んでいたライト機能を利用し、全バッテリーの出力を使い左目焦点を最大にし即興でレーザーを作り出し熊の右手に照射する

熊の胴体を切断するところまでの出力は出ないにしろ、右手だけなら何とかなると英二郎が計算したからだ、レーザーの一撃が熊の右手を根元から切断していく、熊の右手が地面に落ちた

熊は初めて見る武器に一瞬怯む、なにが起こったの理解しているのだろうか、切断された右手を左手で持ち上げ切断部を眺めている

「バッテリー5%以下、英二郎の機能は停止致します」

「英二郎、ありがとう」

三八子は自分の言葉で英二郎に感謝を伝えた

熊は残された右手で三八子に振りかざし、左目のレーザーが破壊される

「おまえ、ころす、おまえ、ころす」

熊は三八子の体に右手を突き刺していく、簡単には殺さない、熊に宿る魂の影響なのか動けない三八子の体をいたぶっていく

「もう、おわる・・・」

そう熊が呟き止めを刺そうとした一瞬だった

熊は右手が振り下ろせない

右手が無くなっていた

「獣よ、お前の探している物はこれか?」

何者かが熊の右手を熊に向かって放り投げた

熊は残された右腕が取られた事に怒り心頭となり全体重を掛け突然背後から現れた男に突進し牙で噛みつこうとした・・・が、熊は顔面を手で押さえられれた、力で負けたのである

熊の力をもってしても動じない、この相手がなに者なのか考える間もなく頭を掴まれたまま男の1激は熊の体を貫く

「所詮、熊とはいえこの程度か」

熊の首を手刀で切断し、両足を掴み股から熊を引き裂いた


美央が三八子に駆け寄る

「大丈夫?話できる?」

「美央無事、よかった」

辛うじてしゃべることができるようだ

「いや、間一髪ってところだね、左京慈に付いてきてもらって正解だったようだ、今の僕では熊の体を破壊するのは厳しいかもしれないからね」

「三八子ちゃんは大丈夫なのでしょう?」

「なーに、僕の友人はお金持ちなので、彼が居る限り体の方は何とかなると思うよ」

「さぁ、それより早くここから退散するとしようかね」

「左京慈周辺を頼む」

「わかった」

「まだ、学校のみんなが残ってる可能性があります」

「うーん、どうだろう、一応軍の方も動いているみたいだし、裏に逃げてきた子達はこっちで保護しているよ、ただ熊がこちらに、まだ集まってきているみたいだからね、流石に左京慈1人ですべてを対処するのは難しいかもね」

「そうですか・・・」

「美央さん、物事なんでもできる事には限界があります、すべてが叶わないなら諦めるという選択をするのも大事ですよ」

「さぁ、三八子を連れて引き揚げましょう」


裏門に避難した人々はグリスが用意したバスに乗り込み避難を行う

英二郎がルートを計算し最善の道を通って逃げていく

通りのあちこちには逃げ遅れた人々の無残な光景が続いていく

ここではもう人は住めないのではないだろうか、誰もがそう思わざる得ないような惨状が続いていた

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