出口へと続く道
第36話 荒野と塔
今回は、駄菓子屋には帰らずにそのまま次の世界に飛んだ。
久しぶりの委員長の頭突きでだ。
相変わらずに下手だ……痛い。
俺は一度戻る事を提案したのだけど。
世界の変化を知るためにも意味は有ると思うのだが。
それは委員長に簡単に却下された。
その理由は……恥ずかしいからだそうだ。
元の世界に……実際は違うのだがそう思い込んでた世界に帰っても、今の魔法少女の姿から戻らないのだそうだ。
前回の事、戻った時に学校にもその格好で行って、おもいっきり笑われたのだと。
休めばいいのに。
それは、出来ないのだろう、性格か?
それともそもそも休むという選択肢を思い付かなかったとか?
どちらにしても委員長にとっては……ほぼ死刑宣告と同じか。
俺だったら、確実に引きこもりだ。
さて、ここの世界なのだが。
さっきまでが夜だっだ筈なのに、月がいきなり太陽に変わっている。
カードの最初は必ず昼間から始まる決まりでも在るのか?
そして進むべき方向は、とてもわかりやすい。
目の前に塔が在り、回りは何も無い荒野。
詰まりはその塔を登れという事だ。
ただ、あまり気乗りはしないのだけど。
吸血鬼の塔を登った時の記憶がまだ鮮明に残っている。
しんどいのはイヤだ。
だが、そうも言っていられない、委員長が許してくれる筈もない。
諦めるしか無いのか?
大きく溜め息を吐いた。
「今回は……どんな魔物だと思う?」
せめてもの願いだ。
魔物を確定させてくれ。
「さあ?」
さあ? って。
それでは思い込みが発動しないじゃないか!
「大ボスってくらいだから……無茶苦茶に強そうなヤツかな?」
猫よ……弱い方向で誘導してくれないか?
「異世界で強いって言えば……ドラゴンかしら?」
委員長が考え出した。
「ドラゴンは流石に……」
慌てて打ち消そうとしたのだが。
「恐竜みたいなヤツかしら?」
妄想を広げ出した。
「恐竜って言えば、確かその祖先は鳥なんだってね」
弱体化だ!
「鳥か……鶏?」
首を振り。
「鶏とドラゴンは結び付かないわ」
考える。
「大きいイメージではダチョウ? ……絶滅した古代鳥に巨大なのが居たわね」
おいおい。
「強いって言えば、すぐに思い浮かぶのは鷹だけど」
うーん。
駄目だ妄想が暴走し始めている。
「雀とか燕とか……」
「ちょっと邪魔しないで、あんたは黙ってて」
キッと睨まれた。
ウッと息を飲む。
形はどうあれ……ドラゴンに確定なのか……。
せめて飛ぶのだけは……羽は無い方向で調整を……。
と、そんな願いも虚しく。
塔の回りに何やら一匹が飛び回り初めた。
ここからはまだ其なり以上の距離が有る筈なのに、それが見えるという事は……デカイのだろう。
そして、委員長の思い込みの完成……。
飲み込んだ息がそのまま溜め息となる。
その場に立ち竦み、頭を抱えた。
若干にクラクラするのは、いきなり昼間に成ったせいでだ……そうに違いない。
時差ボケってヤツで、委員長のせいでは無い筈だと自身に言い聞かせるのだが。
はたしてそうなのかと頭の片隅から、真実から目を背けるな……そんな忠告がされているそんな気もする。
「ボーッとしてないで、行くわよ!」
委員長が元気に号令を掛けた。
その手は真っ直ぐに塔を差す。
「なんだか、デカイのが居るのだが……」
気の進まない一歩を踏み出しつつ。
「居るわね」
委員長にも見えているようだ。
「ここから撃ち落とせないのかしら?」
そう言ってチラリと俺を見た。
やってみろって事か?
「もっと近付いてからの方が良くないか?」
当たっても致命傷を与えられるのかが不安だ。
ただ気づかせるだけにと為れば目も当てられない。
「そんなの、先制攻撃に決まってるじゃない!」
どうしてもやらせたいらしい。
「横を向いているうちにドンよ!」
諦めてパチンコを構えた。
少しでも威力をと、弾は癇癪玉。
爆竹は相手に到達する前に爆発しそうだとそうしたのだが。
詰まりはそんな距離なのだ。
流石に射程外なのでは?
静かに地面に落ちる普通の銀玉の方が良くないか?
そんな疑問と少しの躊躇が狙いに時間を掛させる。
「さあ、早く撃って」
妙に興奮してないか?
「大丈夫なのかな、怒ってこっちに来ない?」
「来たら来たでその時よ」
杖を振り上げ。
「私が返り討ちにして上げる」
それをブンブンと振り回し初めた。
これは駄目だな、頭に血が昇ってそれ以外の判断は無理そうだ。
仕方無い。
祈るように癇癪玉を弾き飛ばした。
当たれ!
堕ちろ!
これ以上……委員長を興奮させるな!
最後のには特別、力がこもった気がする。
シュっと飛び出した癇癪玉。
真っ直ぐに飛び。
そして遠くの上空、塔の側で爆発した。
破裂音が少しずれて聞こえる。
「当たったか?」
良く目を凝らすのだが、今一見にくい。
「当たった見たいですよ」
鎧君が手でヒサシを作って覗いていた。
「堕ちていきます」
そうか、無事に倒せたか……生むが易しってやつだったか。
ホッと胸を撫で下ろす。
「でも……気付かれた様ですよ」
塔を差し。
「他のがこちらに向かってきます」
「一匹じゃ無かったのかよ!」
良く見れば、確かにこちらに何匹もが向かってくる。
その顔は遠すぎて見えないが……きっと鬼の形相に違いない。
「怒らせた見たいですね……」
剣と盾を構えて戦闘態勢。
「大丈夫だ……後は委員長が倒してくれる」
震える声で呟いた。
だが、それに答えて猫。
「その委員長……もう居ないぜ」
俺の後ろを指差している。
振り返れば、後方の岩影の裏に逃げ込んでいた。
そして、その手を振り回している。
それは、俺達にやっつけろって事なのか? そう言う指示の積もりなのだろう。
頭がクラクラする。
ここは時差ボケが酷すぎる。
「弓じゃ……射程外だな」
猫が呻いた。
そうだ、そんな事を考えている暇はない。
「もう少し引き付けて撃て」
猫に言い付け。
俺はパチンコを構える。
「その間に俺が、少し間引きする」
確実に当たる精度を維持しつつ、癇癪玉を連射し初めた。
次々と堕ちていくドラゴン。
随分と近付いたのかその形がわかる様に為った。
四つ足で背中に羽が生えた、とてもわかりやすいドラゴンだ。
そして、明らかに怒っている。
鬼の形相なのかはわからないが……普段の顔を俺は知らないので判別は出来ない。
が、口を大きく開き、その鋭い牙を見せ付ける様な行為を友好の証なんて言わないだろうから、それとわかる。
横から猫の放つ矢が飛び出していく。
届く距離にまで縮まったのか。
ドラゴンの腹や頭に矢が突き刺さった。
俺も続けて撃ちながら。
「鎧君、あれを受け止められるか?」
ドンドンと間引きは出来てはいるが、全部は無理そうだ。
「やってみます」
前に突き出した盾に、グッと力が入るのが片隅に見えた。
やってみると言う事は……本人もわからないって事か。
まずくないか?
もう少し威力を上げるべく、癇癪玉から爆竹に変更だ。
一発撃って、爆発の間隔を調べる積もりが、見事に三匹を巻き込んで爆発してくれた。
そして、これで距離も読める。
次は、ほんの少しだけ待って撃てばいい。
爆竹の爆発の間隔は導火線の長さで決まるのだから。
と、次を構えた。
ドラゴンが俺達の所に辿り着く迄にそのほぼほぼを撃ち落とす事に成功していたのだが。
一匹、どうしても間に合わなかった。
それを鎧君が受け止めた。
凄い轟音と共に地面がえぐれて、土煙が舞い上がる。
まるで、大砲に撃たれたかのようだ。
その経験は無いのだが……。
だが、そう表現するしかこれに当てはまるものが思い浮かばない。
それほどの威力が、ドラゴンの体当たりにはあったのだ。
「大丈夫か?」
土煙の陰に隠されてしまった鎧君に声を飛ばした。
「なんとか……受け止めれました」
返事が返って来たことに、少しホッとする。
だが、ここからは白兵戦だ!
「猫! 頼む」
そう声を掛ける前に、もう既に消えていた。
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