第34話 革命


 委員長が言うには。

 今日の夜に革命が起こるのだそうだ……。

 

 虐げられて棄てられた者達がこちら側。

 皆が不満を持っている。

 だけど誰も行動を起こさない。

 それは何故か?

 そのやり方を教えて、率いるリーダーが居ないから……だそうだ。


 「それを、委員長がやるのか?」


 「違うわよ、私がやった処で所詮は余所者……誰も聞きはしないわ」

 

 「じゃあ……」


 「出来そうな者を見付けて、吹き込んだのよ」

 ニヤリと嫌な笑かたをした。

 



 実際、アンダータウンの人々が次々と地上に出ていく。

 瞬く間に、夜の静かな街が喧騒に包まれ初めた。

 ただ、それらは暴れる風でもなく、何やら叫びながらに行進している。

 至るところで出来た集団は皆が同じ場所を目指していた。

 市役所だ。


 もう既に相当数が集まり取り囲んでいた。

 それを俺達は遠巻きに見ている。

 場所は噴水の見える角の陰。

 月灯りでハッキリと見てとれる。


 「でも、夜に市役所に来ても誰も居ないのでは?」

 

 「大丈夫よ……上でも噂は流しているから」


 「上でも?」


 「まず下で、コッソリ上に行った人がそのまま住民票を貰ったんだってってね」


 「それだけでこれか?」


 「まさか、続けて……どおも騒ぎが大きく成るのを嫌って黙っている事を条件にしたらしい」

 ニイっと。


 首をひ捻る俺。

 やっぱり理解出来ない。


 「爆発寸前の下の人間には十分よ、それに実際に回りで突然に消える人間も居たから、皆がアイツがか? ってなったのね」

 俺の顔を覗き。

 「あんな街だから人が居なくなるなんて日常茶飯事だけど、疑い出したら止まらないわよ」


 「そこに先導者か?」


 「そう、あんたの爆竹と一緒、火さえ着けてしまえば後は爆発するだけ」

 

 「上は?」


 「同じ事を少しだけ脚色したの」

 大きく息を吐き。

 「下の人間が住民票を寄越せって騒ぎだしたみたい、市長様の処へ直談判だって騒いでいる……ってね」


 「そんなのただの噂で終わるだろう?」


 「ここの街、あんたは見た?」

 俺の疑問に返す。


 「昼間に見た……皆が笑っていた」


 「そう、誰もが平和主義で軍隊どころか警察も居ないのよ何故だかわかる?」


 「反抗しそうな者を下に落としたから?」


 「洗脳して骨抜きにしたのよ……そして力を恐れて警察も軍隊も無くしてしまったのよ」

 街を見渡して。

 「ここの世界のすべてが街だから、軍隊の存在意義は元々無いんだけれども、警察の方は人がいれば事件は起こる筈なのにそれをマインドコントロールして無くしたの」


 「そんな事が出来るのか?」


 「閉鎖された空間だから、皆が最低限の生活さえ保証されてしまえば誰もそれを壊そうとはしないわよ」

 フンっと鼻を鳴らして、集まっている人を見て。

 「それでもおかしな事を考えそう者は……」

 指を下にして。

 「落として隔離よ」


 「ふうん……」

 まだ納得は出来ないが、そこに委員長の思い込みのスキルが乗っかったのか?


 「それにそんな事をする市長様だもの、そんな噂でも十分に怖がってくれるわよ……安全な市役所から出られないくらいにわね」


 成る程……やっぱり思い込みだな、これは。

 「で? 次は?」

 委員長は革命だと言ったが、今の状態はまだデモの範囲だろう。

 そう為るにはもう一押し必要に見えるが。


 「そうね……計画ではここからじっくりと時間を掛けるつもりだったけど」

 チラリと俺を見て。

 「あんたが来たから、計画変更ね」


 何かをやらせるのか? 俺に。

 眉が寄る。


 「あんた、デモの先頭に爆竹を撃ち込みなさい、少しだけ犠牲者が出るくらいの加減でよ」


 「え!」


 「見てみなさい」

 市役所の入り口を指差して。

 「街に警察は居ないけど市役所にだけは警備員が居るのよ、デモを追い返そうと準備してるでしょ」

 

 確かに、制服を着た人たちが入り口に集まっている。


 「その警備員にも少しだけ犠牲者を出して……そうすれば双方がお互いに攻撃されたって思うでしょう」

 一息入れて。

 「それでデモが戦争になるわ……詰まりは革命って事」


 無茶苦茶だな!

 呆れて押し黙ってしまったが、委員長はそれを少し勘違いをしたようだ。


 「大丈夫よここの者は皆、魔物だから……それを少し倒すだけよ」


 そう言う問題でも無いのだが。


 「さあ……早くやってよ!」




 委員長の指示通りに爆竹を撃ち込んだ。

 爆発と悲鳴。

 そして、少し間を空けて……罵声。

 そのままデモ隊は暴徒化した。


 一気に市役所の中に雪崩れ込む。

 手近な何かを掴んで武器にする者も現れた。

 

 「私達も行くわよ!」

 その人波に紛れ込む委員長。

 見失うわけにはいかないと俺達も後に続いた。


 どうも委員長と一緒に居ると……荒事が増える気がする。


 建物に入れば流石に受付には人は並んでは居ないが、それでもホールは人で溢れていた。

 あまり行儀の良くない人達で。

 もう既にデモでも革命でも無く暴漢か略奪者のような振る舞いだ。

 暴れまわっている。


 「俺達も巻き込まれないように気を付けねばな」

 誰かが投げたであろう椅子を避けつつ。


 「大丈夫よ、標的は制服を着て居るから識別は簡単よ」


 「だけど……その制服組は俺達を識別出来る?」


 「……あ!」


 あ……じゃないよ。

 そこまでは考えていなかったのかよ。

 

 「大丈夫よ、襲ってきたら返り討ちよ」

 俺を指差して。

 「あんたが!」


 また、他力本願か……。

 どいつもこいつも、何でもかんでも俺にやらせたがる。


 「委員長も闘えるように為ったのでは?」

 さっき、吸血鬼に杖を向けていたのはしっかりと見ていた。

 やたらに派手な短い杖。

 色もだがその形もだ。


 そう言われた委員長。

 黙ってうつむき、続けてソッポを向いた。

 

 「そうだよ、そんな派手な……」

 猫も委員長を指差して。

 「ピンクのヒラヒラな服まで着込んで……なんかカードを拾ったんだろ?」


 突然の指摘に目を見開いて、素早く黒いローブの襟元と裾を押さえる委員長。

 早業だ……だが、スピードのスキルでは無いのだろう。


 「隠したってモロ見えだぜ」

 猫が委員長を見上げている。

 その身長なら下から覗けているのか。


 まあ、それが見えなくても杖を見た段階で想像も付いたのだけど……。

 別に恥ずかしがる事でもないと思うが。

 ……。

 相当に酷い格好なのだろうか?


 「まさか……こんな事に為るなんて思っていなかったのよ」

 

 また、カードの確認もせずに使っちゃったのか……。

 「慌てないでしっかりと見れば良かったのに」

 つい、口につく。


 「見たわよ! しっかりと確認もした」


 「どんなカードだったの?」


 「魔法使いの……」

 キッと俺を見て。

 「魔法が使えるように為るだけのカードだと思ったのよ」


 「成る程……魔法少女に成ってしまったのか……」

 駄菓子屋で、小学生の低学年の女の子が良く買っていくあのカードか。

 

 「杖は百歩譲ってそのままでも、服は着替えればいいじゃないのか?」


 「ダメだったのよ、この世界に入った途端に強制よ」

 吐き捨てた。


 「魔法はそれぞれの性質に関わる部分ですからね」

 ランプちゃんが捕捉をくれた。

 「根幹の部分を変えてしまうので、その都度の変更は出来ないのです」

 委員長にとっては、蛇足だろうが。


 「あんた知ってたの?」

 ランプちゃんに食って掛かる。

 「何で最初にいっとかなかったのよ!」


 「いえ、委員長さんも好きかと思って……」

 慌てたランプちゃん。

 「駄菓子屋で昔、買ってましたよね?」

 言わなくてもいいことまで言ってしまった。


 「何で知ってんのよ! そんなの大昔の事よ!」


 実際に買っていたんだ……。


 「駄菓子屋で私のカードの隣に置いて有りましたし……」

 

 ランプちゃんのカードも売っていたのか!


 「その時、わざわざ私を指で弾いて隣のを買ってました」

 少しだけ恨めしげに。

 「だから、ハッキリと覚えているのです」


 成る程……最初に委員長とギクシャクしたのはそのせいでか。

 ランプちゃんは委員長を覚えていて。

 委員長は昔にランプちゃんのカードに対しての気持ちは、忘れてはいたが……たぶんだが、こんなの買う人が居るのかしら、くらいの気持ちで見ていたのだろう、それが心の何処かには残っていたのじゃないか?

 推測だけど、大きくは間違って居ないと思う。


 「まあ……それはよしとして」

 話を変えよう、このままでは喧嘩になってしまう。

 委員長の一方的にだけど。

 「もう戦えるのだろう……戦力は増えるに越した事はない」

 大きく頷いた。


 暫くは委員長を見て笑うのは控えた方が良さそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る