第41話 塔の上の三兄弟


 俺達は一足飛びに、塔の最上階に辿り着いた。

 何もない屋上。

 下に降りる階段が端の壁際に見える。

 吸血鬼の塔に造りが似ていた。


 「この下でしょう? 最後のボスは」

 笑う委員長。

 「一気に叩きのめして遣りましょう」


 不気味な笑顔……決して口には出さないが思ったものは仕方無い。 

 それを悟られないように、決戦の準備を始めた。

 爆竹はもう無い。

 癇癪玉も残り少ない。

 銀玉はそれなりにだが……果たして役に立つか?

 ロケット花火は狭い場所では論外だろうし……。

 等と考えてはいたのだが。

 もう少し深く考えれば、今のこのメンバーでは俺は役立たずだ。

 みんな、はるかに強い。

 委員長とランプちゃんに至っては神様ですら裸足で逃げ出すんじゃ無かろうか。

 

 そんな俺に猫が。

 「端の方で見ているだけでいいよ」

 一瞬、なんて失礼な……と、思ったが。

 どうも、猫は自分もそうなのだと言いたげだ。

 それほどまでに今の二人は強いのだろう。

 

 「なんとも情けない」

 思わず。

 

 「ホント……情けない」

 猫も答えて。

 

 二人して溜め息。


 「ほら、行くわよ」

 そんな二人を気にも止めない委員長。

 そそくさと階段を降りていく。


 慌てて着いて行った。

 もう仕事は終わったとばかりに合体を解いて寝初めそうなフクロウを二匹を捕まえて。

 そう言えば、君達ももう出番は無いのだろう。

 狭い建物の中で巨大化しても邪魔なだけだろうし。

 俺達と一緒に端ッコだな。


 と、委員長とランプちゃんに続き、意気揚々と進む鎧君が見えた。

 張り切っている所を悪いが、君もコッチ側だと思うのだが。

 ……。

 いや、大事な仕事が有るか。

 委員長の暴走を止めるという一番厄介な仕事が。

 うん、それは君にしか出来ない大仕事だ。

 がんばれ!


 等と自嘲気味に階段を降りて行くと、そこに三人の男。

 青いラメのジャケットを着たダリ髭のおじさん。

 赤いラメのジャケットを着たダリ髭のおじさん。

 そして、初めて見る黄色いジャケットのおじさん。

 三人ともジャケットの色が違うだけで同じ顔をしている。

 同じ人物かと思っていたが別人だったのか!

 全く同じ顔、ジャケットの色が違うだけ。

 そして、そこで踊っていた。

 踊りたいのは皆、同じ様だ。

 なんなんだ? その変な躍りは?

 誰も見ていないのに三人でとは……どんだけ好きなんだ? 


 呆れて見ていると。

 そのうちの一人。

 黄色いのと目が合う。


 「兄さん、兄さん……居るよ」

 黄色が青色の袖を引く。

 

 「あれ? ホント……居るね」

 青色は赤色をつついて。

 「兄さん、何でだろう?」


 赤色は首を捻り。

 「さあ……さっぱりだね」


 その間、三人の躍りは止まらない。

 もう良いだろう? じゅうぶんじゃないのか?  


 「コイツらが大ボス?」

 まあ、少しは予想出来なくも無かったが、改めてだと少し拍子抜けだ。


 「最初にカードをくれたからてっきり創造主かと思っていたわ」

 委員長も一応は疑っていたのか……でも流石にそこまでは無理だろうと思う。

 間抜けズラ過ぎるだろう、このおじさん達。

 この躍りも含めて……。


 「俺は創造主は……」

 猫が途中で話を止めた。

 目は委員長を見ている。


 成る程……委員長が創造主だと思っているのか。

 確かに委員長の思い込みは凄いけど、それもどうかと俺は思う。

 本人も気付かず……気付いていて?

 いや、確かに怪しくは有るが。

 委員長に限って無いと思いたい。

 そんな娘じゃない。


 「まあ、サクッと教えてもらいましょう」

 杖を振り回しながらに近付いていく委員長。

 これも演技には見えない。


 「あのコ 戦う気だよ」

 黄色が青色に。


 「うむ……やる気満々だね」

 青色が赤色に。


 「勝てないね」

 赤色は頷いた。


 「それはどうかしら? 試してみましょうよ」

 ああ、委員長を完全に怒らせた。

 これは酷い事に成りそうだ。


 「何故か怒ってしまったね」

 黄色。

 「何が勘に触ったのだろう?」

 青色。

 「勝てないから降伏するって言っているのに」

 赤色。

 「だよね、見た感じもう十分だろうし」

 黄色。

 「うむ、しっかり育っている」

 青色。

 「俺達の仕事は完璧だよね」

 黄色。

 「降伏です」

 最後に赤色が白旗を上げた。


 なんだそれは、拍子抜けもいいところだ。

 委員長なんか振り上げた杖の仕舞どころに迷っているし。

 大惨事に成りそうなので、俺が前に出た。

 「で、この茶番劇の主は何処だ?」

 そう、本題はそこだ。

 この馬鹿三兄弟は放って置いても問題ない。


 「うーむ……何処って言われても」

 黄色。

 「場所の事?」

 青色。

 「何処だろう?」

 赤色。


 「わからないの?」

 いきり立つ委員長。

 

 鎧君に目配せして、それを押さえてもらう。

 良い仕事だ。


 「知らないのか?」

 そんな筈もないのだろうが。

 だが、誤魔化している風でもない。

 もしかして……ヤッパリ?

 チラリと委員長を見た。


 「場所はわからない」

 首を捻る三兄弟。

 「あそこは……何処なんだろう?」


 「あそこ?」

 目を細めて。

 「それは、創造主の居る場所か?」

 単純に地名なりの表記が無い場所か?

 だから説明出来ない?

 

 頷いた三兄弟。


 「そこへはどうすれば行ける?」

 少しホッとして……良かった違うようだ。

 委員長を指さなかったと喜んだ。


 「行き方なら簡単だ」

 そう言ってカードを出した、赤色。

 話振りから察するに長男なのだろう、代表しての事。


 受け取ったカードを見る。

 駄菓子屋のカードだった。


 それを見た委員長、またもや暴れそうになる。

 今度は鎧君と猫で押し留めた。


 「これでは、元の世界に帰れないのは知っているのだが?」

 少し脅しを掛けつつ。

 本当は委員長出はないとわかって、戦意そのモノが消えてしまっては居るのだが、そこはうまく演技して。

 出来ているよね?


 「うむ、戻れないが」

 「そこに居るのは確か」

 「そこが始まりで、終わりなのだ」

 脅しに、委員長にか? 慌てた三兄弟がバラバラに話初めた。

 

 「嘘だったら……どうなるか」

 委員長が叫び出す。


 「ワシ達も一緒に行くから」

 「もう少しだけ大人しく……」

 「嘘はない」

 委員長に怯えていたようだ。

 

 


 ブチブチと文句を垂れる委員長を説得して、駄菓子屋に飛んだ。

 騙されたのならまた探して今度は有無を言わさずに滅すれば良いと……。

 それともランプちゃんに頼んで時間を戻すのも手だしと……。

 そう言ったのだ。

 二つの案を出したのは……委員長の性格を考えてくれと言いたい。

 二案で済んでラッキーな方だ。

 俺はそう思う。


 そして、何時もの駄菓子屋の前に出た。

 少しだけ違うのはそこに猫も鎧君もランプちゃんもフクロウも居る。

 三兄弟もだ。

 俺と委員長はカードでだが……他のみんなはどうしたのだろう?

 少し疑問は残るが……まあ三兄弟が何とかしたのだろう。

 

 「ここが委員長達の世界か?」

 駄菓子屋を不思議そうに見つめる猫。


 「僕はここに居た筈ですけど……記憶に無いですね」

 鎧君。

 

 「カードの中で寝ていたんですか?」 

 と、笑うランプちゃん。

 「私は少しだけですけど……覚えていますよ」


 「小学生の委員長にデコポンならぬカードピンをされたのだろう?」


 「で?」

 ほのぼのと喋り初めた俺達を他所に、凄んで見せる委員長。

 もちろん三兄弟に対してだ。

 若干、勘違いしたランプちゃんの背筋も伸びていたが……気にしないでおこう。

 そんなに怖かったのか? 小学生の時の委員長は?


 「はい、コチラです」

 三兄弟が声を揃えてその手を指した。

 店の奥。

 外の夏の陽射しで軒のした、店の奥が真っ暗に陰って見える。

 だが、そこに一人の人間が立っている気配はわかった。

 別にわからなくても、知ってはいたのだが。

 その指した場所は、何時もおばちゃんが座っている場所。

 そう、駄菓子屋のおばちゃんだ。

 

 「もう終わったのかい?」

 そう言って外に出てきたおばちゃん。

 「どうだった? 楽しめたかい?」

 ニコニコと笑い、店の飴玉を皆に配ってくれた。

 十円の糸の着いたヤツだが。

 貰えれば嬉しい。

 奥のよっちゃんイカならもっと嬉しかったが、それは仕方の無い事……あれは三十円だし。


 委員長を除いた俺達は飴を口に放り込んで様子を伺う。

 一人、カランと音を立てたモノも居るが……食えるのかな?

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