第11話 背中から血が・・・

「マリ、早くお風呂から出なさーい」


湯船に浸かりながらスマホを見ていたらいつの間にか1時間くらい経過していた


マリはお風呂から上がると体を拭き髪を乾かす

その最中に不図背中に冷たい物を感じた

背中を拭き忘れたのかと背中を触ると背中に液体を感じる

背中を触った手を見ると手には真っ赤な血が付いている

鏡を見るとシャツの上から血がにじみ出てきていた


マリはその場で悲鳴を上げ救急車で運ばれた


・・・・


「最近、大西区で奇妙な事件が多発しているようですね」


「どんな事件?」


「共通する点は背中を切り付けられる事件ですが、服に切られた跡がないのが特徴で、一番最近では自宅のお風呂場で切り付けられたそうです」


「ふむふむ、それは奇妙だね、で被害者の容体は?」


「いずれも縫うほど深い傷ではないそうです」


「なるほど、なるほど、面白そうな事件やな」


「うは!キトさんびっくりさせないでください」


「ごめんごめん」と言いながら少し楽しそうに笑っている


キトは少し考えながら

「これくらいやったら夕凪の修行になりそうやな」


「夕凪ちゃん修行してるの?」


「当たり前やで、あの石を持っていると望まなくても危険が寄ってくる、うちらが傍に居るからと言って何もできないとかえって危ないからな、ある程度対処できるように訓練も必要なんやで」


「では私も記録係としてお傍に付いて行ってもよろしいでしょうか?」


「ええで、じゃあ一緒行こか」


キトは神棚の前に立ち


「神様、夕凪の修行に行ってきます」

とお祈りをし、英二郎を連れて消えていった


「ああ、やっと静かになった、英二郎と一緒にいるとなんだか肩が凝って・・・」


するとパソコンから声が聞こえてきた

「そういう訳にはいかないんですよね」


「うわ、びっくりしたいつの間に戻ってきたの?」


「すでにみなさんをネットワークで繋がせていただいておりますので」


雪音はネットの回線を切断する


「いやいや、すでにパソコンの中に入っておりますので、そんなことしても無駄です」


「英二郎の居ない世界に籠りたいよ・・・」


今まで人との会話を積極的に行ってこなかった雪音には英二郎が少し重荷になってきていた


・・・・


深夜の大西区


キトと夕凪が歩いている


「石は常に地肌に身に着けると、より感覚が研ぎ澄まされていくからまずはそこからやってみよう」


「今日は記録係に英二郎も一緒に来てるで」


「夕凪ちゃーん、私も見てますよ」


「雪音さんまで・・・」


「私たちは口出ししないので気にせず続けてね」


「あ、はい、わかりました」


夕凪は石を手に持ち集中している


「あ、なんだかこっちの方に何かを感じます」


「ふむふむ、ではそちらへ行ってみようか」


夕凪はなんとなくの気配のような感のようなはっきりとしない感覚を頼りに歩いていく


すると石に新たな感覚を感じる足を止める


「なんだかこの辺りに来ると石が温かいように感じます」


「ふむふむ、じゃあ、大体でええからその方向は分る?」


目を瞑り石の持つ手の角度を変えながら感じたままをキトに告げる


「どうやら上の方が少し暖かいように思います」


「よし、じゃあ屋根の上に登ろっか」


キトは夕凪を抱えると一気に屋根の上に飛んだ

夕凪は思わずちょっと声を上げて叫んでしまった


「もう、キトさん急にびっくりさせないでくださいよ、心臓が止まりそうになりました」


キトは人を驚かせてその反応を楽しんでいるようだった


「まぁまぁ、そんなことより屋根の上でなんか感じる?」


「んーー、あ、屋根の端になにかいますね、はっきりとは見えませんが小さくて動物に見えますが・・・」


「害はなさそうなんで、近寄ってみよっか」


近くに寄っていくと小動物の姿がはっきりしてくる


「なんかイタチみたいな姿やな」


「この子フェレットですね」


フェレットは夕凪達に気が付くと空中を舞いながらまとわりついてきた


「この子人懐っこいですね、かわいい」


「夕凪の魂に反応したんやな、無垢なる魂には伝わるんやろう」


するとフェレットは急に何かに反応を示したかと思うと、急に飛び出していく


「キトさん!」


「よっしゃ、付いて行くでしっかり掴まりや」


フェレットは屋根から屋根に飛び乗っていく


その速度に付いて行くキト、夕凪は必死にキトにしがみ付いている


「落ちても拾ったるさかい、安心しいや」


その言葉になんだかわざと落とされそうな嫌な予感がした


するとフェレットは深夜で閉鎖されたどこかの会社の駐車場へと降り立った


キト達が同時に降り立つ


「寒い・・・、キトさん石が異様に冷たく寒く感じます」


「うん、いるな」


より石が冷た方向に向くと


なにか黒い塊の靄のようなものが移動しているのが見えた


フェレットがその靄に突撃すると、靄が広がる


黒い塊は人の形へと変化していく、逆立った髪に両手を広げフェレットを振り払おうとしている


「黒い霞が周辺から集めってきてますね、なんだか周りまですごく冷たくて寒いです・・・」


「うむ、周辺の黒い霊気をどんどん取り込んできているな」


「おそらく、通り魔の原因はこやつらやな」


夕凪は寒くて縮こまっている


「夕凪、黒い塊をよーっく集中してみ、なんか分からへんか?」


夕凪はしばらく集中してみる

「なにか見つけました、冷たい寒いの他になにか違った不思議な感覚を感じます」


「おそらくあのイタチに反応してるんやろう、そしてあのイタチもそれを取り戻そうとしている、そんなところやな」


「なるほど」


「じゃあ今日の修行は終了ってことで、ほな帰ろか」


「キトさん待ってください、このまま帰るのは、あの子がなんだかかわいそうで・・・」


「ん、いまの夕凪では対処できないから、対処できないときは諦めるのも肝心やで」


「それはそうなんだけど・・・」


「キトさーん、口出しする気はなかったのですが、これ以上怪我人が出ないためにも、私からもお願いします」


「雪音さん、ダメですよ約束を守らないと、それにこちらへ向かって襲ってくるわけでもなく、単に巻き込まれてケガしても大したことないですし、原因が分かればそれで安心ですよ、他人の喧嘩には口出ししてはいけません」


「英二郎はもっと、人間としての気持ちというか、やさしさと言うか、分からなかな」


「そういうデータはまだ蓄積されてないようですね」


「はぁ~」雪音のため息が聞こえてくる


「分かりました、じゃあ私がなんとかしてみます」


「夕凪ちゃん?」


夕凪はなんの策もなく黒い塊へと突進していく


突進してくる夕凪に黒い塊が毛を振り回し攻撃してきた


夕凪は一瞬手で庇おうとしたが、フェレットが髪の攻撃を防せぎ夕凪の前に立ちはだかった


庇おうとした夕凪の手に薄っすらと血が滲む


「あぁ、あぁ、しょうがないな、今回は襲われてケガしたってことで特別やで」


そういうとキトは1本の小刀を取り出した


夕凪は目の前にいる塊よりもっと恐ろしい寒さを小刀から感じた


鞘から抜かれた小刀には紫色の何かが蠢いている、よくみるとそれは小さな手だった


小刀から小さな手が無数に藻掻いている姿に夕凪は禍々しさを感じた


「その感覚も覚えときや、ほな行くで」


キトは目にも止まらぬ速さで踏み込み切り込んでいく、その力強さ故にアスファルトに足形が付くくらいだ


フェレットの求めていた物は一瞬で切り離された


その瞬間フェレットも突撃し目的の物を咥えた


フェレットは夕凪達を見つめまるで礼をしたかのような仕草をして去っていった


切られた黒い塊は小刀の小さな手によって小刀の中へと引きずり込まれていく


やがて大きな黒い塊は消え、残りの黒い靄は霧散していった


キトは小刀を鞘に納める


「英二郎、記録したか?」


「はい、記録しました」


「んー、英二郎のカメラを通じると見えるものなんだね」


「普通の人には見えへんやろな、英二郎には生前の能力は継承されてるってことやな」


「キトさん、ありがとうございました」


「気にせんといてや、それより今日は姉上の作った牡丹餅が待ってるんや、黄泉のもち米と小豆で作った牡丹餅は最高なんやで、特に姉上の小豆は最高すぎてほっぺたが落ちるほどや」


「キトさん、よだれが・・・」


「余ったらもって来るさかい、楽しみにしててや」


《どう考えても余らないでしょ》


「いえいえ、気にしないでください」


「え、黄泉の食べ物!食べてみたーい」


「雪音さん!」


大西区ではフェレットの走り去った後の鈴の音が鳴り響いていた

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