第16話 裏社会の掟(後)


夕凪は喫茶店を出てから雪音の事務所に来ていた


「英二郎は怒るかもしれないけど、敵対しないで欲しいってだけなら別にこちらか何かをする訳じゃないからいいんじゃないの?」


「わたしは特に問題ありません、あれより以前にすでに死んでましたから、それに今の方が満足しています」


「その件に関しては問題ないだろうけど、やはりその智樹って子が気になるね、無茶をしなければよいが・・・」


「やはり見に行った方が良いのでしょうか?」


「うーん、夕凪だけに行かせるのは不安なんだけど、キトさんはどうしたの?」


「今日はセツさんと牡丹餅を作っております、なにかあったらいつでも呼べとはいってましたけど」


そこにデルタが入ってくる


「お久しぶり、あれ、どうしたの深刻そうな話?」


一連の話をデルタに行う


「分かったじゃあ私が車を出そう、時間に間に合うように迎えに行くから夕凪ちゃんは現地に付いても車で待機で」


そういうとデルタは出ていった


「デルタと一緒なら安心だね」


「英二郎もお願い」


「はい、分かりました、何かありましたらすぐに警察へ連絡します」


夜9時の夜十間公園、この公園は夜は暴走族やチンピラ風の人達のたまり場として有名で、そのため治安も悪くこの近隣を通る一般人は居ない


デルタとガンマは夕凪を車に残し公園の中を歩き回る、夜の公園だが明かりを付けられないため慎重に周囲を探索していた、不思議と公園は静まり返っていた

噂では毎晩何かしらの騒音を出しているらしいのだが

「今のところ誰も居ないねとても静かだわ」

「噂と違いますね」

「とにかく早く探し出さないと」


一方公園の脇の道路に1台の黒い車が止まっている

「兄貴、今日はなぜか客が来ないですね」

「こんなこと初めてだな」

「誰一人居ないのもなんかおかしいすね」


そこに智樹がゆっくり歩いてくる

暗がりの中男たちは初めは誰だか分らなかったが

やがて顔が見える距離まで接近すると気が付いた


「てめぇは、あの時の、なんでこんなところに、さてはお礼参りにでも来やがったか」


「お前たちが千沙を、千沙を殺したんだな」


「なんのことだ?」

「いやなにちょっと前に急いでた時に猫かなにかを轢いた気がしたんですけどね、へへへ」

「お前轢いたのか?」

「すいません」

「あんなところをボーっと歩いている奴が悪いんっすよ」


「警察に自首してください」

「はぁ?」

「自首してください」

「お前何言ってるんだ、今更自首なんてできるかよ」

「じゃあこの場で警察に連絡します」

「おいおい、それはまずいな」

「しょうがないな、お前ら殺れ、後は俺が何とかする」

「わかりやした」


男はナイフを取り出し智樹に切りかかる、智樹は男のナイフを持つ手を握り必死になって抵抗している

その間にもう1人の男がどこかへ電話をしていた

「はい、おじき、ちょっと問題がおきまして、例の方々にお願いを致します・・・はい、費用はこちらでもちますので・・・はい、いつもの場所でお願いします」


もう1人の男が電話を切ると

「なにチンタラやってんだよ」

棒のようなもので智樹に殴りかかる、さすがに2人に襲われたらたまったものじゃない、智樹はわき腹をナイフで刺され戦意喪失となる


「ふう、やったか」

「兄貴でも本当に殺しちまって大丈夫なんで?」

「ああ、問題ない、この前のじいさん居ただろう、おじきからあの人に来てもらうよう頼んどいたから、その代わり高いぞ」

「すいません、必死になって稼ぎますので」

男たちは苦しむ智樹のそばでたばこを吸っている


数分も経たずに門佐が現れる


「おや、あなた方は」

門佐は智樹を見る

「やはり、この方とは縁があったのですね・・・」

「じいさん、あとはお願いする」

「はい、はい、では少々お待ちください」


門佐は死体袋を取り出す


「じいさん、そいつは1枚で足りるんじゃないのか?」

「いえいえ、今日は2枚必要なんですよ」

「そうか用心深いんだな」

「はい、そうでないとこの世界生きていけませんので」

「ふん、その年まで生きるとは大したものだな」

「お褒めいただき光栄です」


すると子分の男が崩れ落ちる

「まったく人間とは愚かな生き物だ」

「な、おまえは誰だ」

「今から殺す相手に名乗ってもしょうがないだろう」

「ど、どうして・・・じいさんこれはどういう事だ」

「はて、私たちが依頼を受けたのはあなた方の処分であってこちらの方ではございません」

「組織は俺たちの方を消すのか・・・」

「やっと気づきましたか、だから2枚用意していきたのです」

「た、た、たのむ助けてくれ」

「いや、もうお金もらっちゃってるし」

「お金なら倍出す、いや望み通り払うから、頼む助けてくれ」

「んー・・・、そうだ!」

男はビクッとする

「今回はお金じゃない依頼もあったんだ、だから諦めよう」

男は腰が抜け這いずりながら逃げようとする

「た、た助けてく・・・」

「うるさいな、もう死んでいいよ」

男は絶命した


騒動を聞きつけガンマが姿を現し英二郎に知らせる


「見つけた」


「おや、君はあの時の、君たちはチームで動くんだね」

「じゃあ、この智樹って子を早く病院へ連れて行ってあげなよ苦しんでるみたいだし」


デルタの乗る車で夕凪も駆けつける

「智樹さん大丈夫ですか?」

「ああ、君はあの時の・・・これで千沙に会える、あなたは僕の代わりに恨みを晴らしてくれたんですね・・・」

「まあ、結果的にはそうなったのかな」

「あなた方はこうなることを予想していたのですね」

「さすがにそれは考え過ぎかな、この男たちが何をしているかまでは知っていたし、その情報をこの智樹という子に教えただけで、結果については概ね予想通りになったけどね」

「これはあまりにも酷くないですか?」

「そうなのかなぁ、それはそうと君の石が何か言いたそうにしているけど」

夕凪の石が光っている

夕凪が石を取り出すと

千沙の霊が出てきて智樹に抱き着いた

すると見えているハズのない智樹も千沙を抱きしめるようにしている


「迎えに来てくれたんだね、これで君のそばに行ける」

智樹は生きることをあきらめた

その瞬間2人の魂が消えたように思えた


「これは・・・」


「このまま彼女の死を受け入れて生きていくか、彼女のそばに旅立つか、彼に選択の機会を与えた結果、彼は彼女と旅立つことを決意した、ただそれだけだよ」


「まぁもっとも僕たちは闇社会の住人だから人の気持ちなんてわからないけどね」

「じゃあこいつらの処理もあるのでこの場は退散させてもらうよ」

右京慈たちは去っていった


「あいつら人の気持ちがわからないって言いながら理解しようとしてるんじゃないのか」

「何を考えているのかよくわかりませんね」

「とりあえずこの子は病院へ運ぼう」

「はい」


夕凪にはわかっては居たがデルタたちには見えていない

病院へ運ぶと智樹の死亡が確認された

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