キャラクターメイキング ――スキル

 もう一つの決め手になった理由が『戦士』が初期に選択できるスキルだ。

 スキルはいわゆる生産系スキル――武器製作や防具製作、料理、裁縫など。MMOではアイテムもプレイヤーが作るのが普通だ――と定番のスキル――危険感知や暗視など――の全クラスで選べるスキルが揃っている。

 他にクラス専用スキルというのがあった。クラス専用スキルの選び方で、同じクラスでの差別化を計る狙いだろう。

 そして『戦士』にはMMOでは非常に珍しいスキル、『防具破壊』というのが存在したのだ!

 これがどれくらい珍しいスキルであるかと言うと、一般的なMMOでの有益なアイテムを考えてみれば理解できる。

 有益なアイテムのほとんどが数十時間のプレイの果てに入手できるものだ。物によっては数百時間のプレイと幸運に恵まれなければ手に入らないことすらある。

 ここで有益な鎧と言うのを想像してみよう。

 それは少なくとも二桁のプレイ時間の果てに入手したものだ。その苦労の結晶とでも言うべきものがプレイヤーからの一撃……もしくは数回の攻撃で破壊されてはたまったものではない。

 下手したらプレイヤーが引退――MMOではゲームを永久に止める事を引退と表現する――してもおかしくないはずだ。

 MMOの運営会社は営利企業である。顧客が減りやすい要素は敬遠するので、プレイヤーの持つアイテムは破壊できない設定が一般的だ。

 このことからも『できるVRMMO』デザイナーの理解の深さがうかがえる。

 防具破壊が可能であると言うことは、プレイヤーはプレイヤーの服を破くことが…………ゲフンゲフン新しい試みをする運営を称えておこう。


 さらに全クラスが選べるスキルから『調薬』を選択する。

 『調薬』というのはファンタジーMMOでは非常にメジャーなもので、薬草などの材料を集めて回復アイテムなどを調合するスキルだ。

 材料の入手難度や手間、回復アイテム自体の入手難度で必須スキルであったり、死にスキル――役に立たないという意味だ――だったりするのが悩ましい。

 しかし、どこまで役に立つか解からないが、少なくとも初級の回復薬は作れるだろう。……クラス選択から『僧侶』を除外した理由でもある。

 回復魔法で相手を回復しながら、もしくは相手に回復の必要があるプレイも存在するらしい。ただ、俺にはマニアック過ぎる気がしたので、少ししか興味を惹かれなかった。

 しかし、高尚な趣味に目覚めた場合に困ると悩んだのだが……その場合は回復アイテムに頼れば良い!

 ……もちろん、冒険的なプレイをする場合のことだ。

 それにファンタジーMMOなのだから、『麻痺』『毒』『睡眠』などの状態異常も設定されているだろう。

 『毒』なら徐々に弱っていき、『麻痺』なら痺れて動けなくなり、『睡眠』なら眠りに落ちてしまうというアレだ。

 そして、それを治療するアイテム――『解毒薬』や『麻痺解除薬』、『きつけ薬』などが設定されていることが多い。

 それらのアイテムは『調薬』スキルで調合できることがほとんどで……その過程で『毒薬』『痺れ薬』『睡眠薬』の調合も可能になるのが定番だ。

 普通は使用したら状態異常になるアイテムなんか使い道が全く無く、世界観を補完する程度の意味しか無いのだが……活用方法がありそうな気がする!

 使えば相手が麻痺するアイテム、寝てしまうアイテム……それは日課のイメージトレーニングでは何度も考えた!

 ……死にアイテムの活用はプレイヤーとして常に考えるべき事柄である。


 『戦士』は二つしかスキルを選べなかったのでこれで全部だ。

 戦士専用スキルにだけ、大雑把な武器種類名のスキルが存在はしていた。

 これは得意な武器ということで、武器を使った必殺技などに派生するのだろうが……二つしか選べないなら『防具破壊』と『調薬』しかあり得ない!

 どうせ『防具破壊』スキルは素手で…………ゲフンゲフンほんの少しだけ能力値やスキル構成を定番から外すのが通なプレイヤーだ。

 『盗賊』は初期に選べるスキル数が六つもあり、『戦士』は不利であるが……それがクラス間の差別化を計っているのだろう。

 便利なスキルが多くて有利になれそうだが……性能の三分の一から半分はサバイバル能力や逃走能力に寄っている気がする。

 やはり、『戦士』という選択の方が正しいはずだ。

 『防具破壊』を最高に機能させるべく、『腕力』を初期最高値まで上昇させる。

 『調薬』が『器用度』に依存する可能性があるので、こちらも初期最高値だ。

 それに初陣がまだな俺でも、システムアシストが助けてくれるかもしれない。初陣は失敗しやすいらしいから安全策をとるべきだ。

 『体力』は及第点になってしまったが……連戦を挑む場合は俺の若さが助けてくれるだろう。

 ……もちろん、戦闘行為についてである。


 時計を見てみるとまだ正午までには時間があった。

 かなり長い時間キャラクターメイキングをしていた気がしたが、思ったほど時間が掛からなかったようだ。集中していたせいもあるだろうし、アバターの加工にみていた時間が丸々浮いたせいあるだろう。

 ちょうど良いので上がりすぎたテンションを落ち着けるべく、イメージトレーニングをしておくことにした。新兵は初陣であっと言う間に果てることが多いらしいから、備えておくのは悪くない考えだろう。

 ……もちろん、記念すべき初陣にだ。

 これが最後のソロで……最後のイメージトレーニングだと思うと、思わず笑みがこぼれてしまった。

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