第40話 チート

 

 薄れ行く意識の片隅で委員長が見えた。

 俺に抱き付いて半狂乱の様にも見えるが……たぶん幻覚だ。

 俺の希望が妄想に成ってそう思い込んでいるのだろう。

 委員長に限って、それは無いとわかってはいるのだ。

 少しは。

 ……心配してくれると。

 ……嬉しいのだが。

 ……高望みか?

 ……。

 そして、意識を失った。




 次に目覚めた時。

 俺はビックリしていた。

 別に生きている事に……ではない。

 あれくらいで死ぬ筈など無いとわかっていたので違うことにだ。


 目のを開けて最初に飛び込んできた景色が、無数のランプちゃん。

 それも、一人だけ大きい普通のお姉さんサイズだ。

 その大きいのが俺の頭を膝枕。

 小さいのがよってたかって全身を舐めていた。

 なんだろう、これだけ多いと……虫の様だ。

 何をしているのかは、わかっている。

 舐める……つまりはランプちゃんの治癒魔法。

 それはわかるのだが、ヤッパリ少し気持ち悪い。


 「目が覚めましたか?」

 大きいランプちゃんに声を掛けられた。


 「ああ……ありがとう」

 成る程、下から覗くランプちゃんは美人だ。

 膝も柔らかい。

 小さい時は見えて居なかったのだなと改めて思う。

 それを何時までも見ていたい気もするが……そうもいかないのだろうと、身体をユックリと起こした。

 バラバラとこぼれ落ちる小さいランプちゃん達。

 随分とへばっている様にも見える、転げた一人を摘まんで起こしてやった。

 

 「なんだか……凄い事になっているね」

 理由はたぶん想像が付く。


 「はい、アレから委員長さんが怒ってしまってドラゴン達を滅してしまいました……ほぼ一瞬で次から次へと」


 「ああ……いや、それも凄いけどランプちゃんが……」


 「それまでに倒して落ちていた全てのカードを掻き集めて、私に注ぎ込めと委員長さんが」


 ああ、回復能力を唯一持つランプちゃんの能力の底上げを狙ったのか。

 って事は、委員長は俺を少し位は気に掛けてくれたって事か?

 うむ、それが事実なら存外悪い気もしない。


 結果、相当な能力アップに成ったようだ。

 今のランプちゃんを見ればそう思わない方が無理がある。

 巨大化? これも人化か? を、起こして。

 分身まで出せる?

 たぶん、他にも凄い事に成っているのだろう。

 

 それはおいおい見せて貰うにして。

 今は、先程からの話の主役で有ろう委員長が見あたらない、そちらが先か?

 「で、その本人は?」


 「今、猫さんが呼びに行っています」

 塔を指差して。

 「先程から目覚めそうな気配が有りましたので……」


 「ああ、俺待ちだったのか……」

 暇潰しで、塔の散策かな?


 「いえ……まだ怒りが冷めないと、残ったドラゴンさん達に当たりに行きました」


 「ふむ……可哀想に」

 ドラゴンに対しての言葉だったのだが、敵対もせずそれどころか門の前での戦闘も知らないかもしれない無関係なドラゴンに同情。

 

 「はい、スッゴく怒って……泣いてました」

 

 今一、話は繋がらないが。

 委員長の事じゃあ無いよね。

 でも、塔の中のドラゴンのそんな態度を見れる暇は有ったのだろうか?

 もしかして、引きずり出しての虐待か?


 ままあいいや、どのみち面と向かえば戦闘に為るのだろうし。

 「他のは? フクロウとか鎧君達」


 「フクロウ兄弟はもう元気ですよ、元から然程のダメージにはなってませんでしたし」

 と、脇を見る。

 ソコに二匹で寄り添って寝こけていた。


 「鎧さんは委員長さんの付き添い……?」

 少し言葉が濁る。


 暴走し過ぎない様にか……。

 大変な役回りだな、可哀想に。


 俺は自身の身体を確かめながらに立ち上がる。

 

 「まだ……無理はしなくても」

 そう優しく声を掛けられたのだが。


 何時までもここでジッとしていてもとの思いと、どうせ塔に登るのだ委員長に引き返させるよりかはコチラから出向いた方が効率が良い。

 「大丈夫さ……完璧な治療のおかげだよ」

 そう返して、寝ている二匹のフクロウを抱えて歩き出した。

 

 歩き出して、少々身体にギクシャク感は残るが概ね問題無いとわかる。

 触っても火傷の痕も残っていない様だ、と言うか前よりもツルツル?

 ランプちゃんの唾には美肌効果も有るのか。

 俺にはあんまり意味は見出だせないが。

 体力は相当に落ちている様だ。

 今のままでは走る事も出来ないだろうと、思われる。

 歩くだけで息が切れそうだ。


 少しペースを落としてやっと門の前まで来た。

 ランプちゃんは、分身を仕舞込んだのか大きいままのが一人後ろを着いて来る。

 何も言わないが、ヤッパリ心配してか常に俺から目を離さない。


 そして、門。

 潜る前に委員長達と出くわした。

 驚く三人、委員長と猫と鎧君。


 「そんなに驚かないでも……」

 笑っての挨拶の積もりだ。

 委員長のご機嫌の確認も込めて。

  

 「もう動けるのか?」

 猫が言う。


 俺は肩を竦めて、ほらこの通りと示してやった。


 「凄いな」

 

 それは俺にでは無いのだろう、後ろのランプちゃんに向けてだ。


 「本当ですね……一度、死んだとは思えませんね」

 鎧君も大袈裟な。


 「たいした怪我でも無かったしそんなに大層に……」

 だが、目の前の三人はそんな冗談を言う顔でもなかった。

 いや、鎧君に限って死んだなんて軽々しく言葉にする筈もない。


 「……俺、死んだのか?」

 両手でパタパタと身体を確かめる。

 「もしかして……ゾンビ?」


 「生きているんだろ?」

 猫が鼻で笑う。

 「だが確かに死んだのさ」


 「はい、ランプさんの治療も限界で一度死にました」

 しみじみと語り出す鎧君。

 「最初の頃のランプさんの能力ではそこが限界で、そこで委員長さんがそこに有る全てのカードに賭けたんです……死人を生き返らす能力か、そこに辿り着ける幾つかの能力を得られる事に」

 

 「ランプちゃんを選んだのは、少しでも治癒能力が有ったからか……」


 「そうです」

 大きく頷き。


 「で、結果は? まあ、今生きているのだから……過程か?」


 「時間の跳躍の能力が大きかったです……ギリギリ生きている頃まで遡り、そして能力x100と分身のカードで……なんとか為った、そんな感じです」


 「それはまた、チート過ぎると言うか……無茶苦茶だな」


 「その無茶なお陰で命拾いだよ」

 猫が大笑い。

 「運が良かったな」


 一度死んだとなると、確かに運なのだろうがそれにしても……。

 いや、考えるのはよそう。

 チラリと委員長を見た。


 「話を変えるが、もう大丈夫なのだから先に進まないか?」

 ランプちゃんは他にもチートを持っていそうだが、もう何でも良いような気がする。

 それに他人事の様に感じる自分の死に着いてもあまり深く考えたくない。

 

 「そうね、この塔の天辺ね」

 久し振りに委員長の声を聞いた気がする。

 そして、自身が着ていた黒いローブを俺に渡してくれた。

 「貴方の服、焼けてボロボロでしょう」


 見れば、確かに。

 ほとんど端切れが張り付いているだけの感じだ。

 

 「有り難う」

 素直に受け取って。

 「委員長は優しい」

 そう言っておいた。

 それは先に言っておかないと、委員長のピンクのフリフリの魔法少女の衣装に突っ込んでしまいそうになるからだ。

 一言で終わらせて後は続かないに限る。

 絶対にややこしく為るのは目に見えているのだから。

 現に今も、委員長の頬が少し赤い。

 やはり、とても恥ずかしい格好なのだろう。


 「ただ、ユックリにはなるけどチャンと着いていくよ」

 

 「病み上がり……この場合は死に上がりか? だしな」

 猫もペースを合わせてくれる様だ。

 でも、死に上がりって初めて聞いた。


 「それなら……」

 委員長が俺の抱いているフクロウを取り上げ。

 「こうすればいいのよ」

 そう言って、二匹を強引に揺すって起こし。

 「合体して」

 そして、カラーヒヨコにさせた。


 「何を?」

 それに意味がわからない俺の呻きを無視して、なにやら指示を出す。


 頷いたカラーヒヨコ。


 そして、その足に掴まれイキナリ宙を舞う。

 右足に俺

 左足に委員長。

 クチバシは鎧君。

 猫はランプちゃんが抱いて一気に屋上まで上昇した。

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