第21話 古城
今の位置、階段の高さを利用して爆竹をばらまいた。
下では、オオカミ達が次々と吹き飛ばされている。
それでも運が良いのか、うまく避けたのか、数匹は階段を駆け上がってくるヤツがいる。
が、それも鎧君に盾で止められ、その後ろから猫が弓で仕留めている。
今の所は俺達の方が優勢なのだけど……。
それは、敵の数次第だ、爆竹には限りが有る。
パチンコの銀玉も無限では無い。
猫の矢は無限に湧いて出てくるのだが、つがえて射つそのスピードは決して早いとは言えない。
案の定と言うべきか、ヤハリと言うべきか。
オオカミも無限に近い湧き方をしている様だ。
切りがない。
後ろに下がるべきだろうか。
しかし、城壁の上は遮るものが無い、ただの狭い通路だ、いやここよりも広くて高低差も無いからもっと不利になる。
ここは前進しかないのだろう。
「ランプちゃん、何処かに逃げ場は無いだろうか」
空からなら安全に探れるだろうと、頼み込む。
それに頷いたランプちゃん、その場にランタンを置いて飛んでいく。
ランタンは爆竹の火の確保の為だろう、有難い。
暫くは膠着状態。
優位な位置をそのままにして、待つ。
「そこの通路の奥に扉が有ります、少し開いていたので鍵も掛かってないです」
指差した先は、階段の下の真向かいの建物と建物の間、この城自体も建物なのだが大きすぎてそう見える場所。
「わかった、そこに逃げ込もう」
その答えに、猫も鎧君も頷いた。
そして、爆竹の束を取り出した。
20ッ個が繋がったそのままに火を着けて投げ落とす。
下では、ドッカンドッカンと連続して爆発して、広がりまた爆発。
それが修まるか修まらないかのタイミングで鎧君が盾で階段のオオカミ達を一気に叩き落とした。
階段の段差でもスキップは出来るようだ。
そもそもそう見えているだけで違うのだろうけど。
しかし、そんな事はどうでも良い。
少しだけ開けたその場所を突っ切って走り抜ける事の方が先だ。
もちろん走りながらも攻撃の手を緩める事は出来ない、そんな事をすれば直ぐに噛みつかれる。
数もだが速さも尋常じゃない。
そして、こちらも速さだ。
走るスピードはそのままに、狙いを犠牲にして撃ちまくる。
どうせ狙ったって意味は無い、ほぼ確実に当たるのだから。
考えるに、最初の頃のカード、確か百発百中てのが有った……あれだろうと思われる。
普通なら狙わないと当たらないものなのだが、でも適当にでも意識すれば当たってしまうのだ。
そんなのは、本来はおかしな話だ。
それに思い当たるのがあのカードしかない……ってか、思い切り書いて有ったそのままに、思い出せた時点で府に落ちる。
狭い通路に飛び込んだ俺達。
後尻に鎧君を置き、件に扉を探す。
短い通路のどん突き。
因みに、どん突きとは……関西の方の方言らしい。
どんと突き当たる場所。
前に転校してきた子に聞くまでは知らなかったのだが。
京言葉でもあるのだそうだ。
まあ、俺は京都人なのだからそれが当たり前と思っていたのだけれど。
方言と言われて、地方ってのを初めて意識し、実感した言葉だった。
今は、それはどうでも良いのだが。
緊迫した時には何故かどうでも良い事が浮かぶ。
いや、緊迫では無いのかも知れない、単調な分かりやすい作業に為っているんだ。
これも現実逃避か何かなのか?
それとも、単純に俺だけで……性格なのかも知れないけれど。
と、やっぱりどうでも良い事を考えてしまう。
それを振り切って、半分開いたその扉に飛び込んだ。
部屋は真っ暗だった。
窓の無い、狭い部屋。
真っ暗でそれが何故わかるのかは単純に、扉を開けた時に刺した明かりで向かいの壁が見えた。
今は、その扉もしっかりと閉じているので真っ暗。
そして、この扉はオオカミには開ける事が出来ない、手が無いのだから。
当たり前の事だけど、それを実際に確認できれば安心できる。
ほうッと一息。
「ランプちゃん、灯りを頼む」
「はい、今灯します」
暗いと思っていれば、走っている最中にでも消えてしまったのだろう。
本人は飛んでいるのだから一番安全な筈なのに、一番アタフタしていた様にも見えた、これも性格か?
と、ボヤッと辺が見え始めた。
突然、大きな音が直接鼓膜を殴る。
なんだ? と、音の出所を探るのだが良くわからない。
「今のはなんだ?」
「わからない……聞こえない音なのに聞こえた」
猫も耳を押さえている。
「大きな音でしたね」
ランプちゃんがフラフラしている。
音に脳でも揺さぶられたか?
と、上を向いた時にもう一度、大爆音。
バン! なのか、ガン! なのか? 音自体は聞こえていないのでわからないが、確かに響く大音響。
それにランプちゃんがヤられてしまった様だ。
パサリと落ちる。
慌てて受け止めたのだが、完全に気絶していた。
そのランプちゃんの小さなランタンを掴み、高くに掲げてみた。
音の発生源はこの部屋の中だ。
しかし、部屋中を照らしたのだが、何も居ない……。
そもそも何も無い部屋だった、ただ四角いだけの床と壁の部屋。
「何処からの音だ?」
それに反応したのか、また大音響。
慌てて耳を塞ぐ。
俺、自身もクラクラしてきた。
こんなのを何発も耐えれる自信は無い、そのうちランプちゃん同様、気絶してしまいそうだ。
その、俺の袖を引く鎧君。
見れば、鎧君は平気そうだ。
耳が無いからなのだろうか?
それ以外も中身はカラッポなのだけど。
「なんだ? 何かを見付けたのか?」
「はい……天井に」
慌てて、見上げたのだが、暗くて良くわからない。
背伸びをしてランタンをもう一段高くにかざす。
天井に……柔らかそうな黒い絨毯。
幾つもの小さな光が反射している。
それは、目玉だ。
逆さにぶら下がった、コウモリだった。
さっきの音は、こいつらの出す超音波だったのか。
俺達を不審に思い、調べようとして音を出した?
いや、邪魔モノだとわかった上での音の攻撃?
どっちでもいい、大差ない……しっかりとダメージは有るのだから。
「駄目だ、外へ出ろ」
今、閉めた扉を開けて飛び出した。
ソコには勿論、オオカミ達がいる。
飛び出して来た俺達に向けて唸り声を出している、ヨダレをたらしなが。
俺は癇癪玉を取り出して。
オオカミ達にでは無くて、部屋の天井に、扉の隙間から撃った。
コウモリが音で攻撃してくるのなら、こちらも音で仕返しだ。
癇癪玉の本来は音の方が大きい、今まではその爆発の威力に頼っていたが。
今回はそのまま音だ。
パン!
壁越しにも響く音に振動。
「よし! 戻れ」
再び、部屋に飛び込んだ。
そーっと天井を確認してみる。
石組のタイルが見える、絨毯では無い。
落ちたのか? と、床を照らせば何枚かのカードが落ちていた。
それ以外には何も見付けられない。
音だけで退治できてしまった様だ。
まあ、それなりの爆発でもあったのだけれど。
しかし、これで本当に一息付けられる。
と、その場にヘタリ込んだ。
安心出来る場所で良いのだろうかと、その部屋を見渡す。
もう本当に薄暗いだけの部屋だ。
扉を背で押さえて座り込んで、目線で探る。
やはり、何も無い小さな部屋。
このまま暫くここで隠れていれば、外のオオカミ達もそのうちに諦めてくれるだろう、それを待つしかないか……。
そう判断を着けたとたんに喉が無性に渇いていることに気が付いた。
委員長が居れば、飲み物くらいは持っていそうだ。
カード中の世界で、お弁当をひろげるくらいなのだから。
少し、笑ってしまうが。
すっかり、ピクニック気分だったのだろう。
とても楽しんでいた様に思う。
……。
今はどうなのだろうか?
少しくらいは不安に成っていたりはするのだろうか?
まさか……帰れるのに、敢えて帰らないなんて事は無い……よな?
首を降りつつ、その考えは否定することにした。
早く探して、助け出す……では無いかも知れないが。
とにかく、一緒に帰ろう。
この世界、魔物に出合えばそれなり以上に怖い思いもする。
背中の扉、一枚隔てた外のオオカミ達を感じながら。
委員長も、怖い思いをしているに違いない。
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