第17話 ゾンビ

 

 部屋を出れば、廊下。

 ここも薄暗い。

 ランプちゃんが灯りを灯してくれた。

 それでも廊下の端は真っ暗で見えない。


 鎧君を先頭に慎重に進む。

 探すのは地下への階段。

 

 途中、扉を見付けた。

 だが、鍵が掛けられている。

 もう、委員長に聞くまでもない。

 何処かで鍵を探さねば。


 「開く扉を探してくれ」

 それに頷く剣と盾を構えて進む鎧君。

 「たぶん、今の扉が次に繋がる部屋だ」


 そして、もう1つ期待がある。

 ゲームを元に思い込みなら、確か何処かで銃を拾う筈だ。

 このゲームは俺もやったので、それは間違いない。

 委員長の思い込みが、変に変わらない限りはだが。

 本物の銃に俺の威力100が加われば、それは相当な威力に為るだろう。

 小さな拳銃の弾でも、戦車の大砲並みに成るかもしれない。

 是非に手に入れたい所だ。


 「ここ……開いてます」

 扉にソッと手を掛ける鎧君。


 頷いて。

 「中を確認してみよう」

 そう言いながら、手元でパチンコの準備を始める。

 玉は銀玉、ランプちゃんの唾つきだ。

 ゾンビにだって効きそうだ、アンテッドなのだろうから。


 ユックリと中に入る。

 ソレを後ろから覗き込み。

 「灯りを」

 ランプちゃんがそれに答えて、手に持つランプごと高くに飛び、掲げる。


 部屋が入り口から照らされる。

 ここは書斎の様だ。

 奥の窓際には机と椅子。

 横の壁には本棚。

 反対の壁側にクラシックな意匠の座り心地の良さそうなカウチ。

 その横にも扉。

 後は何もない、そしてゾンビも居ない。

 つまりは探すべき場所は、ここでは机だけという事だ。

 まさか本棚に細工なんて序盤には有り得ないだろうしと、チラリと委員長を見た。

 本棚には興味は無い様だ、カウチに腰を落としている。


 机の上には何もない、正確にはタイプライターと何やら書きかけの紙とペン。

 どれも古くて埃を被っている。

 三段に並んだ引き出しを開けた、下から順に引いていく。

 こうすればいちいち閉めなくても全部を確認出来る、古い映画で見たのだテレビで放送されたヤツだけど。


 「あんた、泥棒の才能有るわね」

 

 「何もない、この部屋では無いようだ」

 と、机から離れた。


 その瞬間に奥の扉、委員長の座っているその横が開け放たれて、ゾンビがなだれ込んできた。


 「キャ!」

 驚き、椅子からズリ落ち、床に尻餅を着いた委員長の横から鎧君が飛び出し盾で守る。

 猫は、今見ていた机にタイプライターを蹴飛ばし飛び乗って弓をつがえて構える。

 俺は、その場でパチンコを撃った。


 最初に飛び出したゾンビは猫が仕留めた。

 その次のは俺だ。

 その隙に鎧君が開かれた扉を塞ぐように立つ。

 盾越しに押し返している様だ、踏ん張る足元が滑る様に下がっている。


 「鎧君! そのままでスキップのスキルだ」


 小さく頷いて腰を落として前に。

 ドンと一歩を踏まずに進んだ。

 その弾みに押さえていたゾンビの群れが一気に弾き飛ばされて隣の部屋に押し戻された。

 素早く鎧君の後ろに回り込み、その頭越しに猫と共に狙いもソコソコに撃ちまくる。

 狙いたくても狙えないのだ、暗すぎる。


 「ランプちゃん、安全な天井づたいに部屋に入って灯りを」


 直ぐに部屋が見通せる様になり。

 床に蠢いている生き残りを片付けた。

 最初に適当に撃ち込んだのがほぼほぼ当たっていたようだ。

 狭い部屋なんだから当たり前ではあるのだろうが。

 

 目に見えるゾンビが全て煙に為ったのを見て、鎧君と猫の指示を出す。

 「他に隠れて居ないか探せ」


 「居ないみたいです」

 返事は直ぐに、ランプちゃんから帰って来た。

 天井に張り付いて見ているのだから一番良く見えるのだろう、当たり前か。

 

 一旦は制圧完了かと、ホッと一息を入れた。

 「そのスキップ、いいスキルだったね」

 最初に見た時は外れにしか見えなかったが、いざ使えば成る程鎧君向きだ。

 ゼロ距離からなら全てを弾き飛ばす。

 相手の力も重さも関係無いようだ。

 問答無用に瞬時に一歩前に移動する。

 唯一ゼロ距離に成れる盾持ちの為の技だ。

 

 「カード……落ちないね」

 猫が恨めしそうに委員長を見ている。

  

 そんな猫に小声で。

 「気付いているのか?」


 「そりゃ、気付くよ……あんな変な会話は無いよ」

 

 「気付かない方がおかしいか……」


 「そうでも無いみたいだよ」

 と、鎧君とランプちゃんを交互に見て。

 「気付かない方が多いみたいだね」

 

 「二人は気付いて無いのか?」

 少し驚いてしまった、鈍いのか……そもそも興味が無いのか。


 その問いには肩を竦めるだけで返事としたようだ。

 そのままスタスタと歩いて部屋を探索する。

 

 書斎の隣は応接室のようだ。

 さっきよりも立派な机、使いずらそうでは有るが……と、低く深いソファーがしつらえて在る。

 壁際にはローテーブル、その上には何やら変な置物。

 未開の地の装飾品?

 骨の標本も在る……猫だろうか?

 うちの猫の反応を見るにたぶん正解なのだろうなと思われる。

 とても嫌な顔をしている。

 

 そして、そのテーブルの引き出しを順に開けていく。

 直ぐに見付けられた。

 鍵の方だ。


 「さっきの扉に戻って見ようか」

 見付けた鍵を皆に見せながら。



 鍵の扉を越えてみればそこは中庭だった。

 真ん中には井戸が在る。

 その向こうには良く手入れされた垣根と綺麗な花達。

 垣根の間にはアーチも見える、進む先はそこなのだろう。

 そして、いつの間にかに日は落ちていた。

 闇の中に虫の音とフクロウの鳴き声。

 そのフクロウは、委員長の頭の上のヤツなのだが。

 

 「今頃、出てきたのか?」

 猫も呆れている様だ。


 「そりゃ、フクロウだもの夜行性でしょう」

 委員長が擁護している。

 同じ役立たず同士だと思ってか。


 「まあ良いじゃないか」

 ソレが雰囲気造りの為だけでも、猫と同じで最初の仲間だし。

 「ソレよりも先に進もう」

   

 アーチを潜れば垣根が壁に成り、道と為って続いている。

 直ぐにT字路、左右は先が見えない。

 適当に左に進む。

 またT字路。

 その右手の先には十字路が見える。

 何処に繋がっているんだ?

 

 「ランプちゃん上から見て貰えるか?」


 頷いて高くに飛び上がるも、直ぐに戻ってきた。

 「駄目です暗くて良く見えません……私のランプじゃ光も届きません」


 「そうか……」

 と、チラリと委員長を見た。


 「迷路なんじゃない?」

 肩を竦めて。


 成る程……また面倒臭いモノを……。

 「何時かは出られると信じて適当に進むしかないか」 

 ほとんど嫌味として言ってみたのだが、その当の本人はそれに全く気付いて居ないようだ。

 いつの間にかに先頭に立ち、コッチだアッチだをやっている。


 

 いったい何時間も歩いたのだろうか?

 一向に先に進んでいる気配がない。

 幸いな事に魔物には出会わないで居るのだが、しかしいい加減にしんどい。

 この屋敷は何処まで広いのだろうか?

 建物を最初に見た時にはそんなに広いようには感じなかったのに、奇妙な造りだ。

 

 「もう……面倒臭いな」

 俺は呟き。

 「垣根を越えれば良いのじゃないか? どうせ草か木なのだから」

 鎧君に薙ぎ倒させて、それで一直線に進めばいい。

 

 「なにを馬鹿なことを! そんな事をすれば魔物が集まってくるじゃない」

 語気を強めて怒鳴った委員長。


 「出るならば、倒せばいいんじゃないのか?」

 そう言いながら猫に目配せ。

 猫も頷いて、鎧君の元へと向かう。


 「大量に出るじゃない、ウジャウジャと」


 「ここなら爆竹も使える、一気に殲滅出来て好都合だとも思うけど」

 屋外なら何も遠慮する必要もない。


 「それでも……」


 なにを気にしているのか?

 俺にはさっぱりだ。

 今回は委員長のルールに従う事も無いだろう。

 もう大概に付き合った。

 

 視線の端で、猫が鎧君を押している。

 ここらが頃合いだろうとの判断か。

 直ぐにバキバキっと音と共に垣根を押し倒し、新しい通路が出来た。

 この迷路のルールの外の道だ。


 そして案の定、魔物が現れた。

 何処からともなく、ゾンビが、スケルトンが……そして幽霊も。


 彼らには垣根は意味を為していない様だ。

 普通に乗り越え、跨ぎ、潜ってくる。

 ルールなどはなから無い。


 「近い敵は任せた」

 猫に告げて、俺は癇癪玉で離れた魔物を纏めて狙う。

 そして時折、爆竹を見えない闇の中に放り込む。

 さっきの委員長の言い様なら、そこいらじゅうに居る筈だ。

 出会う前に爆破してしまえばいい。


 だが、やはり数が多いのか少しずつだが混乱し始めた。

 各々が慌てる事が増え始める。

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