第10話 神棚を作りました

ある日の夕方、雪音は1人事務所で英二郎と会話をしている


あれから小池さんは会社を辞めたいと言って辞表を置いて去っていった

課長はいまだ連絡が取れない

大北区のテレビの怪異は一応に解決したようだ


「はぁ、一体どうなっているのやら・・・」


「英二郎はなにか知っている?」


「課長の名前を会社の社員データに照らしてみてもなにも出てこないですね、おそらくは偽名だったのではないでしょうか」


「うーん」


「実は気になって自分たちのデータも調べてみたのですが一切のデータがありません」


「つまりは?」


「自分たちはこの会社の人間ではなく外部の人間という扱いになっているようです」


「その会社の代表が大杉火武義、この会社の会長です」


「なるほど会長直属の会社か、そりゃ自由に出入りできるはずだ」


「英二郎と会話をしていると


扉をノックする音が聞こえる


「はい、どうぞ」

雪音は怠惰な返事を行う


「失礼します」


入ってきたのはデルタと名乗る女性であった


「先日はお世話になりました、話声が聞こえたようで誰か居るのでしょうか?」


「いやいや、たまに独り言をいう癖があって、あははははぁ」


するとデルタの後ろから眼帯をした背の高い品の良いお年寄りが姿を現す


「先日は孫娘が世話になりすまなかったな、礼が言いたくてこちらに参ったのじゃが、お主1人かな」


「はい、そうですがどちら様で・・・」


「わしは大杉火武義といってここの会社の会長をやっておる」


雪音は椅子から立ち上がり


「どうもすいませんでした、どうぞこちらへおかけください、いまお茶を入れます」


「この通り孫娘がじゃじゃ馬で、息子たちもほとほと手を焼いて追ってな、しかし、今回危険な目に合わせてしまったことに、わしも非常に後悔しておるのじゃよ」


「そうでしたか・・・」


雪音はお茶を入れながらとりあえず小池のことや課長が居ないことを説明した


「ふむふむ、ところでもう1人行方不明の者が居るじゃろう、雪音殿はご存知ないかな」


会長の鋭い眼光に威圧され


「ええーまあ・・」


と歯切れの悪い返事をしてしまう

雪音は話してよいのやら少し迷っていると、扉をノックする音が聞こえた

雪音は時間稼ぎができると思いながら扉を開けると


「すいません、英二郎さんに呼ばれてきたのですが・・・」


そこには夕凪の姿が・・・


《これは最悪のタイミングだ、もう隠すことはできないだろう》覚悟を決める


「会長、今回の件につきまして、この夕凪さんが来るまでお話をするのを待っておりました」


「おお、そうであったか夕凪さんとやらもこちらで一緒に座って話を伺おうではないか」


「はい、お邪魔します」


「こちらをご覧下さい」

雪音はスマホをテーブルの上に置く


「ほほう、これは雪音さんの趣味かなにかですかな?」


夕凪は目を背けている


雪音がスマホを覗くと

「うお!、いやいや、これは・・・、英二郎!スマホを叩き壊すよ」


「いやいや、どうもすいません、皆さんお騒がせしました、英二郎です」


「おおー、なんと」


「これは驚いた、こんなことが可能なのだろうか」


「英二郎さん、生きていたのですね」


《これは生きていると呼べるものなのだろうか》


「ということで、人の肉体は消滅しましたが、今はそういう感情も無く、睡眠、食事など一切無く快適に毎日を過ごしています」


「なるほどなるほど、先日からわが社で極秘に開発していた人工知能が突然消失したのじゃがなにか関係がありそうじゃな」


「この会社のデーター関する事にはすべてアクセス可能です、セキュリティがかかっていても問題ありません」


「はーはっはっは、これは失礼、なんとも素晴らしいではないか、なんにせよこれが外部に知れたらおそらく殺してでも奪おうと思う輩が後を絶たないだろう、いや国単位で動くかもしれん、くれぐれも内密にしないとな」


「さてさて、良い物を見せてもらったのう・・・、ん?ところで夕凪さんとやらなにやら不思議な石をお持ちですな」


「はい、おじいさんどうしてわかったのですか?」


「実はわしの左目はこの通り義眼が入っておる、しかも普通の義眼ではないぞ、霊的な力の持つ物を感じてしまう義眼なのじゃよ」


夕凪は石を取り出す


「おおーこれは、一体どこでこの石を手に入れたのじゃ」


一連の経緯を説明する


「なるほど、その3人のうちの1人は、わしが探し求めていた方々やもしれん、またその方々に会われたらじいさんが礼を言っていたと伝えてくれぬか」


「はい、わかりました」


「さてデルタよ、帰るとしようか、今日は良い収穫であった」


「あのー、私たちはどうすればよいのでしょうか?」


「特に何もする必要はない、給料はそのまま出しておくので、ここで仕事の振りでもしておいてくれたまえ」


「では、お嬢さん方失礼させていただくよ」


そういうとデルタと会長は部屋を出ていった


「はぁ、緊張して思いっきり疲れたよ・・・」


「夕凪ちゃん、ごめんね呼び出しといて、まさか会長が来るとは予想外だったんで」


「いえいえ、気にしないでください」


「英二郎は会長のことどう考える?」


「今のところ情報が少ないので、調べてみます、一応監視もしてみます」


「監視ってそんなこともできるの?」


「はい、カメラのある場所ならすべてにアクセス可能です」


「こいつは驚いた、夕凪ちゃんカメラの機能は切っておいた方がよいよ、少し変態が入ってる人工知能だからね」


「安心してください、そういう感情も機能もついておりませんので」


「英二郎は人から外れて行っているようだね」


「人間の世界ではすでに死を迎えていますので」


「夕凪ちゃんを呼んだのは英二郎の状況を説明するためだたんだけど、もうなにも説明は要らないね」


「・・・・」


夕凪も初めて見る人間が転生した姿に少しどういう対応をしたらよいのか戸惑っていた


「じゃじゃーん」


夕凪の背後から突然大きな声でキトが現れる


「もう、キトさんびっくりさせないでくださいよ」


「へへへ」


「それにしてもここの倉庫には面白い物がいっぱいあるんやな」


「ということでじゃじゃーん、なのだ」


キトは不思議な色の石を取り出す


「会社の物に勝手に触ると・・・、怒る人はだれもいないか・・・、ところでその石は何?」


「資料によりますと、昔の病院の神棚に祭られていた物らしいですね、建て替えの際に捨てるに捨てられずここに運びこまれたようです」


「人にとってはただの石かもしれんけど、よーく見ときや」


キトは夕凪と同じような石を取り出し念ずる


すると1人の少女ような姿をした何者かが現れる

キトはその少女に膝を付く


「キトよなかなかよい場所ではないか、よし、しばらくここに滞在するとしよう」


「ははー、ではこちらに神棚を作らせていただきます」


「キトさんこちらの方は・・・?」


「皆の者、驚くがよい、この方こそが神様なのだ」


「えええ!!!」


長い1日が続こうとしていた

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