第12話 血染めのドレス

夜中の1時過ぎ、壁から音が聞こえてくる

最近借りた古いアパートなのでまさかとは思っていたが、やはりこのアパートは出るのかもしれない


音のする壁の向こうの部屋は空き部屋だからだ


大家さんにこのことを言っても上の階の音が響くことがあるからと取り合ってはくれない

あまりにも気持ちが悪いので音が出たら大家さんと隣の部屋へ行ってみると今晩約束をした


そしてその時が来たのだ


さっそく大家さんに電話をしてみるが、大家さんは電話に出る気配がない


「やっぱり逃げたか・・・」


しかし、もしもの時のためにスペアキーを預かっている

深夜1時の静まり返った廊下へと出る、本当にここに人が住んでいるのかと思うくらい外は人の気配がしない


隣の部屋の扉の前に立つ


何かが飛び出てくると怖いのでなるべく音が出ないように鍵を開け慎重に扉を開ける


真っ暗な部屋にはなにかがいる気配はしない


懐中電灯を照らしながら一通り部屋を見て回るみるがやはりなにもない


自分の部屋と隣接する部屋に立ち静かにしてみる


すると自分の部屋の方から音が聞こえてく


壁に耳を当ててみると

「ペタン、ペタン、ペタン」


この部屋の方が少し音が大きい


壁に近づいて初めて気が付いたのだが


白い壁の下側に何か滲みみたいなものがある


少し触ってみるとじんわりと湿った感じがした


指で少し押してみると壁が柔らかいせいか指が壁にうまる


そして指が引き抜いた瞬間、指に大量の血がベットリ付いていた


おもわず悲鳴をあげる


現場はパトカーも来ていて騒然となっていた


・・・


「以上が最近の怪異です」


「ふむふむ、すると上の階の住人が殺されていたってことなの?」


「いいえ、そもそもこのアパートには通報者以外だれもいなかったそうです」


「大家さんは?」


「大家はそれ以来行方不明だそうです」


「じゃあその血は一体だれの血だったのでしょう?」


「警察が調べた結果では死体は出てないそうです、ただ床をめくった時に大量の血が溜まっていたのと、それは一応、人の血液だということが判明しております」


「じゃあ大家さんがその場で殺されて連れ去られて可能性は?」


「そもそも、音の件で大家さんに相談している事態、大家は生きていたことになります、それにこの大家が何者なのかも判明しておりません」


「不動産はどうなっているの?」


「持ち主は管理会社に任せてあり、管理会社は又貸しをしていました、その先の会社の代表者はすでに死亡しており、管理会社も大家と名乗る人物が責任者だと思っていたそうです」


「管理会社も大変だね」


「でも霊と関係がなさそうですね」


「いいえ、それが最近では、誰も住んでいないアパートのはずなのに夜中に人影を見たなど幽霊アパートになっております」


「なるほど、近所でも有名な幽霊アパートか、なんだか肝試しレベルだね」


「じゃあ、これなんかどうですか?」


「1枚の写真を映し出す」

そこには白い服を着た女性らしき霊が写っていた


「これは・・・明らかに霊ですね」


「なんだか苦しそうな表情をしてますね」


「体術の訓練としては面白しろそうではあるな」


「あら、キトさんいつの間に」


「うちはいつでも夕凪の近くにおるんやで、雪音には見えやんようにしてるだけや」


「そうなの?」


「そうみたいですね・・・」


「よし!出かけるぞ!」


キトは神棚に手をやり

「神様、夕凪の体術の稽古に行ってまいります」


「今回も英二郎を借りていくで」


「どうぞお好きなように使ってあげてください」


・・・


深夜の1時、現場のアパートへと到着する


夕凪は石を手に持ち集中する


「なんだか冷たいのと温かいのが交互に感じます」


「うむうむ、ではどういう霊なのか確かめに行こう」


霊の写った部屋は2階のある1室の窓である


写真を確認しアパートの敷地内へと向かう


アパートは不思議と侵入禁止でもなく誰でも敷地へと入れた


階段から2階へ上がり部屋の前に到着する、やはいというか


「鍵がかかってますね」


「よしよし、英二郎や間違いないな」


キトがカギを差し出す


「はい、この部屋の鍵のデータを元にキトさんが作成しました」


「なんかすごいですね」


「まったく、便利な世の中やな」


鍵を開け部屋に入ると月明かりに照らされ薄っすらとした人の影のような物が見える


禍々しさは無いが、手の中の石は相変わらず冷温を交互に行っている


キトは床に小刀を刺し

「今ならその霊がなにを伝えたいのか読み取ることができそうやな、1回やってみ」


夕凪は石を手に霊にかざす、今度は集中するのではなく全身の力を抜きリラックスしていく

極限までリラックスをし頭の中を真っ白にしていく、やがて頭もボーっとしてきて意識が遠のきそうになった瞬間、いろいろな断片的な写真を見せられたかのような情報が入ってくる


あまりにも一度に多くの写真を見せられても頭が付いて行けない、すべてを覚えるのは到底無理だ、しかも時間的なつながりもなくバラバラしている


その中でも特に印象的なのがこの霊はこの場所で殺された人物であると言うことだ

それと殺された人物のやさしさも情報として伝わってきた


「もしかしてこの霊はこれ以上犠牲者が出ないように、入居者が来ないよう、ここを幽霊アパートにしているでしょうか」


「そんな感じやな・・・、ということで」


次の瞬間何者かが突撃してきた


「まあ、気配は感じてたけど、愚かな人間やな」


突撃してきた男は部屋に入ってきた途端に亡者達に絡まれ動きが止まった

霊の見えない男にはなぜ動けなくなったのか理解ができない

男は口を利くことすらできない程体の自由は奪われていた


「夕凪、油断したやろ、霊を感じることも大事やけど、特に殺人現場らしきところは犯人もいる可能性が高いっちゅうことやで」


「はい、師匠」


「師匠ってなんかベタやな、まあそれはええとして、相手はこちらが油断している最高の瞬間と思いこのように突っ込んでくる、襲われるときはいつも突然だと思った方がよい」


「それで今回のような腰に手を当て両手でナイフを握っているタックルするように突っ込んでくる場合は初撃をいかに避けるかが課題だ、無手の場合、相手を攻撃しようなんて思わない方がよいぞ」


「出口は男の後ろなので出来ればそちらを目指して逃げたいところやな、如何にして男の横をすり抜けるか、仮にすり抜け背後を取ったとしても、逃げられると思った相手がナイフを振り回してくる可能性が高い、それそれで見切ってナイフの持つ手を掴むなり弾くことができればなんとかなるが、夕凪の体格では難しいやろな」


「今回はこっちに小刀があるさかいに、下段から相手の喉元に、ブスリと突いてもええけど」

男の喉元に小刀を突き立てる


「そんな動きキトさんにしかできないですよ、それに、その人は殺してしまうってことですか?」


「こんなことをしでかす奴なんか警察へ突き出すより殺したった方がええやろ」


いま自分を殺そうとしてきた相手に同情の余地はなかった


「それにこっちの幽霊も用事あるんとちゃうかな」


夕凪の持つ石が非常に冷たくなっており暖かさはすでに感じない

おそらくこの男に殺されたのだろう


霊から黒い霧のような物が溢れ出てきている


「取り合えずこのナイフは没収させてもらうで」


動けない男からナイフを奪う


「なんか言いたそうやな」


キトは男の首に刀を突きつけながら


「最後に言い残すことはないか」


キトは男がしゃべれるようにする


「こ、殺してやぁるぅぅ・・・」


「あ、やっぱあかんはしゃべれせてもろくな事言わへんわ」

再び男の口を閉じさせる


「まぁええわ、夕凪よく見とくんやで」


キトは石を取り出す、キトの石は夕凪と違い黒く光っている

取り出した石を手の上で器用に回転させる


すると石が隣にいる霊を吸い込んでいく

霊が吸い込まれた瞬間、場面が変わっていく


「ここは・・・、教会でしょうか・・」


「そのようやな」


純白のドレスを着た女の人が中央から歩いてくる


「あなたのせいで・・・」


「1か月・・・、ここで式を挙げるはずだったのに・・・」


女性の白いドレスがやがて血に染まり赤くなっていく


「げほ、げほ・・・」


女性は血を吐きだす


「なんだか苦しそうですね」


夕凪は女性に近寄り背中をなでる


「大丈夫ですか?」


「あ、ありがとう・・・、あなたに触れられた瞬間なぜか痛みが楽になったわ」


「さて、審判の時やな」


するといつの間にか周囲に並べられた椅子に亡者達が座っている


亡者たちは一斉に


「殺せ、殺せ」

「肉だ、血だ」


騒ぎ立てている


キトは女性に槍を渡す


「さあ、これで恨みを晴らすがよい」


女性は槍を手に取り立ち上がる

男は亡者達に両脇を抱えられ拘束されている


女性は恨みを込めて男の肩に槍を突き刺す

男は痛みでもがいている

それを見た女性は槍から手を放し、後ずさりする


「やっぱ私には、殺すことはできない・・・」


「・・・あなたの気持ちわかります」


「2人とも甘いなぁ」


キトは男の拘束を解く

その瞬間、男は肩に刺さる槍を抜き、キトに覆いかぶさる

男はキトに向け槍をてめった刺しにしている

あまりにもとっさの出来事に2人に共反応できなかった


「きゃははは、あはははっは、死ね死ね」


「キトさん・・・・こんなの狂ってる・・・」


突き刺す度に血が飛び散り、地面が血で赤く染まっていく

亡者たちも血を被り歓喜している


夕凪の後ろから声がする

「2人ともよく見ておけ、あれが狂人というやつだ、まるで話など通用しない」


「キトさんいつの間に」


「うちがあんな奴にやられる訳ないやろ」


夕凪は男を見ると、男は必死に自分と同じ姿をした者を突き刺している

それに気づいた男が怯んだ


「どうや?、自分で自分を刺す気持ちは、満足したか?」


男は一瞬理解できないが遅れて男に激痛が襲ってくる


キトは血を流して倒れている男の方を見ながら

「ああーあ、これで肉体の方は死んだな」


「お主はどうも手癖が悪いな」


キトは小刀で両腕を切断し、小刀を鞘に納めたあと指を鳴らす


すると周りに居た亡者たちが横たわる男の肉に群がる

男にはそれを止めるすべはない


「さて、帰ろか」


「あのー、この女の人はどうすれば・・・」


「こっちの姉ちゃんは理解してるみたいやな」


「はい、こちらの夕凪さんに触れられた瞬間理解できました、ありがとうございます」


「うむ、では安心していくがよい」


女性はいつの間にか血の跡も消え真っ白な姿になり消えていった


夕凪が女性に触れた瞬間から石から冷たさが抜け暖かく感じていた

「私、役に立ったのでしょうか?」


「夕凪にしか出来へん事をやった、それだけで十分や」


「ところで英二郎、今回はどうであった?」


「あれ?英二郎さん居たんだ」


「はい、いろいろと勉強させられました、やはり危険が伴う分、今の夕凪さんにはある程度の装備は必要かもしれませんね」


「そうやな、英二郎もその辺り頼むは」


「了解です」


それ以来アパートから霊のうわさも消え、やがてアパートは取り壊され、駐車場になっていた

駐車場の脇には誰が置いたか花が添えられていた

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