第37話 ドラゴン


 砂煙の中から突然に飛び上がったドラゴン。

 背中には猫が取り付いている。

 振り落とされない様にしがみつき、時折隙を見ては細剣を突き立てていた。

 

 そんなドラゴンの羽を狙って、銀玉に変えたパチンコで撃っていく。

 猫が居るので癇癪玉も爆竹も危なくて使えないからだ。

 数発で羽を穴だらけに変えて、地面に引き摺り下ろす事が出来た。

 その頃には砂煙も退いて、鎧君も参戦だ。


 背中から猫が。

 腹からは鎧君。

 俺は少し離れてドラゴンの顔を攻撃、注意をこちらに向ける為に。

 その理由は、目の端に写る委員長。

 コソッと背後から近付こうとしている。

 

 うまく見付からずに近付いた委員長。

 ドラゴンの長く太い尻尾の付け根の辺りを、カラフルな杖で叩いた。

 その瞬間、これまたカラフルな星が散らばり、その一撃で尻尾のそのものが消えて無くなる。

 尻尾の無いドラゴンがこれ程に間抜けな姿に為るとは初めて知ってしまった。

 そして、急にお尻が軽く為ったのか? 前に豪快につんのめるドラゴン。

 それも含めて間抜けな格好だ。

 

 しかし、委員長は強い。

 尻尾だけとはいえ完全に消し去ってしまった。

 「委員長! トドメを……」

 の後半は、声が霞む……。

 その委員長がコソコソとドラゴンから離れていくのだ。

 

 何故?

 明らかなチャンスなのに!

 だが、仕方無い。

 委員長が何を考えているのかは後回し。

 どうせ考えても無駄なのだし……理解出来る気がしない。

 

 「二人共、離れて!」


 それに素早く反応する。

 猫は煙となり。

 鎧君は後ろにスキップ。

 そして俺は、ヘチャバッタ姿のドラゴンの足掻く口の中に爆竹を撃ち入れた。

 

 頭ごと吹き飛ばされて、煙からカードに変わるドラゴン。


 「なんとかなったね」

 思わず座り込む。

 

 「こんなの楽勝よ」

 いつの間にかに委員長が先頭で仁王立ち。


 逃げた癖に……。


 「何か言ったかしら?」

 チラリと俺を見て。


 「別に……」

 口に出していた覚えは無いのに、エスパーか?


 「確かに私がトドメをさせたけど……それをやっちゃうとカードに成らないのよ、これで叩くと煙に成らないで星が瞬くのそれで完全に消し去るわけ」

 杖を振りながら。

 

 成る程……カードが欲しかったのか。

 「そのカード……猫が拾いそうだよ」

 

 ハッと慌てた委員長。

 「駄目よ! 触らないで!」

 叫んで走り寄る。


 だが、そのカードを覗き見るだけで一向に拾う気配がない。

 それは、側に寄った猫も一緒。


 「どうしたの?」

 重い腰を上げて俺も側に寄り、覗き込んだ。


 「合体攻撃! ……何?」

 落ちているカードに書かれている文字。

 そして絵は……二人の男が腕をクロスして跳んでいる。


 「何これ?」

 猫も怪しんでいるようだ、拾うのに躊躇している。


 「これは……合体技の出来る様に成るスキルですね」

 そこにランプちゃんが出て来て、解説をくれた。

 「同じ種族の二人で一つのスキルです、体と心が溶け合って強力な力が手に入るのです」

 

 成る程と、俺は委員長を見た。

 「人と人となら……俺と委員長で合体か……」

 

 それに反応してか委員長の顔が真っ赤に成る。

 おっと、不必要な一言だったか? 怒らせたか?

 「他には?……猫は動物」

 

 「自分とランプちゃんは魔物の分類です」

 鎧君が近付いて来た。


 鎧君とランプちゃんじゃ……逆に弱くなりそうだな。

 鎧君は普通でもじゅうぶんに強いのに。


 「却下ね」

 委員長も同じ意見か。

 

 「じゃ……やっぱり俺と……」


 「それは! 駄目!」

 また顔が真っ赤だ。


 まあ、委員長も今の魔法少女の方が強いだろうし、成る程……却下か。

 

 「フクロウにしましょう」

 なんだか慌てている様にも見える。

 あたふたと自分の頭の上のフクロウを掴み、そして俺の頭の上のフクロウを指さした。

 「丁度、同じのが二匹居るのだし、そうしましょう」


 どうも様子が変だ。

 目も合わせてくれない、視線がずれている。

 

 「ほら、フクロウはまだスキルもないし、このままじゃあ可哀想でしょ?」

 

 そして、何時もよりも早口だ。

 やっぱり……怒っている?

 何に?

 わからん……。


 「それでいいんじゃ無いかな」

 取り敢えず、刺激はしない様に同意だけしておこう。


 「この場合は、其々で額に挟んでくっ付けてください、それで大丈夫な筈です」

 ランプちゃんも異存は無いようだ、使い方も教えてくれる。

 単純に逆らう気が無いだけなのかも知れないが。


 「まずはフクロウに触れさせてください」


 「わかったわ」

 頷いた委員長、握っているフクロウをグイっとカードに押し当てた。

 

 チョッと乱暴にも見えたが、フクロウは嫌がる風でもない。

 俺も頭の上のもう一匹のフクロウを委員長に預けた。

 「後は、任せた」

 そう言ってその場を離れる。

 

 近くに居ては危険な何かを感じたのだ。

 委員長の仕草に。

 ここは触らぬ神にってやつだ……逃げよう。


   


 そんなこんなも終わり、俺達はまた前進を初めた。

 フクロウのスキルはまだ試していない。

 どんなモノかは興味は有るが別段、外れでも構わない。

 今までも戦力外なのだから、これ以上のマイナスに成る事も無いだろう。

 次の戦闘の時にでも見せてもらう事としよう。

 凄く良いスキルの場合、委員長がまた機嫌が悪くなるその可能性を考えれば絶対に今じゃ無い方が良いに決まってる。

 リスクは避けてこそ生き延びられるのだ。

 これは冒険者としての大事な素質だと思う。

 そう、俺はもうイッパシの冒険者なのだから。

 

 「なに一人で勝ち誇った様な顔をしているの?」

 委員長の声が飛んできた。

 「まだこれからなのよ、登るんだから」

 そう言って塔を指差している。

 「さっきのみたいなのが、ゾロゾロ居るわよ」

 機嫌は……まだ治っては居ない様だ。

 早口で早足。

 

 

 荒野を塔に向かって歩く。

 陽射しは強いが我慢出来ない暑さでもない。

 それは乾燥した空気のせいなのだろう、喉はとても渇くのだが。


 「飲み物が欲しいね」

 実際はそうでもない。

 ただ……歩き初めてからこっち、委員長が喋らない。

 何時もは、黙るなんて辞書には無いって感じなのに。

 俺と委員長の間のクウキの方が乾燥し始めている。

 それに我慢んが出来なく成ったのだ。

 俺は……何をした?

 

 「ボスを倒せば帰れるのかな?」

 チラリと委員長を覗く。


 「……」

 返事がない。


 「まだだろう」

 代わりに猫が答える。

 「その先の創造主ってヤツの所に行かないと……」


 うん、わかっている。

 会話のキッカケってヤツだったのだが……それを猫、君が邪魔しているのだ。

 

 少しイライラし初めた。

 猫にじゃない。

 委員長にってわけでもない。

 自分にだ。

 何時も言われている……話がツマンナイ、もしくは面白くない、が身に染みる。

 俺にはこの重いクウキを打破する話術が無さすぎる。

 

 原因を直接、聞くか?

 単刀直入に行くべきか?

 意を決して委員長に顔を向けるのだが。


 その委員長。

 俺を見るなりプイっと横を向く。

 やっぱり顔がまだ赤い気がする。

 ……。

 熱いのだろうか?

 そう言えば、一人厚着だ。

 この日照る中での黒いローブ……そうに違いない。


 「その上着脱げば?」

 探るように、当たりも柔らかく。

 「邪魔なら持つよ」

 ピンクのヒラヒラは気にしていないって感じで。

 ここでその魔法少女の格好は触れない方が良いのは俺でもわかる。

 だから……さりげなくってヤツで。


 「……」

 やっぱり返事がない。


 「それにしても、委員長さんの魔法少女のスキルは強いですね」

 ランプちゃんが入ってきた。

 この場のクウキのおかしさに耐えられなく為ったのだろうが……それは言ってはいけない事だと思うぞ。

 

 どうフォローしたものかと考えていると。

 

 「もう入り口に着きますが……どうします?」

 鎧君も入ってきた。

 「アレ……」

 

 そのアレを俺も見付けてしまった。

 遠目に見える塔の梺、大きめの入り口前に立つドラゴン。

 さっきのは普通にドラゴンで、サイズも大きかったのだけど驚く程でもない、納得の大きさだった。

 だが、このドラゴンはそれよりも一回り大きい。

 そして、姿形ももう少し凶悪そうだ。

 恐竜のティラノサウルスっぽいのに背中に羽が有る、そんな感じだ。

 

 「門番ですかね?」

 鎧君はこの場のクウキを全く気にしていなかった様だ。

 「話して通じるかな?」


 いや……それは無理だと思うよ。

 

 「アレは駄目だろう」

 猫も突っ込む。

 「頭が悪そうにしか見えない」

 

 猫も実は俺と委員長の間のクウキは見えていなかったのか?

 普通の会話だ。


 「なんだか……委員長さんポイ雰囲気も有りますし」

 ランプちゃんがとんでも無い事を口走った。


 慌てて委員長を見る。

 だが、それでも委員長に変化は無い。

 ホッと胸を撫で下ろす。

 「みんな……クウキを読もうよ……」

 小声で呟いた。


 聞こえない様に注意した積もりだったのだが。

 それに反応した三人。

 一斉に、俺を見る。

 その目。

 それは貴方のせいです、自分でなんとかしてください……そう言ってる様に見えた。

 

 だが、俺も言いたい。

 俺が何をした?

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