第6話 血肉に飢えた亡者たち

「おかあさ~ん、おとうさ~ん」


女の子は泣きながら山を彷徨っている


どのくらい山深い場所まで迷い込んだのだろう

人の存在を示す物など周辺には全く感じられない

そんな人の気配がまったく無い場所で女の子は1人の少女と出会う


少女を見つけた女の子は少し安心したのか愚図りながら少女の元へ寄っていく


少女は少し驚いた感じで

《この子私の事が見えてる、見込みありそうね》


「お父さん、お母さんとはぐれちゃったの?」


女の子はうなずく


「道に迷ってたらお姉ちゃんを見つけたの」

そういうと女の子はまた泣き出した


「うーん、そっかそっか、じゃあ泣き止んでくれたらお母さんの所へ連れて行ってあげる」


「ほんと」


「うん、約束しよう」


少女は女の子の手を取り山を下りていく


「この山は珍しい生き物がいるんだよ、ほら三つ目のトカゲとか」


途中山の中の奇妙な生き物を見つけては女の子を励まし


「この山で一番の名所のお花畑でーす」


そこには一面様々な花が咲き乱れる花畑が広大に広がていた


花畑の間に流れる小さな小川の傍にある石に女の子は腰掛、少女は女の子に花飾りや花の首輪を作ってプレゼントした、女の子の表情はすでに笑顔へと変わっていた


「あ、そろそろ迎えが来たみたいだ、目を瞑って耳を澄ましてごらん」


すると遠くの方で大勢の大人の声が聞こえる


「ゆうな~、ゆうな~」


「あ、お母さんの声だ!」


夕凪は目を開けた、そこには少女の姿はすでになく、花飾りや花の首輪だけが少女にかけられていた


「夕凪、無事だったのね」


「夕凪、このお花は?」


「うん、お姉ちゃんに作ってもらったの、すっごく広くて綺麗なお花畑があるんだよ」


周りに居る大人たちはちょっと驚いたような困ったような表情をしていた

この山には花畑など存在しないからだ


少女は夕凪に手を振っている

「また会いましょうね」



英二郎は夕凪の膝の上で目を覚ます

どうやら気を失っていたらしい


「君は夕凪さんなのか?」


「はい、そうです、助けていただきありがとうございます」


「そうか、どうやら君の夢を見ていたらしい」


「英二郎さんあまりしゃべらない方がいいですよ、傷に触ります」


英二郎に刀を投げた男も同じ場所へと来ていた


「なかなか良い世界ですね、あなたも特別な血をお持ちの様で」


「お前は一体何者なのだ、まるで人としての気配がしない、猛獣いや、それ以上の感覚だ」


「人の身でそこまで感じることができるとは、貴方、ここで殺すには惜しいですね」


「すでに700年程生きておりますが、この世界にはそういう存在もいるということをご理解いただければ」


「700年だと・・・、ここにきて本物の化け物に出会うとは」


「アルファどうする?」


「とりあえず俺たちの任務は化け物退治ではなく護衛だ、英二郎さんが無事脱出できるように考えないと」


「ははははは、人の身でこの世界から脱出する方法などない、諦めるがよい」


「刀よ主の元へ戻るがよい」


英二郎に刺さった刀が男の元へ戻っていく

それと同時に刀を抜かれた英二郎の腹部から血があふれ出す


「いかん、ガンマ英二郎さんの応急処置をして出血を押さえろ」


「じ、じぶんは、もう助かりそうにありません・・・、みなさんにげてください・・・」


「なにを弱気な」


「そうですよみなさんで脱出しましょう」


「ごめんなさい、君みたいな子供を巻きこんでしまって・・・」


夕凪は首を横に振る


「人の身でここから逃げるのは不可能ですよ」


男は刀を見ながら


「さて十分血を吸いましたね、この男の血はどれほどのものか試すとしましょうか」


「刀に集え、血に誘われし亡者共よ」


男が呟くと鎧を着た亡者たちが20体ほど地面から現れた


「20体くらいか、人間にしては中々の血の持ち主だな」


「血肉に飢えた亡者たちよ、存分に食らうがよい」

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