第17話 霊を感じてから見る

「今日は会社の方でAIに関する予算が増強されたようで早速記憶容量も増加されたようです、これでまた活動の範囲が広がりそうです」


「この辺りに関しては会長が積極的に動いてくれているので一応安心しております」


「あと、区内の博物館に面白い資料を見つけました、持ち主が寄付をした物の中にはいわくつきの物もあり、興味がありましたので一応リストにしておきました」


「なるほど、報告ありがとう、この資料は何かに使えそうだね」


「あと気になる事が発生しておりまして、区内で若い女性の行方不明事件が起こっております、監視カメラの映像を調べてみたのですが、カメラの位置を把握した上での犯行らしく記録には一切残っておりません」


「この間の右京や左京の仕業ってこと?」


「断言はできませんが、カメラを意識する辺りは人のしかもプロの犯行ではないかと推測します」


「この件はデルタさんに任せよう」


「了解です、連絡しておきます」


なにも仕事の無い事務所だったが、英二郎がいろいろと調べてくるおかげで、暇では無くなってきていた

むしろ自由に、自分の興味のある事にだけ関われる環境に雪音にとっては大変満足している、初めは心霊映像に興味を持っていたが最近では他の関心事に忙しい

なんの取柄もない自分がこんな特殊な事に関われ、その1員として動ける事への充実感に酔ってしまうほどだ


雪音には霊的な物を検知する力はない、しかし、英二郎は別だ、スマホのカメラを通じて判断してくれる


今まで蓄えられていた倉庫の物もこの力を利用して本当に要らない物を徐々にだが処分している


それにしても残ってくる物には少々嫌な共通点も感じている


「これって英二郎はどう考える?」

「たしかに共通点が見えてきますが、データとしては少ないので少し結論づけるのも早いかと思います」

「そうだね、もう少しデータを取ってみた方がよいかもしれないね」


そういいながら2人は倉庫の整理を行っている


・・・・


一方夕凪はいつもの帰り道から少し違う場所を歩いている

キトから受けた課題をこなす為だ


子供の頃から自分の見える世界は他人も見えていると信じていた

しかし、母が亡くなってからその考えが変わる

むしろ、目の前を通り過ぎる人の顔ですらもしかしたら他人と自分では全く違う顔に見えているのかもしれない、そう思ってしまうほどだ

空を見上げると雪の結晶の様な整列された幾何学模様が規則正しく動いているのが見えることもある


「あれも他の人には見えていないんだろうなぁ」


思わず呟いてしまう


公園の中を感覚を頼りに歩いてく

目で見るにはその物が光を反射して初めて視認できる、しかし、霊のすべてが見えるわけでもなく昼間でも黒くモヤモヤしている霊も多い、つまり光を反射していないからだろう、ただ、まったく見えなくても気配だけを感じる霊もあり、どうしてもそう感じた場所に行くと目に頼って探してしまっていた


今までは感じても見えない事で安心することもあったが、それがキトさんとの特訓で徐々に変わってくる


脳の仕組みがどうなっているのか、他人と自分の違いなど判らない

ただ、感覚として電波の受信できる幅が広がったとしか表現ができない


「見えた」


いつしか霊とシンクロすると見えるということが後からやってくるのだと思わされた


「子供かな」


長い年月この辺りをさまよっていたのだろうか、目の前に現れた霊は黒くモヤモヤしているが薄い影のようだ、大きさや仕草が子供なのだろうと感じさせてくれる


なにかに導かれたのだろうか、子供らしき霊は風に吹かれて飛んでいくかのように静かに移動していく


公園の遊具場ではたくさんの子供たちがはしゃいでいた

それをジッと見ているような感じで佇んでいる

夕凪と霊はしばらく同じ時を過ごす


しばらくすると子供たちが帰りだした

すると子供の霊はなにやらこちらを見ているかのように感じた


「遊びたいの?」


こちらの問いかけに薄い影のような霊がうなずいた様に思えた


「よーし、じゃあ遊ぼうか」


薄い影は喜んでいうかのようにクルクル回り遊具へと飛んでいく

霊がブランコに乗り、夕凪がそれを押す


「ねぇ、お母さん、あのお姉ちゃん1人で何やってるの?」

「ああいうのをあまりジロジロみちゃいけません」

「はーい」


当然傍から見ると1人で遊んでいる少女にしか見えないのだろう

しかし昔からいろいろ奇異な目で見られてきた夕凪は特に気にもしてなかった


やがて石が暖かくなり、取り出すと白く光り輝いている

子供の霊らしき影が石に向かって飛び込んで行き石の中へと消えていった


「・・・ありがとう」


そう聞こえたかのように感じた


・・・


ガンマは門佐の喫茶店でコーヒーに舌鼓を打っていた


「やはりここのコーヒーは別格に美味しいですね」


「ありがとうございます、旦那様が特別な布を持ってこられまして、この布おかげで小さいながらお店を始めることができました」


「しかしこんなにおいしいコーヒーなのになぜかお客が居ない、不思議です」


「利益を出そうなんて思っていません、むしろ自分の招き入れたい人だけが楽しんでもらえればそれで良いのです」


「そうでしたか、余計な詮索をしてしまい申し訳ない」


「いえいえ、お気になさらずに」


「ところで、最近この界隈で若い女性の行方不明が発生しておりますが、ご存じないですかな」


「そうでしたか、とうとう、というところでしょうか・・・」


「やはりなにか心当たりがあるようですな、例のグリスとかいう人物に関係が?」


「さあ、どうでしょう、いよいよコップから水が溢れ出したのかもしれません」


「所詮は裏方、我々もそう長くはないのかもしれないですね」


「そうでしたか、コーヒーごちそうさまでした、また来ます」


「ありがとうございました、いつでも寄ってください」


それを最後に喫茶店の扉は閉まったままとなる

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