変わる世界
第20話 学校
翌日は朝から夕方まで、駄菓子屋の前でボーッとしていた。
委員長が来なかったのだ。
昨日のあの老婆とお爺さんを見てしまえば、やはりへこむものが有るのだろう。
実際、委員長に会えたなら、今日は辞めとこうと言うつもりだった。
それはそれで言えるかどうかもわからないので、気が重かったのだが。
正直、来てくれなくて良かったと、胸を撫で下ろしていた。
日曜日は1日つぶれちゃったけど、仕方無い。
明日、学校で話そう。
話が……出来ればいいな……。
夕暮れ時になり、トボトボと家路の道すがらにも考える。
そして、月曜日。
委員長は学校に来なかった。
クラスメイト、何人かにそれとなく聞いてみた。
委員長と中の良かった女子にも、勇気を出して声を掛けた。
でも、誰も休んだ理由は知らないとしか言わない。
どこか、具合でも悪いのだろうか?
しかし、今まで委員長が病欠なんてしたことも無いのに……。
それに、もうすぐ夏休み……つまり期末テストも有るのに、委員長なら少々の熱くらいなら這ってでも来そうなものだが。
放課後に駄菓子屋にも現れ無かった。
日が暮れるギリギリまでは待ってみたのだけれど……。
火曜日。
今日も朝から居ない……。
ってか、あれからまだ一度も会っていない。
もちろんその間は一度もカードの中には入っていない。
委員長を置いていくのは、なんか違う気がしたからだ。
ふと、思う。
もしかして、委員長はまだ帰ってきていないのでは?
あのままカードの世界に閉じ込められたままなのでは?
まさかとは思うのだが、その考えが頭から離れない。
おかげで、授業の内容も頭に入って来ない……普段も別段、聞いているわけでは無いのだが。
授業中、寝る事も出来ずに少しイライラさせられた。
放課後、意を決して職員室に出向く。
委員長と中の良い子にもう少しだけ聞いても良いのだけれど、それよりも先生に聞く方がハードルが低い。
クラスのみんなに変な勘違いをされるのは嫌だ。
「あの……」
担任の先生を見付けて話し掛けた。
ここで見る俺が余程に珍しいのだろう、少し怪訝な顔を見せたが直ぐに笑顔に変えて見せた。
「委員長の事なのですが……」
担任の目が細くなる。
「休んでいるのは何故ですか?」
ここまでただ聞いていた担任。
初めて口を開いた。
「何故それを君が?」
俺と委員長の接点など無い筈なのにと言う事なのだろう。
いや、クラスメイトなのだけど……それ程に俺と委員長には距離が合ったのだろう。
性格?、成績? もちろん性別も。
「仲が良かった様にも見えなかったけど?」
何故に聞いたのかが、不思議で成らない様子。
そして、その担任の様子を見て、俺も少し理解した。
委員長はやはり家に帰っていない。
学校では、委員長の事が問題になっている。
事件か家出か、とにかく帰らない委員長、探しても見付からないのだろう。
今、俺の問いに……何か知っているのか? と、疑問が一瞬覗いた気がした。
「この間、学校帰りに駄菓子屋に寄ったんですけど……」
慎重に話を進める。
「その時に、小遣いが足らなくて、たまたまそこに居た委員長が貸してくれたのです」
もちろん嘘だ。
だが、それを担任は聞いてくれている。
「月曜日に返す約束だったのですが……その日に何かを買うと言っていました」
一呼吸置き、担任の顔を伺い、そして続ける。
「どうしても買わなければいけないものが有ると言っていたのに、貸してくれたのです……なのに、学校に来ないから返せなくて」
「なにを買うと言っていましたか?」
俺の嘘を信じてくれたのか?
「さあ……わかりません、それは聞いてはいませんでした」
そんなのは、わかる筈もないし、そこの嘘は用意もしていない。
「でも、大事なモノだそうです……念は押されました」
「君は……その駄菓子屋でなにを買ったの?」
「アイスです……かじった後にお金を払おうとしたら、財布が無かったのです」
ジッと俺を見ている。
「それは逆だとはわかっていました、先にお金を払うモノだと……でも、その日はあまりに暑くて……つい」
辻褄は合っただろうか。
話がおかしいのは、話の最中に気が付いた。
「助けて貰ったのに、返せなくて気になって気になって……」
これ以上はボロが出そうだ、さっさと切り上げてしまおう。
「風邪か何かなら、家の場所を教えて下さい……お金を返しに行きたいので」
「それは、ダメね……住所は教えられない」
やはり……おかしい。
クラスメイトなのに、教えてくれない。
委員長の中の良い友達に聞けばわかる事なのに、隠した所で意味も無い筈だ。
何か合ったのだろう、それも大事に為りかけている。
「わかりました……学校に出てくる迄、待っています」
それを最後に、そそくさと職員室を抜け出た。
これ以上は話しても、もう得られるモノは無い、とばかりに。
背中から声を掛けられるのは警戒してだが……それもなく、すんなりと出ていけた。
担任も、大した意味は無いと判断したのだろう。
そして、駄菓子屋。
1枚のカードを取り出した。
湖に浮かぶ城の絵が描かれている。
委員長を探しに行かなければ。
迎えに行こう。
額にカードを当てた。
ソコは、城の城壁の上だった。
石組で組まれた城壁。
城そのモノも石で出来ている。
だが、もう使われては居ないようだ。
組まれた石の隙間からそこかしこと草が生え出している。
捨てられた城、古城だ。
背後を覗けば、下は湖? 川? とにかく水に囲まれている。
いや、ダムの中の様だ。
崩れて落ちた石の柱が転々と続いて、その先に水を塞き止めているであろう石の壁の様にも見えるが、その先を見るにやはりダムだ。
石の柱はそのまま崩れた橋なのだろう、本来はそれがダムに届きそこから伝い歩き両側のどちらかの陸地に繋がるのだろうと、思われる。
つまりは、今は出入口は潰れて無いのだ。
今回の舞台はこの古城だけだという事だ。
だが、果たしてここに委員長が居るのかどうかなのだが、他に手懸かりも無い。
探すしかないと、準備を始める。
猫を出し。
鎧君を出し。
ランプちゃんを出した。
そして、爆竹に癇癪玉とロケット花火は既に補充はしてある。
それらを背中に背負い。
「行こう」
と、みんなを即した。
前回の様に、話の出来る魔物が居れば早いのだろうけど……。
城壁の上を歩き初めて直ぐに、下に降りられる階段を見付けた。
とても狭く壁に沿って下っている、壁の反対側は剥き出しだ。
落ちれば痛いなんてもんじゃ済まないだろう、そう思うと足がすくむ。
鎧君を先頭にゆっくりと進んで、半ば程の所で下から大きな犬が駈上って来た。
鎧君の肩に噛みつこうとヨダレを撒き散らし飛び付いてくる。
もちろん、鎧君に噛み付いた所で歯が立つとも思えないが……しかし、敵意は明確に感じられる。
パチンコを構えて銀玉で撃ち抜く。
階段の開けた方から地面に真っ直ぐに落ちていく。
落下の衝撃で弾けて煙と成った。
「モンスター?」
チラリとランプちゃんを確認。
「オオカミです」
「そのままじゃないか」
なんの捻りもない。
それでも、煙に成った時点で魔物は確定なのだろうけど。
「ドンドン来ますね」
鎧君が盾を下げぎみに今一度、構え直して。
「返り討ちだ」
猫に目で合図する。
「落ちるなよ」
注意も続けて。
「はん、猫だぜ」
弓を射ちつつ。
「狭くて高い所は得意分野だ」
なるほどその通りか、人間である俺が一番危ないってことだな。
「何処か、身を隠せる所を探そう、ここじゃ見通しが良すぎる」
眼さえ良ければ、丸見えだろう。
オオカミなのだから、近眼なんて有り得なさそうだし。
「そうですね、慎重に急ぎましょう」
鎧君がまた一匹を弾き飛ばして。
見ればその先、続々と集まりつつある。
低く構えてこちらを向いて唸りをあげているオオカミ達。
まずはそいつ等を片付けねば。
俺は背中のカバンから爆竹を取り出した。
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