第18話 迷路

 

 しだいに増える魔物。

 見えていないだけで四方八方、魔物だらけだろう。


 その一方向、俺達が向かって居た方に重点的に爆竹を投げ、そして鎧君に道を作らせ、爆破で吹き飛ばされた崩れた垣根までをゴリ押しで進み。

 そこまでこれたなら後は、爆散した元垣根を踏み越えて行けば、一直線だ。

 それに、ずいぶんと広く見通せる様にも為っている。


 しかし、もちろんこのままじゃ拉致があかないのはわかっている。

 だから、少し仕掛けをしながらの移動だ。


 爆竹の導火線を引っこ抜き、中の火薬を垣根に振り掛けておいたのだ。

 何本かを犠牲にはしたが箱買いの爆竹だ結構な数は有る、それに今回はここまで使っていなかったのだ、まるまる残っている。


 この変で良いだろう。

 「ランプちゃん、後ろの垣根に火を着けて!」


 小刻みに頷いたが、たぶん意味ははかっていないと思われる、アタフタとした仕草で指先の火を投げた。


 今、来た場所から一気に燃え上がる炎の熱と光が襲い来る。

 火薬の力で辺り一面火の海だ。

 もちろん、魔物も纏めて焼却だ。

 この場合は火葬と言った方が良いのか? ゾンビに骸骨に幽霊なのだから。


 「後方はもう大丈夫だ囲まれる事も無い、後は前だけを気にして一気に抜けるぞ」

 そう叫んで、満を持して温存しておいたロケット花火に火を着けた。


 甲高い音を発して真っ直ぐに飛び、その近くの魔物を巻き込み薙ぎ倒す、そして最後に遠くで大爆発。

 恐ろしい程の威力だ、何処かの国の将軍様が見れば大喜びだろう、もう武器ではなくてコレは兵器だ。


 ソレを有りったけ、撃ち込んでやったらば前方もホボ壊滅状態。

 ここまでやれば、後は適当に爆竹と癇癪玉でドッカン! ドッカン! だ。

 思わず、高笑いが溢れそうになる。



  

 迷路の外れに辿り着いた。

 もはや迷路でも何でも無い、ただの焼け野原だが。

 あれだけの大量の魔物だ、カードも沢山落とした筈だが、それを見付ける事は無理だろう。

 全て焼けてしまっている。

 勿体無いとは思うが仕方の無い事だ。

 生き抜く事の方が、遥かに優先順位が高いのは自明の理。

 それよりも問題なのが、ここが何処かだ。

 どうも方向を間違えたようなのだが、それにしても最初の森に出るのならわかるのだが……。

 いや、ここも森か。

 明らかに違うとわかる大木が立ち並ぶ、目の前に立てば壁にしか見えないそのサイズ。

 地面は起伏の激しい丘と谷、それと太い木の根っこか?

 暗くて良くは見えないが、上は枝葉も凄いのだろうと、その地面が教えてくれる。

 光が遮られて草も育たない。

 そして、巨大な枯れ葉がそこいらじゅうに落ちている。

 ただ歩く事も大変そうだ。


 「困ったな」

 

 「確かに困りましたね」

 返事をくれたのは鎧君。

 しかし、俺の「困った」とは意味が違うようだ。

 「完全にはぐれましたね」


 見れば委員長が居ない。

 もちろん頭の上のフクロウも一緒に。

 

 「探すにも……どうする?」

 猫が燃えた迷路を指して。

 「戻るにも、熱すぎて無理だろうし」


 火は半分は消し飛んで消えてはいるが、もう半分は完全に火事だ、音を立てて燃え盛っている。

 このまま戻れば、丸焼きか蒸し焼きに成るだけだ。


 「生きては……居ますよね?」

 ランプちゃんが不吉な事を言う。


 と、何処からかフクロウの鳴き声が響いてきた。

 反響してか方角まではわからないが、頭の上のフクロウだと思われるそれ。


 「生きては居るようだぞ」

 しかし、困ったと言う顔の猫。


 「目的地は同じなのだから、先に進もう」

 有る意味最強のスキル持ちでも有るのだ、そうそう死にはしないだろう。

 「お互いに屋敷の中に戻れば、そう広くも無いだろうから会えるだろうし」


 「そうだなここに居ても合流は出来そうもない」

 火と熱の海に分断された今の状況ではどうにも成らないと、そう考えての事の様だ。


 「この迷路の脇に沿って進めば屋敷には戻れるだろうしな」

 そう言って笑ってやった。

 心配そうにしていた鎧君とランプちゃんの為に。




 屋敷には、迷路を迂回して直ぐに戻れた。

 ただ、少し雰囲気が違う。

 洋館の壁がそそり立つ、見上げても屋根の切れ目さえ見えない。

 

 「こんなに大きかったか?」

 思わず呻いてしまった。

 まるで高層ビルを見上げている感じだった。


 「見た目のサイズ感は確かに違うけど、壁の造りはこんな感じだったと思う」

 猫も見上げている。

 「それに、こんなに近くに別の屋敷がってことも無いと思うし……」


 「入ってみれば分かるのでは無いでしょうか」


 冷静な判断だよ、鎧君。

 確かにその通りだ。

 ジッと立って見上げていてもラチはあかない。

 「入れそうな所を探すとしよう」




 壁に沿って進む。

 どうも違和感が有る。

 この壁に森の木……でかすぎる。

 その正体は直ぐにわかった。

 

 見付けた扉をくぐって中に入る……と、一目瞭然で理解した。

 広い廊下……広すぎる。

 高い天井……高過ぎる。

 巨大なサイドテーブル。

 端に見える扉も、なにもかもが大きい。

 まるで巨人の家だ。

 ああ……イヤな予感がする。

 この洋館に入る前に委員長が……。

 だが、否定もしていた筈だ。


 「コレは……」

 立ち尽くす、その俺の腕を鎧君が引っ張った。

 袖を引く、ではなく身体事持っていかれるぐらいに。

 

 なにをと言うまでも無く目に入る。

 巨人……いや、巨大なゾンビだ。

 足を引き摺りながらにこちらに歩いてくる。

 慌てて、サイドテーブルの足の下に逃げ込んだ。

 幸いな事に、こちらには気付いて居ない。

 小さくて目に入らない様だ。


 その目の前を地響きと共に通過していくゾンビの足。

 戦うなどと言う選択肢は自殺行為と等しいと思われる。

 ただ息を殺して過ぎ去るのを待った。

 そのサイドテーブルの後ろに大きな赤い箱が落ちている。

 箱が少し潰れて中身が見えた、銃の弾だ……。

 ヤハリ銃が有るのか。

 が、とても使えそうに無い、明らかに巨人用のだ。

 でかすぎる。

 巨人ゾンビの背中を覗く。

 あのサイズの為のモノは俺達には無理だ。


 その巨人、大きな扉を開けて中に消えていく。

 扉が閉められたのを合図に走り出した。

 巨人ゾンビとは反対の方向に。

 

 廊下の角まで来て、一旦停止。

 沿って曲がった先を伺う。

 直ぐに、巨大な扉が在った。

 そして、その横には小さな扉も在る、俺達のサイズだ。

 

 後ろから地響きがする。

 振り返れば、巨人ゾンビがさっきの扉を開けて戻ってきた。

 同じヤツかはわからないが、脅威のレベルは全く一緒だ。

 慌てて小さい扉に向かって走った。

 この場所には隠れる所も、遮るモノもない。

 目線を下に落とす事もなく、俺達を見付ける事が出来るだろう。

 そんな場所に一時も居たくはない。


 出た場所は、また巨大なホールだった。

 更に高い天井に巨大な階段が真ん中から右側に延びているのが見える。

 その正面、反対側には巨大な玄関扉。

 奥にも、ここと同じような大きい扉、その扉は半分開いている。

 全てが見上げるようにそびえていた。


 そして、階段と玄関の間に、細長く大きな筒。

 その長さ、俺の背の半分程のサイズが転がっていた。

 とても見覚えの有るそれ。

 近付いて見ればヤハリだ。

 太い縄の様なモノが筒から延びている、導火線だ。

 コレは……と、手に出した爆竹と見比べて。

 「同じものだ……」


 そして、その場所から階段の上を見れば、踊り場には髭の紳士の肖像画。

 理解した。

 

 「ここは、最初に入った玄関ホールだ……さっきのゾンビは巨人じゃない」

 息を吐き。

 「俺達が小さく為っているんだ」


 委員長が言っていた魔女の魔法か?

 それとももっと直接的に、委員長自身の思い込みのせいか?

 どちらにしても、あの迷路が怪しい。

 最初は普通の中庭だと思っていたのが、巨大な迷路に成っていた。

 迷路に入っていきなり小さく為ったのか?

 迷路を進むうちに徐々になのかはわからないが、あそこからだ。

 巨人のスケルトンは否定していたが……。

 スケルトンではなくてゾンビで。

 そして巨人ではなくて……俺達の方が小人か……。

 

 ドンと、大きな音と共に開け放たれた扉。

 驚き、振り向けば巨人ゾンビがこちらを見ている。


 考えている暇は無さそうだ。

 完全に目が合った。


 頭の上を飛んでいたランプちゃんをひったくり。

 「火! 火を出して」

 その火で、床に落ちている元のサイズの爆竹に火を着けて。

 「走れ! コッチだ」


 階段の裏側、最初に見付けた小さな扉に向かった。

 そこは、ネズミの為の扉ではなかった。

 小さく成った人間の為のモノだったのだ。


 後方で、俺達に向かって来ていたゾンビがタイミング良く爆竹の破裂に巻き込まれてくれた。

 直ぐに煙に変わる。


 そして、俺達は扉の中に逃げ込んだ。

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