第16話 洋館

 

 改めて息を整えた委員長。

 意を決した様だ。

 ユックリと立ち上がり。

 「さあ、ボスを倒しに行きましょう」

 だが、その顔は疲れきっていた。


 そんなに幽霊が嫌なら、居ない事にすれば良いのに。

 ってか、幽霊がって思わ無ければ……たぶん出て来ないと思われるのだが。


 「また、なんだか出そうね……この森の薄暗い感じ」

 肩をブルッと震わせて。

 「嫌な感じね」


 あぁ……またフラグを立てた。


 そして、案の定に出てくる。

 木の脇からスーっと。


 わかっているので対処も早い。

 ランプちゃんの口の中に銀玉を突っ込み、唾を着けた玉で撃ち込む。

 パン! っと弾けて煙に為った。


 「うわー嫌だ! 怖いし汚いし」

 両腕で自身を抱え込み。


 怖いは幽霊で、汚いはランプちゃんの唾か?

 ソコはそのままで、変な思い込みは辞めてくれよ。

 

 「どうせ、触るだけでも消せるんでしょ?」

 だいぶふて腐れぎみに。

 

 しかし、ソコは大きく頷いておいた。

 また、対処法が増えた!


 「いや、やはりランプちゃんは凄い」

 チラリと委員長を見ながら。

 「癒しの能力がスゴくいい」

 頷き。

 「この神々しい姿を見れば、幽霊も寄ってこないのでは?」

 チラリ、チラリ。


 その委員長、ジッとランプちゃんを見ながら。

 「神々しい……ね、そうは見えないわね」

 鼻を鳴らして。

 「小さいだけのただの小娘よ」


 駄目か……。


 仕方ない、出てくる度に対処しよう。

 「先を急ごうか」

 鎧君を先頭に立てて歩き始めた。


 「因みにだけど、魔女ってどんな感じだと思う?」


 「決まってるは、鷲鼻のお婆さんね」

 

 「黒いローブとか、大きな壺で何か変なモノを煮ていたり、とか?」


 「そうね、そんな感じで……古い洋館の地下室に住んで居るのよ」


 新しいフラグだ……。

 「弱点とかは?」


 「基本的にはお婆さんだし弱いけど、変な魔法を使ったりしそうね」


 微妙な情報だな、それは。

 「でも、魔物なんだよね?」

 人間では困る、ソコは大事だ人殺しには為りたくない。

 弱ったお年寄りを虐めるなんて、最悪だ。


 「この世界には、私と貴方以外には人間は居ないわよ」

 

 いい感じに言い切ってくれた。

 これで心置き無く戦える。


 「で、その洋館は……何処に?」


 「この森の中の……案外、近くに有ったりして……」

 そう、言い終わらないうちに、見えてきた。


 成る程、うまく誘導出来れば展開が早い。





 その洋館は森の中にポツンと建っていた。

 森の木々に邪魔されてその大きさはわからないが、玄関を見るに、むやみやたらに大きい建物では無さそうだ。

 探索をすることなく、直ぐに地下室に行けそうだ。

 ソレは委員長次第ではあるが。


 ソッと扉を開けた。

 魔物が住む屋敷だ、声を掛ける必要もないだろう。

 静に中に入る。


 玄関ホールはそれなりの広さだ。

 正面は階段、中段で踊り場になり、そして、左右にまた上っている。

 踊り場に奥の壁には大きな肖像画。

 紳士の髭のおじさんだ。

 魔女の旦那さんか何かか?

 こういうのを見せられると人間だと勘違いしてしまいそうだ。

 

 一階の玄関ホールの左右には其々に扉が有る。

 ただ、地下に下りれる階段は見当たらない。

 ここではない何処か別の部屋か廊下の先か、何処かには有る筈だ。


 「これは、何だろう?」

 猫が何かを見つけた様だ。


 階段の裏手に回り込める壁?

 その下にとても小さな扉の様なモノが見える。


 「ネズミの為の扉?」

 鎧君の意見だと、そう見えるらしい。


 が、サイズ的にもソコに合うサイズはやはりネズミか……ランプちゃんくらいか。

 

 「覗いて見て来てくれない?」

 の、その委員長の問いにブルンブルンと首を振るランプちゃん。

 

 1人で入るのは嫌なのだろう。

 その気持ち、良くわかる。

 「まあ、ランプちゃんだけが通れるその先に何かが有っても意味は無いんじゃ無いかな?」


 小さく肩を竦めた委員長。

 その通りだと理解したのだろう、それ以上は何も言わない。


 「ソレよりも、扉は両脇」

 左右を見て。

 「後は階段」

 上を見る。

 「どっちに進む?」


 「右かしら……」

 その扉の前に移動。


 「この扉の横にも、小さい扉が有るね」

 猫がまた見つけた様だ、指差している。


 「有るね」

 みんなで頷いた。


 「ヤッパリ止めて、左にしましょう」

 踵を返す委員長。

 その小さい扉には何か引っ掛かるものが有るようだ。

 それの無い左側に進んだ。


 「いっそ、建物事爆破してしまえばどうです」

 猫が、物騒な事を言う。


 「確かに一部屋事に見て回るよりかは、早いかも知れない」

 爆竹を取り出して見せた。


 それを払い落とす委員長。

 「駄目よ、人の家を爆破なんてソレはどうかと思うわ」

 

 倫理的にはそうかも知れないが……。

 その家の主を、これから倒しに行くのだけど……。

 ソレはどうなのだ?

 変に、突っ込んでヤヤコシイ事にはしたくないから黙ってはいるのだが。

 なんか、おかしくないか?


 俺と猫は顔を見合わせた。




 「鎧、先に行って」

 手招きして呼んで。

 「ソッと、開けるのよ」

 委員長、本人は最初に行くのは絶対に嫌なようだ。

 何時もの事なのだが、その矛先が今回は鎧君に向いたのだろう。

 俺では無くても良いようだ。


 ユックリと扉を開けて、中に入っていく鎧君。

 だが、決して静かとは言えない、その歩く音。

 カシャン。

 

 「誰も居ないようです」

 振り向き。

 「普通の部屋です」


 その言葉に安心したのか委員長も続いた。

 その後に俺と猫。


 窓が在るのだが、光が入らないのか薄暗い。

 それでも、部屋の様子は目を凝らす事無く見てとれる。


 真ん中には大きなテーブル。

 その上に幾つかの燭台、ローソクは載っているが火は着いていない。

 食事の為の部屋か?

 埃をかぶり使われた形跡は無いようだが。

 

 そのローソクに火を着けて回ったランプちゃん。

 部屋の明るさが外を上回ったのか、硝子に自分達の姿が映る。

 もう、外の様子はわからない、見ようと思えば近付いて影を落とせば見えるのだろうけど、そこまでして見ても意味の有るものは見られないだろう。

 たぶん、そのまま森だけの筈だ。


 「うわー、誰よこれ?」

 委員長が俺の後ろで呟いた。


 見れば部屋の奥の暖炉の上に肖像画。

 さっきのとは違う誰かだ。

 変な蛇腹の大きな首巻き、尖った髭、禿げた頭、枯れ果てた老人。

 この家の関係者なのだろうけど、食事しながら見たい絵ではないと、思う。

 大層な格好なのだから、御先祖様とかだろうか?


 「なんだかこの雰囲気……」

 

 マズイ、とても嫌な予感がする。

 慌てて話を遮ろうと割って入ろうとしたのだが……。


 「ゾンビとかが出そうね……」


 遅かった。


 「おおおおおう」

 屋敷の何処からか不気味に響く唸り声。


 頭を抱えたくなる。


 「因みに、ゾンビの弱点は?」


 「ソレは、頭でしょう……銃でヘッドショット」


 成る程、委員長はあのゲームをやった事があるのか。

 なら出てくるゾンビも想像がつく。


 「そのゲームは面白かった?」

 幽霊はキライでもゾンビは良いのか。


 「弟のを借りて、ほんのチョッとやっただけよ」


 という事は、最初のゾンビだけなのだな。

 最後の方、凶悪なボスが出てきていたが……見た事は無いと思いたい。

 

 「でも、ゲームとは違うわよね、ここのゾンビは魔女が造ったのだろうし」

 

 そういう不確定要素はやめてくれ。

 「ゾンビの成り立ちは別にしても、ゾンビそのモノが変わるわけでも無いでしょう? まさかここのは新鮮なゾンビ? とか」


 「そんなの居るわけないじゃ無い」

 俺の方に向き直り。

 「ゾンビはゾンビよ! 腐った死体」


 「噛まれれば?」


 「ゾンビに成るのよ」


 「じゃあ、噛まれても大丈夫な鎧君は絶対にゾンビには成らないって事だよね」


 「あら……確かにそうね」

 鎧君に目をやり。

 「硬くて噛めそうに無いわね」


 決まりだ!

 「先頭は鎧君に頼む、ゾンビが居てもしっかり足留めしてくれ」

 猫と目配せ。

 「俺と猫で倒す」

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