第15話 裏社会の掟(前)

「最近、親から電話が掛かってきたらお見合いしろって五月蠅いのよね」

「わかるわかる」

「でさ、実家に帰ると強引にお見合いさせられてさ、来た相手が超ダサくて、しかも終始無言で汗を拭いてばかり、こっちが気を遣うばっかでさ」

「わかるわかる、私の時なんか母親が一緒に来て超質問攻めで、隣でニヤニヤしてばかりで超最悪」

「やっぱ都会の男と身なりとか比較しちゃうと田舎の男は第一印象でバツって感じ」

「ねぇねぇ、あれって主任の靴野さんじゃない?」

「どこどこ?」

「あそこの席」

「うわ、1人しゃぶしゃぶしてる」

「さすが年期入ってる感じね」

「ああなる前に彼氏探さないとね」

「うんうん」


雪音はドラマを見ながら呟いている

「1人しゃぶしゃの何が悪い、気を使うことなく、誰のも邪魔されず食事に集中できるなんて最高じゃないか」


「食事に集中できるというのはある意味、人として重要な過ごし方かもしれませんね」


「そうだろ、英二郎は分かってくれるよね」


「はい、ところで、話は変わりますがこの一帯のスキャンが完了いたしました」


「気になったので赤き血の一族について調べてみました」


「私が直接会った人物は右京慈という男で右京慈には兄弟と言われているパートナーが存在しています、もう1人は左京慈、先日のホテルで消えた男です」


「左京慈と右京慈は約10年前にこの地方に突然現れたそうです、そして裏社会では左京慈は主に単独で殺しを右京慈は死体の処理を行っていたそうです。」


「しかし、ここ最近は新たな裏社会の人物が現れ今はその人物の下で動いているそうです。」


「その男の名はグリス、残念ながらカメラで姿を捉えることができていません、分かっていることは手練れの側近が2人ほどいるということです。」


「なるほど、とりあえず夕凪にも情報提供しておいて」


「了解しました」


「このまま、大人しくしてることはなさそうな気がするね」


「引き続き監視を行いたいと思います」


「うん、頼むよ」


・・・


夕凪は学校の帰り道を1人で歩いているとなにやら人だかりが

その人だかりの中に、周りの人に助けを求めているかのように訴えている女性の姿を見つける、ただ、その女性がいくら周りに助けを求めても誰も応じる気配は無い

なぜなら、その女性は霊だからである


夕凪は女性に近づくと、女性はこちらに気付いたのか懇願してきた

人だかりの原因がわかる

1人の男がチンピラ風の男たちに絡まれていたのだ

周りは見物しているが誰1人助けようとしない


「おらおら、まだお寝んねするには早いぞ」


チンピラ風の男たちは寝転がっている男性に蹴りを入れている

夕凪が助けに入ろうと思った瞬間、肩を誰かに叩かれる


「お嬢さんは動かない方がいいですよ」


そこには品の良いそして少し貫禄のあるおじさんの姿があった

おじさんはチンピラ風の男たちに駆け寄りなにやら声をかけると

チンピラ風の男たちは退散していった


・・・


「兄貴、あのじいさん何者なんですか?」

「俺たちが表と裏の入口を行き来しているとしたら、あのじいさんは裏社会の門番のようなものだ」

「なんだかおっかないじいさんですね」

「お前たちあのじいさんには気を付けろよ、下手したら俺たちが殺される」

「はい、兄貴」


・・・


「お若いの、大丈夫ですか?」

「はい、おじさんありがとうございます、なんとか立てそうです」

「それはなによりです、この先で喫茶店をやっておりますのでよかったら休んでいきませんか?」

「はい、ありがとうございます」

「そこの勇気あるお嬢さんも一緒にどうですかな?」


夕凪は女性の霊を見ると霊も行きたそうにしていた

「はい、ありがとうございます」


「2人共素直でよい方々ですね」


おじさんにはこの霊が見えている様子はない


少し歩くと喫茶店があった、その古びた喫茶店は非常に歴史を感じさせる入口なのに目立たない、こんなに人通りの多い場所なのにこんなところに喫茶店があるの?と思うくらい、存在感の欠片もない不思議な空間だ

夕凪達は中へと入って行く、すると奥には1人の客が座っていた


奥に座る男がこちらを振り向く

夕凪にはその男の顔に見覚えがあった

以前、私たちを死の世界へ誘い込んだ張本人の右京慈だ

右京慈は親しげに声を掛けてくる


「久しぶりだね、お嬢さん」

「なぜ、あなたが・・・」

夕凪は身構えるが

「ご安心ください、旦那様は貴方と敵対する気はございません」

おじさんはすでにカウンターの中でコーヒーの準備をしていた

そして主人である右近慈にコーヒーを出す


「どうぞ空いている席にお掛けください、今お飲み物をお出しさせていただきます」


夕凪はいつでも逃げれるように出口に近いカウンターに付いてきた男は窓際のテーブルに腰掛ける、幽霊は男の向かいに腰を掛ける


「どうやらあの時と比べかなり成長したようだね、それに変わった物まで連れている」


トラのことが分かったらしい


「警戒するのはよくわかるが、本当に君たちをどうにかするつもりもないよ、だから安心してくれたまえ」


その言葉を簡単に信じることはできなかった


「まぁ、無理もありませんよね、命を狙われた相手を急に信じろなんてね」


「はい・・」


「お兄さんはコーヒーでよろしいですか?」


「あ、ありがとうございます」


「そのケガだとしばらく痛むかもしれませんね、大事にしてください」


「お嬢さんはなにがよろしいですかな?」


「私もコーヒーをください」


「は、承知致しました」


夕凪はコーヒーはあまり好きではない、しかし、皆が飲んでいる物なら大丈夫だろうと思い、コーヒーを一口飲む


「う、苦い・・・」


「ほほほほほ、お嬢さんには少々苦かったですか」

ミルクと黒糖を夕凪の前に置く


「このコーヒー美味しいですね、亡くなった彼女がコーヒーが大好きで・・・思い出します」


「今日は変わったお客さんも一緒に来てるようだね、じい、お冷を出さないと失礼ですよ」


「これは失礼致しました」


男の前にお冷を置く

そのことに男は少し驚いた顔をする


「君には見えてないようだけど、入口から君と一緒に付いてきているよ、そこのお嬢さんには見えているようだったけど」


「はい、チンピラ風の男たち絡まれている時に必死に周りに助けを求めてました、ただ霊なので誰も気づかなかったようですが・・・」


「そうでしたか、彼女が傍にいましたか・・・」


「君が身に着けているネックレスがどうやら彼女との縁らしいね」


「これですか、これは初めて彼女にもらったプレゼントでして、今でも大事にしています・・・、それなのに・・・」


男は泣き出した


「折角おいしいコーヒーを飲みに来てるのに泣かれると困るんだよね」


「すいません、申し遅れました、私は太田智樹と言います、彼女の名前は千沙と言います、千沙はひき逃げにあって、まだ犯人が捕まってなくて・・・」


「ふーん、それは気の毒に」


「君ならなにかできるんじゃないのかね、お嬢さん」


「わ、わたしですか・・・そういえば、まだやったことありませんが」

石を握りしめる


「こころあたりはありそうだね」


「は、はい」


夕凪は石を取り出す


「ほほう、これはなかなかのものらしいね、ますます君たちに興味がわいたよ」


夕凪は石を持つ手で千沙の霊に触れる

すると場面が変わる


夕凪、右京慈、智樹と共に住宅街に立っている


「ここは、なんの変哲もない住宅街だね」


すると坂から千沙が歩いて降りてきている

その後ろから猛スピードで車が下ってきた


智樹は思わず声をあげる

「千沙!」


その瞬間、千沙は車に轢かれた


引いた車の運転手を見ると、あの昼間のチンピラの1人だった

車はそのまま逃げ去っていく


智樹は千沙に駆け寄り抱き寄せる


「あなたに、あの日、約束の時間に行けなかった事を謝りたくて、ごめんなさい・・・」


「なにを言ってるんだよ、謝らなくていいんだよ・・・」


「ごめんね、周りが見えてなくていつも迷惑ばかりかけてたから、智樹に苦労ばかりさせて、ごめんね・・・」


「何を言ってるんだよ、もう謝らなくていいから」


夕凪は千沙の肩に触れると千沙の顔が安らいでいく


「ありがとう、あなたが智樹に合わせてくれたのね」


「ありがとう・・・」


そういうと千沙は光に包まれながら薄くなり消えていく

智樹の腕の中から千沙が消えると智樹は何かを決意したのか力ずよく立ち上がる


すると元居た喫茶店に戻っていた

「2人共ありがとうございました、これで決心がつきました」

智樹はコーヒーを素早く飲み干し、喫茶店を出ていった


「ありゃ死ぬ覚悟かもしれないね」

「そうですね旦那様、非常に強い意思を感じました」


「あの、こういう事はお願いできる立場にないと思うのですが、あなた方なら犯人を捕まえることはできないのでしょうか?」


「んーまあ、できないことはないが、あまり干渉はしたくないんだけどね」

「ただあなた次第では協力できないこともない」


「交渉という事でしょうか?」


「いや、そもそも君たちの方が強いから交渉できるなんて思ってはいない」

「ただ僕たちがグリスと戦う時には向こう側には付いてほしくない、ただそれだけで良いんだけど」


「敵対したくないと」


「つまりはそういう事だね、今回はグリスの命令で初めて君たちを監禁しようと試みたけど結果として失敗しちゃったし、元々そんなに乗り気でもなかったから」

「申し遅れました、私の名は門佐と言います、以後お見知りおきを、旦那様には昔から仕えております」

「旦那様はあの時、グリスをおびき出し、あの刀で戦おうと思っていたのです」

「あの刀に特殊な人間の血を吸わせることが目的でして、なのに予想外の展開になりどうやら不測の事態が起きたようで、亡くなった方には申し訳なく思います」

「僕たちも一般人にはあまり手を出したくないんでね」


「急には信じられないです」


「返事は急がないから、とりあえず敵じゃないと思ってほしいだけなんでね」


「それとさっきの話、解決はするとは思うけど君の思う結果になるとは限らないから、もし興味があるなら夜の9時に夜十間公園のあたりに来るといいよ」


「はい、わかりました」


夕凪は喫茶店を後にする

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