第23話 委員長の行方


 差し出されたカードは、フクロウ。

 委員長が持っていたのと同じだ。


 チラリとオッサンを見る。

 これは……知らないのか、教える気が無いのかはわからないが、このフクロウを使って自分で探せってことか?

 多分そうなんだろう。

 委員長のフクロウは俺を常に指していた。

 この、俺のになったフクロウは委員長を指し続けるのだろう。

 

 「いくら?」

 足先をウズウズさせているオッサンに尋ねる。

 エナメルの青く光る靴の中では、足の指が我慢できずに踊り始めているのだろう……多分だが。

  

 「買っていただける?」

 

 「いくらですか?」

 今、手持ちの小遣いで間に合う筈だ。

 最初の時にも、俺の全財産を言い当てた。

 それが何故わかるのかは不思議だがしかしそれがこの変なオッサンの特技なのだろう。


 「100円です」

 にこりと笑い手を差し出す。


 安い!

 常識的な値段だ。

 いや、カード一枚の値段にしては高いのかも知れないが。

 委員長を探す為のならば安い。

 てっきり、全財産を要求されるものと思って構えていたのだがこれなら。

 すぐさまその手に金を置いて、カードと交換した。


 「まいどおおきに、有り難う御座います」


 関西人なのか?

 そして、同じ意味の言葉を何故2度も?


 「お嬢さんですが、もうここには居ませんよ」

 

 小さな疑問を上塗りされた。

 「え! じゃあ……」


 「もう次に行きましたよ」

 ニコリと微笑み。

 「そりゃもう、ムチャをして……ルールそのものをねじ曲げてね」

 笑いながら首を振る。


 さほど困った様には見えない。

 どちらかと言えば、それを楽しんでいるようにも見える。

 そこでふと疑問に思う。

 ルールと言う言葉が使われた。

 つまりはこのカードの世界はゲームであると……。

 であれば、それを管理するものが居るということか?

 目の前の変なオッサンを注視する。

 このオッサンが管理者か?


 その俺の目線に気付いたのか。

 ニヤリと返して。

 「では、これで」

 そのまま左右に踊り初めて、直ぐに煙になって消えた。

 後にはカードは残らない。

 倒したわけでは無いのだろう、猫の忍術と同じ様なものか?

 追うことも出来そうに無い。

 何処に行ったのかもわからない。

 追いかけた所でどうにか成りそうな気もしないが。


 さてと、残ったフクロウのカードを額に当てた。

 目の前に現れる小さなフクロウ。

 委員長のと同じだ。

 

 「で、何処に居るのかはわかる?」

 挨拶も何も無い、単刀直入に聞いた。


 「ホー」

 フクロウは小首を傾げて悩みだす。


 ここには居ないと言っていたな、これは居ないから方向を差せないと理解しておこう。

 まさか、委員長がわからないなんて事は無い……と、思いたい。

 もしそうなら……詐欺だ。

 あのオッサンを訴えねばならない。

 その方法は知らないが……それ以前、100円を取られたって誰に言えばいい?


 「ボスを探そうか?」

 溜め息を一つ。

 もうここには用は無い。


 頷いた猫。

 完全に寝こけていた鎧君を蹴って起こした。


 「はう?」

 ヨタヨタと回りを確かめる。

 寝惚けたフルプレートアーマーを初めて見た。

 



 小部屋を出れば、やはり満月の夜。

 比べる明かりが無いせいか? 月光が眩しい。

 そして、オオカミ男。

 二本足で立ちそこいらを徘徊している。

 擬人化して、鼻と耳の能力が落ちたのか影に隠れれば気が付かない様だ。

 だが、決して弱体化している様なわけでは無さそうだ、それは一目見ればわかる。

 武装していた。

 胴鎧を身に付け、剣または槍を携えている。

 それらの刀身が鈍く月明かりを反射していた。

 

 「極力、戦闘は避けよう、静に移動だ」

 皆にそう告げたのだが……。

 目に入った鎧君が固まっている。

 動くたびに金属音を響かせるその体。

 音も無くは無理な注文の様だ。

 さりとて、それを脱いだとしても中身が無いのだから何も残らない。

 脱いだ……バラバラに為った鎧君を運ぶ事に成るだけだ。


 影から影に移動。

 目指すのは城の中央、一段高い塔の天辺だ。

 何故そこかは、勘だ。

 だが、ボスなんてそんなもんだろう?

 諺もにも有る……バカと煙とボスは高い所に登りたがる。

 ……。

 あれ? ボスだったっけ?

 ボスじゃ無くて、勘違いした権力者? なんかそんなカンジじゃ無かったか?

 少し考えて。

 成金だったかな?

 ……。

 まあそんな事はどうでも良い。

 それだけが目指す理由なのだけど、そうに違いないと決め込んだ。

 チラッと地下も有るかもとはよぎったが、それは前回にやってしまっている。

 ゲームなら、同じ事を続けはしないだろう。


 カシャン……。

 動くたびに音がする。

 そして、皆の注目を浴びる鎧君。

 幸いオオカミ男達はまだ気付いては居ない様だが、これは時間の問題か?


 角を曲がり。

 路地? 通路? そんな所を背を屈めてゆっくりと進む。

 カシャン。

 次の角を覗く。

 その先は広場だ、そして奥に大きくて立派な扉が見える。

 今までは小さな小屋、いりくんだ路地。

 つまりは外なのだが。

 あの扉の中は、建物の中……本当の城の中って事だ。


 だが、その前の広場にはオオカミ男達がうろついている。

 これは、見付からずに入るのは無理そうだ。


「ここは突破するしかないか」

細心の注意を払い、見える範囲を確認して。


「中央突破!」

 鎧君が剣を構える。


 「いやいや、なるべく端の方から大回りで」

 勇んだ鎧君を引っ張り戻す。


 「弱気だな、真ん中でいいんじゃ無いの?」

 猫も突撃案に賛成か?


 「それなりの数だぜ……袋叩きにされるのは嫌だ」

 目線は大広間、玄関前を覗きつつ。

 「無謀と勇敢は全く別物だ」


 「ならば、俺が真ん中を通してやるよ」

 猫が言い切った。


 「どうやって?」

 走り込むにしてもこの広さ。


 「まあ、見てろ」

 

 あまりの自信に、目線を猫に向けた。


 その俺に返事がわりに、ニヤッと笑って。

 そして、煙に成る。

 

 ナニを! のその声を上げる前、先にオオカミ達の怒鳴り声が広間に響き渡った。

 見れば、扉から離れた別の路地の前に猫が立ち、弓を射っている。

 そこに走り込むオオカミ達。

 猫は、路地の影に消えた。

 すぐに反対側のまた別の路地の前に現れる。

 オオカミの怒鳴り声。

 それを、俺達と玄関を線で結んだ、対角線上で何度か続けて。


 「今だ! 走れ」

 後ろから猫の声。


 見れば、綺麗に左右にオオカミ達が割れている。

 確かに今のうちみたいだな。

 今なら見られずに行けそうだ。

 他の皆にも合図を掛て、広間に飛び出しす。


 対面の玄関の前には、既に猫が現れて扉を開けていた。

 その開かれたソコに飛び込むだけだ。

 

 カシャカシャカシャカシャ。

 鎧君の足音が思いのほか響く。

 わかってはいたが、流石にまずい気もする。

 

 やはりにそこまで音を立てればオオカミ達も気付く。

 怒鳴りを上げて、俺達の方へと戻ってきた。

 

 気付かれては仕方無い。

 爆竹をとポケットを探ると、丸いモノが手に触れる。


 おっと、コレが有った。

 取り出したのは煙玉。


 「ランプちゃん、火をくれ」

 導火線に火を確認して、そのまま左右に投げ分けた。


 広間は一気に煙に包まれる。

 その勢いは尋常でな無かった。

 これも威力100の力か。

 俺達も含めて誰も前が見えない状態。


 「しまった! やり過ぎた」


 「兎に角真っ直ぐに!」

 俺の声を遮り、猫が叫ぶ。


 その声を便りに玄関に走り込んだ。

 直ぐに扉を閉める猫。


 「ふう、なんとか為ったな」

 一瞬、駄目かと思った。

 流石に予想外に煙が出てしまった。

 大きな溜め息が出る。


 「あのう……」

 ランプちゃんが少し震えた声で。


 「すまん、まさかここまでとは」

 怖かったのだろう。

 まずは謝っておこう。


 「はい、ビックリはしましたけど」

 まだ、続けて喋る。

 普段、無口なのに余程だったのだろう。


 「もう大丈夫だ、扉はしっかり閉めた」


 「いえ……違うんです」


 まだ何か有るのか?

 謝ったのに。


 「鎧君が居ません」

 

 !

 見れば、確かに鎧君だけがその場に居ない。


 まさか……。

 そーっと扉を開けた。

 

 隙間から覗いたらば、薄れゆく煙の影で見ずらいのだが。

 すぐ側に大きな毛皮の玉が有る。

 ん?

 良く見ればオオカミ達の塊。


 ああッと声が漏れだす。

 あれは……。

 と、その玉が破裂した。

 飛散したオオカミの中から鎧君が出てくる。

 

 だが、直ぐにオオカミ達にたかられ、また毛皮の玉に飲み込まれる。


 また爆発。

 

 たかられるたびに鎧君がスキップで、弾き飛ばしているようだ。


 「助けなきゃ!」

 あわてて、パチンコを構え直す。

 

 猫も弓をつがえていた。 

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