第42話 駄菓子屋のオバチャン


 「どういう事?」

 一人、食べなかった委員長が飴を手に持ち、おばちゃんに。


 この暑いのに、手がベトベトになるよ。

 良く見れば、委員長の飴は当たりのヤツだ、赤色の二回りは大きい。

 羨ましいとかじゃないが……何かの意図を感じる。

 あれを口に入れれば当分は喋れない、其ほどの大きさなのだ。

 それを委員長に、意図……糸飴……。

 シャレじゃ無いよ……偶然。


 「まあ、楽しめたのなら良かったわ」

 ニコニコと。

 「お店も少し儲かったのだし」


 あ! そう言えばソコソコ買った。

 ここ最近はアイスぐらいだったのに、ここ一週間小遣いの前借りまでして遣ってしまった。

 え!

 「てことは……もしかして……」

 お金を使わせる為のアトラクション見たいなモノ?

 口の中で飴をモゴモゴと。


 チラリと俺を見た委員長。

 「そんなわけ無いでしょ!」

 一喝。

 そして、おばちゃんに向き直り。

 「正体はわかっているわ、本性を出しなさい」


 「正体?」

 本性をって化けてるのか?


 「俺もわかったぜ」

 猫が言う。

 「匂いはそのままだ」


 「匂い?」

 さっきから人の台詞を反復ばかり……まるでアホの子みたいだ……俺。

 完全に緊張感を無くしてしまっている。


 そして、俺にはわからない。

 匂いでわかるなら、猫の知っている者?

 委員長もわかるのは……何故? ヤッパリ匂い?

 「フム……わからん」

 小遣いを巻き上げられたのは事実なのだが……はてさて。


 チラリと見た鎧君は、何故か頷いていた。

 わかっているのか?

 

 慌ててランプちゃんを見る。

 首を捻っている。

 良かった、俺だけじゃない。


 フクロウは端から除外だ。

 どうせ寝てるし。


 「あの本性って……」

 恐る恐るとランプちゃんが尋ねる。


 「その変化の術を解くのよ」

 ビシッとランプちゃんを指差した。


 私? そんな顔でビックリしたランプちゃん。

 ボフンと音を立てて元の小さいサイズに戻る。

 俺は首を捻り。

 そして、二度驚く。

 

 一つ目は、じっくり見た元のランプちゃんがさっきの人形とは全然違う。

 お姉さんの欠片もない。

 胸はペッタンこだし、柔らかい太股は棒の様だ。

 あれ?

 でも良く考えれば最初に会ったとき、性別もわからなかったくらいだこれが本物だ。

 騙されて居たのか……。

 と、驚いた……ちょっと悔しいってのはこの際置いておいて。


 二つ目は……目の前のおばちゃん。

 ボフンと音を立てて……ランプちゃんに為った。

 何故?

 ランプちゃんが二人? 

 と、驚いた。


 「あれ? 術が解けちゃった」

 元おばちゃんのランプちゃんも驚いていた。


 「同一人物が魔法で化けているのだからその呪文も完全に一致するでしょう、それを解けば、術の範囲に居るものその同一人物も解けるわよ」


 「あら、成る程……」

 納得の元おばちゃんのランプちゃん。


 ええ……そうかな?

 一人納得のいかない俺。

 あ……もう一人居た、鎧君。

 だが、納得ウンヌンというよりその正体が信じられないという顔。

 結局、君も何もわかってなかったのね。 


 そんな俺達を放って置いて。

 「でも……私って匂う?」

 自分の身体を嗅いで確かめている元おばちゃん。


 チラリと見れば最初からのランプちゃんも同じ事をやっている。


 「油の匂いだな」

 猫。


 「そお? トンボと同じ羽なんだからフローラルかミントでしょう?」


 でしょう? って……どっちかわかってない?

 もしかして……委員長は当てずっぽう?


 ……?

 「あれ? フローラルにミントの匂いを出すのって……ナナフシじゃ無かったっけ?」

 

 ビックリな顔で俺を見る。

 「ふ・フン……似たようなもんでしょ?」


 いや、棒のような形は似ているけど肝心な羽が全然違う。

 委員長は、羽で判断したよね?


 「どっちにしたって当たってるから良いのよ!」


 勘? 思い込み? で、判断したんだ。

 ……。

 少し眉間に皺が寄る。

 まさか、思い込みでそう変化させた?

 違うよね?

 

 「で、理由は聴かせてくれるんでしょうね」

 俺に考える間をくれる前に委員長が先に進んだ。

 少しだけ焦りぎみに見えたのは、当てずっぽうがバレたからか?


 「理由ですか?」

 

 「もう……いいんじゃないか?」

 回りで踊っていた三兄弟の青色がその躍りを辞めて、普通の声色で喋り初めた。

 「そうですね」

 それに普通の声色で同意する赤色。

 そして、一人まだ踊っていた黄色の腕を押さえた。

 もういいよと首を振りながら。


 「ランプ……術を解いて」

 そう青色が言う。


 頷いた元おばちゃんのランプちゃん。

 手に持つランプを振り上げた。


 光が三兄弟を包む。


 そして、また驚かされる。


 「あ!」

 猫。

 「あ!」

 鎧君。

 「ホウ!」

 最後はフクロウの合唱。


 そして、その言葉を繋げた様な顔の、委員長以外のみんな。

 ……あ! 阿呆!ってな感じに。


 その理由は。

 三兄弟の術が解けて姿を現したのが、猫と鎧君とカラーヒヨコだからだ。

 ヒヨコはサイズが人サイズに為っている、調整出来たのか?

 驚く所はソコではないのだが……人って驚き過ぎると主観点を見失う様だ。

 それも自分でわかっていながら……。

 新しい発見だ!

 あ! また、ズレた……。


 「理由はもうわかっただろう?」

 元青色の猫が言う。

 自分達を見ればわかると、そう言いたいのか?


 ……ゴメン、わからない。


 委員長を見れば、納得の顔に成っている。

 わかったんだ!


 「あのう……わかんないです」

 声の主はランプちゃん。

 良かった俺だけでは無いようだ。


 「説明するとだ」

 そんなランプちゃんをヤッパリか? と、そんな顔で猫。

 「俺達が消えない為にだよ」


 ん? まだ首を捻っている、ランプちゃん。

 

 「つまり、ここで私達が旅を終えると……あなた達も消えると?」

 委員長が続けた。

 「でも、今ここに居るのだから……」

 少し考えながら。

 「そうね……今じゃ無くて、最初なのね」

 納得して頷いた。


 それに元三兄弟達も合わせて頷く。


 「今一良くわからない」

 我慢が切れて聞いてしまった。

 もう馬鹿って言われてもいいや!


 「ここで新旧の猫達に出合う、そしてそのうちのランプは創造主……詰まりは」

 俺達の方に向き直り、こちら側の猫達を指差しながら。

 「こちら側のランプが創造主に成って、過去の私達を旅に連れ出さないと、あなた達は産まれて来なかったという事に成るでしょう?」

 頷いて、続ける。

 「ランプは時間跳躍が出来る、詰まりは過去に戻るのよ」


 「そう、数分の過去にです」

 元おばちゃんランプ。

 「そこで世界を造り、私達の具現化を助けるの」


 「数分?」

 あれ? 五日くらい経っていなかったか?

 だぶんどうでも良い事なのだが、また意識が横にそれた。


 「ここはカードで飛ばなくても来れる場所……現世界にとても近い場所です、ですから時間の流れが現世界に合っているのです」

 それに、元おばちゃんのランプが付き合ってくれる。

 「現世界に近いので、創造出来るモノも限られます」


 「現世界に有るものでないと駄目なのね」

 委員長も捕捉。


 「そうです、現世界に有るもの……有ったもので、私が覚えている事が条件にです」

 

 「それが駄菓子屋」


 「そして、ここから全く違う理屈の異世界に飛ぶのです」


 「飛ばすのでしょ?」

 

 委員長の指摘に苦笑いの元おばちゃんのランプ。

 「数分の事ですから……」


 成る程……時間の流れも違うのか。

 異世界では五日。

 現世界では数分。

 過去に……。


 あれ?

 少し疑問が……。

 これは、どっちが先なのだろうか?

 ランプちゃん達が産まれる環境をランプちゃん達が造る……そのランプちゃん達は……ヤッパリランプちゃん達が……。

 あれと同じだ。

 卵が先か……鶏が先か?

 うーん。

 これは、考えると唸ってしまうな。


 「まあ、わかったわ……あなた達が未来のランプ達って事ね」

 唸った俺を見てか委員長がもう一度、簡潔に説明してくれるのだが。

 俺の悩んでいるのはそこじゃないんだが……でも、それを言ってもややこしい事に成るだけか。

 たぶんここにいる全員が答えを出せない事だと思うから。


 「まあ、いいや」

 適当に誤魔化し。

 「で、俺達は帰れるんだよね?」

 

 未来のランプちゃんが、それに頷いてくれた。

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