第22話 カードのオッサン


 ふと気付くと、目の前で猫と鎧君が何やら話している。

 暫く……ボーッとしてしまっていた様だ。


 二人は喧嘩をしている様でも無いようなのだが、床を指差し言い合いに近い感じに見える。

 床? と、そこで思い当たった。

 そうか、カードが落ちているのか。

 成る程と良く見れば、猫がそれを拾おうとして、それを鎧君が制止している様だ。

 委員長に言われた「勝手に拾っちゃ駄目よ」が鎧君の中ではまだ生きているのだろう。

 猫は、もう気にしていない様だが。

 

 喧嘩にまでは成らないうちにと、重い腰を上げて二人の元へと近付いた。


 その問題に成っているカードを覗くと……忍術! と、ある。

 巻物を咥えた黒ずくめのそのまんま忍者が、胸の前で手を組み……ドロン。

 って……何時もながらに呆れるくらいにベタだ!

 そして……何が出来るのかは、サッパリだ!

 

 「猫で……いいんじゃないか?」


 えええ! ってな顔をしているんだろうなと、思われる鎧君。

 顔は変わらないが……態度は露骨に見える。

 有る意味非常に分かりやすい。


 「委員長も見ていないし……前回は猫だけが無かったしね」

 そう言いながら、目の前でスキップをしてみせた。

 俺も無かったが……忍者は、流石に中二病過ぎる。

 いや、もっと子供っぽい? ヒーロー者に憧れる幼稚園児か?

 ……将来の夢で、忍者って言ったことは、有るのだけれどそんなのズット昔だ。

 今はもう違うのだ!


 ニヤリとした笑いを鎧君に見せつけながらに拾って、それを俺に渡してくる。

 そして、背伸びをして額を前に。

 

 自分でやればいいのに……。

 しかしまあ、望む通りにしてやった。

 狭いおでこで消えるカード。

 そして、猫の目の前に巻物が、1つポトリと落ちた。

 猫に合わせたのか、少し小さい。


 「で、何が出来る?」

 その巻物を拾って読んでいる猫に聞いてみた。

 

 「頭に……長いハチマキを巻いて、走る」

 ? な顔になる。

 もう少しほどいて。

 「麻の苗を植え……」

 ? 眉が寄る。

 バラバラッとほどき。


 「修行か?」

 俺の一言に泣きそうになる。


 最後までほどいて。

 「……巻物を咥えて忍術」

 にかッと笑って俺を見上げた。


 「うん、やって見せて?」

 頷いてやる。

 

 巻物をくいいる様に睨み付け。

 「モゴモゴ……ドロン」


 「なんだそりゃ」

 何も起こらない。


 悲しそうな顔になる。

 

 その手に持った巻物を取り上げて見てみた。

 ……読めない、何語なんだと言うよりも、小さな猫の足跡が並んでいる。

 「もう一度……猫語で呪文を唱えてみて」

 少し、可哀想になってきた。


 「ニャニャん……ニャンニャン」

 体が薄く光る。


 「お!」

 だが……それだけ。


 駄目なのか? と、手元の巻物に目を落とす。

 わかるわけがない。

 いや、そうじゃない。

 確かあの絵では、口に……。

 手早く、くるくる丸めた巻物を猫に咥えさせた。

 「もう一度」

 

 「ニャフガニャフガ」

 体が光、そして薄くなる。

 だが、まだ駄目な様だ。

 すぐに元通り。


 「今度は、手を前で組んでみて……こう」

 手本を示す。

 胸ので組、指を一本立てた。

 確か、こんな絵だった。


 頷いた猫、やって見せる。

 唱えた呪文はなに言っているのかサッパリだが、目の前の猫の体が煙になって消えた。

 「え! 何処行った?」

 これは、少し予想外だ。


 「ニャニャ」

 天井付近で霧が集まり。

 猫に戻って、落ちた。


 「大丈夫か?」

 落ちて、大の字に潰れている猫に声を掛ける。


 「痛い……」


 どうも、今一不満げの様だ。

 「霧に成って移動出来るなんて、凄いじゃないか」


 「でも、あんな所に出るなんて」

 

 自分の意思であの場所では無いのか。

 「何かルールでも有るのだろうか?」

 法則なり、基準なりがわかれば。


 巻物を読み返す猫。

 「何も……書いてない」


 「もう一度、やってみよう」


 頷いて巻物を咥えて。

 「ニャニャん」


 今度は、俺の背中に回り込む様に現れた。

 「フム」

 なんか、わかったような気がする」

 「もう一度……今度は部屋の角を見ながらやってみて」


 「ニャニャん」


 部屋の角に現れた。

 

 「やっぱり」

 

 ん? な顔になる猫。


 「見ている所……多分、無意識に意識している場所に行くんだよ」


 「無意識に意識?」


 「霧になる直前に見ていた場所がそうじゃないかな?」


 眉が寄る。

 そして、もう一度試して見るようだ。


 今度は、反対側の壁。


 「にゃルほど」

 頷いた。


 今の微妙な言い間違いは、わざとか?

 巻物の猫語に引っ張られた天然か?

 どちらでも良いが、やっぱり素晴らしい技だ。

 「今までのカードの中では一番じゃないのか?」


 にヘラと笑う。

 そこに少しだけ含みが見えた。


 「委員長のは……あれは別格だ、一緒にしちゃいけない」

 あんな反則、チートも逃げ出す様なバグ技だ。

 それに、あのカードを俺が使っていたとしてもあんな風には為らないだろう。

 あの思い込みは、絶対に無理だ。

 平凡な変化がせいぜいだろう。

 

 「あの……」

 ランプちゃんが横から話しかけてきた。


 君もそう思うだろうと、頷き返そうとしたのだが。


 「カードが……」

 ランプちゃんの指す先にも落ちていた。


 そのカードの絵は、駄菓子屋だった。

 もう、出口のカードか?

 先のコウモリの中にボスがいたのか?

 雑魚の中に紛れたボス? 

 雑魚と変わらない強さ?


 しかし、まだ委員長は見付けて居ない……。

 その手掛かりすらも無い。

 どうしたものか?


 だが、終わりなのだとしたら、その先に続きなど有るのだろうか?

 今までは、出口カードを見付ければ直ぐに戻ったからその先にってのがわからない。

 いや、無いのだろうな。

 前回の魔女の時も、カードが出るはそのままボスの死。

 そして、その眷属であろう魔物、骸骨も消えた。

 やはり、そこで終わりなのだ。


 今回は、呆気ないだけで終わってしまったのだ。

 仕方無いと、カードを拾う。


 と、ランプちゃんが俺に声を掛けてきた。

 「もう、夜に成りましたよ」

 直ぐに続けて、そして鎧君を指す。


 端に寄って居眠りを始めていた。

 外の様子も、いつの間にかに静になっている。

 猫と忍術で遊んでいるうちに時間が経つのを忘れてしまっていたか。

 

 「今回は、ここまでか……」


 「え! まだ終わってませんよ」

 ランプちゃんがビックリして声を上げた。


 「でも、カードが」


 それをさえぎり。

 「まだ、外にはオオカミ達が居ますよ」

 壁にくっついて耳を当てて。

 「ほら、足音がします」


 まさかそん筈はと、静に扉を開けてソッと覗いた。

 ……。

 居た。

 オオカミ?

 二本足で歩いている。

 しかし、なりはオオカミそのものだ。


 「何で?」


 「満月ですから」

 事も無くそう言って頷いたランプちゃん。


 オオカミってのは満月だと二本足に成るのか?

 いや確かにオオカミ男はそうだろうけど……オオカミ男なのか?

 ……。

 それはいいとしよう。

 良くは無いが、今はそれよりもコッチだ。

 手の中のカードに目を落とす。

 

 「これは……」

 考えても、わからないか?

 ……。

 わかる筈も無い。

 

 ならば、試して見よう。

 カードを額に当てた。


 もちろん煙となって消える。

 だが、俺は相変わらずに狭い部屋の中のままだ。


 そして、目の前には変な親父が立っていた。

 最初に駄菓子屋で踊っていたオッサンだ。

 赤色のラメのジャケットの……あれ? 青いラメのじゃ無かったか?

 着替えたのか?

 俺の思い違いか?

 しかし、そんな事はどうでも良い。

 それよりも話が出来るであろう事は確かだ。

 

 「女の子を見ませんでしたか?」

 食いぎみに叫ぶ。


 「はて? 見たような……見ないような?」

 そのオッサン、躍りはしないのだがしかし、動きは何かぎこちない。

 

 「どっちなんだよ」

 猫が割って入ってきた。


 「はて?」

 右に動きつつ。

 「さて?」

 左に動きつつ。

 

 今にも踊り出しそうだ。


 「何処に居るのかを教えて下さい」

 わけのわからない事になる前にと詰め寄った。


 「フム……」

 首を捻り、何やら懐を探り。

 「これを買ってくれたなら、思い出すかも知れないな」

 と、目の前に一枚、カードを差し出した。

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