アバター

 ここまでの苦労を振り返ると達成感に浸ってしまいそうになるが……そんな余裕などない。ここまでは前哨戦であり、真の戦いはまだ始まってすらいないのだ。

 オープンβテストが開始されるのは本日の正午ちょうど。

 それまでにキャラクターメイキングを済ましておかねばならないが、正午までそんなに時間は残っていない。

 とにかく、まずはキャラクターメイキングだ。

 最初にアバターの変更を試みる……が、想定外のアクシデントが発生した。

 基本的にベースアバターは生身と全く同じ性能と外見のものだ。同じでなければ色々な感覚にズレが発生しやすくなり、逆に困ってしまう。

 そこで外見の変更などはベースアバターを元にゲーム内で加工し、ゲーム用として新しく作成する。

 現実には存在しないエルフやドワーフだとかの異種族になるのはもちろん、単純に背を高くしたり、体格を良くしたり……顔を変更したりも可能だ。

 しかし、『できるVRMMO』ではアバターの変更可能範囲が極端に狭い……と言うより、ほぼ変更不能だった。

 わずかに身長と身体のボリュームの増減が可能なだけ。あとは髪や瞳、肌の色の変更程度だ。

 ファンタジーゲームの魅力の一つである種族も少ない。

 『人間』『エルフ』『獣人』の三種族だけだった。

 たった二つの異種族もいまいち感が拭えない。

 エルフは背を低めに、体格も華奢に調整されるものの微妙な程度で、一番の特徴である長い耳も控えめだ。

 はっきり言って、エルフのコスプレをしている人間にしか思えない。

 獣人はもっとコスプレ感が強い。獣耳が頭についているが、人間の耳も残ったままだ。外見も獣の要素が追加……例えば猫科系獣人であればツリ目気味に変更などもない。

 どう見ても「獣耳と尻尾アクセサリーをつけてみました!」という感じがする。

 アバター変更画面をよく見てみれば、画面の下の方に小さく『過度のアバター変更は不具合が発生した為、控えめになっております』と注意書きがあった。

 まだオープンβであるし、新型ベースアバターの運用は初となる。アバター変更に関しては、これから先のアップデートに期待するしかないだろう。

 種族選択はすぐに決まった……と言うより、選択の余地など無い。

 俺は身長こそ平均的なものの、貧じゃ…………ゲフンゲフンやや、痩せ型のタイプだ。小柄に調整されるエルフでは厳しい戦いになる。

 獣人はもっとありえない。獣耳と尻尾をつけたコスプレ男……そんな奇天烈な外見が許されるのは選ばれし者だけだ。

 普通のVRMMOであれば野生的な顔つきと体格に変更したり、少女漫画の登場人物の様な美形男子にすることで折り合いがつけれる。だが、今回は見送るしかないだろう。

 消去法で人間を選択するしかなかった。


 次に限界まで身長を伸ばし、身体のボリュームを増加させる。

 身長を伸ばしたのは当然だ。俺は不細工とは思っていないが、可愛い系の男子ではない。ターゲットより背が低いのは戦いに影響が……ゴホン!もちろん、戦闘の有利不利についてだ。

 身体のボリューム増加することで痩せ気味程度まで修正できた。

 理想は平均的体格だが、これで我慢するしかない。なんだかんだで女は自分より痩せている男が嫌いらし……戦闘においてウェイトの差は絶対的であるから、少しでも重いほうが良いのだ!

 最後に髪と瞳、肌の変更だが、大まかに言って二つの作戦がある。

 日焼け男作戦と金髪碧眼作戦である。

 少しやり過ぎぐらいに日焼け、気持ち悪くない範囲でマッチョ、これで眩しいくらいに歯が白ければ、多少不細工でも女に…………ゲフンゲフン戦闘での汎用性が高いそうだ。

 これが日焼け男作戦であるが……今回は断念するしかない。

 金髪碧眼作戦は理解しやすいと思う。なんだかんだで女は王子さまが…………ゲフンゲフン中世ヨーロッパ風の世界観にマッチするからである。

 今回はこちらを選択がベターだろう。

 残る問題は肌の色だ。白か肌色のどちらか、もしくはその中間が無難に思える。

 赤だの青だのの奇抜な色はマッチしたときの破壊力は期待できるが……失敗した時に取り返しがつかない。

 結局、肌色を僅かに白くした調整に決めた。

 完全に日本人顔で白い肌は残念な……ゴホン!やや、違和感を覚えたからだ。

 しかし、やはり顔の調整ができないのが痛い。

 俺は顔の調整が上手いほうではないが……抜け道というか、裏技がある。

 自分のセンスなどに頼らず、整形外科のHPに空見積もりを出せば良いのだ。

 プロが綺麗に修正した自分の顔写真が手に入るし、どこをどのように変更したのかも懇切丁寧に教えてくれる。それを参考にアバターを弄ればいい。

 どのみち、結局、女はイケ…………ゲフンゲフンネット上に自分の素顔を公開するのは危険なので、多少は変更しておくのが当たり前だからだ。

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