自分から踏み出した一歩

第6話 草原

 翌日の放課後。


 俺は駄菓子屋に居た。

 委員長との待ち合わせなのだが……。

 その言い出した本人はまだ来ていない。


 まぁ……俺と違って忙しいのだろう。

 帰り際に職員室に入っていくのも見えたし。


 そして、今日もクソ暑い……。

 そんな中、ただ待つダケの時間。


 小学生達がやって来ては、色々なモノを買っていく。

 一番人気なのはアイス……暑いからね。

 だが俺は小遣いが残り百一円だけ、俺には買えやしない。

 

 三・四年生位の男の子にはパチンコが人気だ。

 Y字型の端にゴムが着いたダケのモノ。

 俺も昔は良く買っていた、直ぐに何処かに行ってしまうのだけど。

 何が楽しかったのか……。

 イヤ、違うな。

 楽しいじゃない。

 パチンコで癇癪玉を撃って、あのパンとした音を聞いて、自分が強くなれた気に成っていたんだ、それが嬉しかったんだ。

 ……。

 買ってみようかな……。

 

 決して、武器に為る等とは思っては居ないが……あの音は、もしかするとモンスターも驚くのではないか?

 それで、逃げてくれれば恐い思いはしなくても良いのでは?

 音がすると言えば、爆竹だが……それは、高くて買えない。

 パチンコなら……。

 それくらいなら……。


 俺は、店の中に入った。

 置いてある場所は知っている。

 そして、今も同じ場所に在った。

 幾種類かのパチンコ、と言っても色が違うダケでモノはおんなじなんだけど。

 その黄色を掴んだ、何故に黄色かと聞かれると。

 その黄色のパチンコだけが、ゴムが黒いからだ。

 普通の茶色いゴムよりも、黒いゴムの方が何だか強力に思える。

 だから、昔から買う時は何時も、この黄色のヤツと決めていた。

 そして、店の奥のオバチャンのとろろへと向かう。

 チラリと目に入る、爆竹の箱とロケット花火……。

 多分、そっちの方が良いのだろうなとの思いを振り切り。

 オバチャンにパチンコを差し出した。

 

 パチンコを1つ買うと、何時も癇癪玉を1袋をオマケで付けてくれていた。

 十個入りのヤツだ。

 そして、今も横に置いて有る棚をゴソゴソとほじっくっているオバチャン。

 程なく癇癪玉も渡してくれた。

 

 「百十円……」

 そう言って、手を出してくる。


 「……」

 あぁ……値上がりしている。

 それは、仕方無いのか。

 俺の小学生の時の値段のままなハズも無いのか。

 ガックリと項垂れたその時、背中から俺の肩を叩かれた。

 振り向けば委員長。


 その委員長、何時もの格好では無かった。

 スカートの下に体操着。

 上はシャツにジャージを羽織っている。


 「珍しいね」

 思わず言ってしまった。

 普段ならそんな格好は見たこと無い。

 登下校は特にキチンと制服を着ている印象だったのだが。


 「昨日、汚しちゃったから、今日は汚れてもいいようにね」

 

 成る程……ヤル気満々というわけだ。


 そんな事はどうでもいいのよとばかりに。 

 「はい」

 と、十円を手渡された。

 「足らないんでしょ」

 

 「ありがとう……」

 情けない……。

 顔が赤くなるのがわかる。 

 

 「でも、まだそんなを欲しがるんだ男の子ね」


 「イヤ……癇癪玉の音って、効きそうでしょ」

 

 一瞬、? な顔をして、しかし直ぐに頷いた。


 「なら、爆竹の方が良くない?」


 「買えない……」と、目を伏せる。


 「ああ……」と、一声の後、小刻みに頷き。

 「はい」と、500円を差し出す。


 首を竦めて受け取り。

 「借りておくよ」

 もう今さら恥じも無い様な気がする。

 大きな溜め息は漏れたが。

 気のせいだ。


 

 



 俺と委員長は、草原に立っていた。

 今回は、頭突きはされずに普通にこれた。

 委員長も学習したようだ。


 「何の変哲も無い草原ね」辺りを見渡し。


 その手にはカードを持っていた。

 たぶん、フクロウだ。

 それが、なぜわかるのかは、簡単だ。

 俺の手にも、ランプちゃんと猫のカードが有るからだ。


 「あれ? 海パンのマッチョは?」

 俺のカードを覗き込む委員長。


 「ないみたいだね……仲間にしたモノだけのようだ」

 順番に額に当てる。

 ランプちゃんと猫が現れた。


 「猫も子猫じゃないのね……」

 少しガッカリも見える委員長の顔。


 成る程、成長はそのままなのか。


 「貴方が、昨日倒したスライム、小さな水晶を投げて一発だったでしょ、アレから昨晩考えたのよ、ヤッパリあの海パンのカード……威力100だっけ……アレのせいね」


 「アレは成長させるカードってこと?」


 「そうね、能力のカードね」


 「成る程……」

 頷く。

 「ってことは、アレは今も効いている? ってことでいいんだよね」


 「たぶんね」


 「そうか……なら、その能力のカードをもっと集めないとね」

 それで、強く成れるなら、重要だと言う事だ。


 「私も……何か欲しいんだけど」

 チラリと自分で出したフクロウを見て。

 「まだ、この子ダケだし」


 「また、モンスターを倒せばいいんじゃない?」


 「そうなんだけど……」

 辺りを見渡しながら。

 「そのモンスターを探さないと駄目ね」


 その場所、草原には目に入る1面にモンスターの影も形も無かった。


 「まずは、適当に歩きましょ」

 

 草原は道が出来ていた。

 あぜ道? 獣道?

 そんな感じだ。

 ソコだけ歩きやすい。

 回りの草は腰程の高さで生え揃い、風に揺られて緑色の海を歩いている様な感じだ。

 その中に分け入るのは、面倒臭そうだ。


 「ランプちゃん、ここでは灯りは要らないから……あんたは見張りね」

 フクロウを頭の上に乗せた委員長が後ろも見ずに命じる。


 それに、ビクッと反応してキョロキョロとしはじめたランプちゃん。

 猫は、そのまま後を着いてくる。

 

 しかし、前回といい今回も、自信を持って歩き始めるのだなと感心するばかりだ。

 その自信はどこから来るのだろうか? と、歩く後ろ姿を見ていると。


 「勘よ……」


 聞いてもいないのに返事を返した委員長。

 エスパーか?

 特殊能力でも持っているのか?

 等と考えていると。


 突然に振り返り。

 「ねぇ、黙り込んでいないで、何か喋りなさいよ、ただ歩いているだけじゃ暇じゃない」

 

 えぇ、また無茶振りか?

 「いや……辺りを警戒しながら歩いて居るから」

 そんな言い訳。


 「そのわりには、背中に視線を感じるのだけど……何に警戒してるの?」


 ヤハリ特殊能力を持っている様だ。

 後ろも見ずに何故わかる。


 と、その時。

 頭の上のランプちゃんが俺をつついた。

 見れば、草原の海の中の少し離れた場所を指差している。

 それに合わせてジッと目を凝らす。

 草が変に動いている。

 回りの風に揺られる草とは明らかに違う動き。


 「何か居る」

 前を歩く委員長に、小声で声を掛けてその場に立ち止まる。


 「何処よ」

 側に寄って、委員長もそちらを向いた。

 少し屈んで中腰気味に。


 それに答える様に俺も指を差す。

 「草の動きが変でしょ?」


 「確かに……何か居るわね」


 「うん……居るね」


 「……」

 俺を睨む委員長。

 「居るね……じゃ無いわよ!」

 小声で怒鳴る。


 エっ! 何で怒られた?


 「ボケッとしてないで、さっき買ったの使いなさいよ!」


 「これ?」

 パチンコを手に取る。


 「そうよ、その為に買ったんでしょ、今使うのよ!」

 

 確かにそうだが、そんなに怒らなくても。

 第一、まだモンスターかどうかもわからないのに。


 だが、言われた通りにしようと、癇癪玉の袋を破いて1つ手に取り、パチンコを構えた。

 草の動きを見て。

 その動く少し先を狙い射つ。


 シュッと、癇癪玉が飛び出し草原の草をすり抜け消えたと、同時に爆発。

 ドッカン!

 そして、草の中から緑色の子供の様なモノが宙を舞う。

 その空中で、煙に為って消えた。


 「癇癪玉って……そんな威力だった?」

 思わず息を飲む委員長。


 「イヤ……こんなの癇癪玉じゃないよ……」

 呆気に取られて、どうにか返事を返した。


 「まぁ、いいわ……たぶん威力100のせいね」

 と、立ち上がり。

 草を掻き分け、草原に分け入る委員長。


 「何処へ」

 

 「今の、緑色のはモンスターでしょ」

 

 「アレは……コブリンだと思います」

 ランプちゃんが今日初めて声を出した。

 

 「ほら、モンスターじゃない! カードを探さなきゃ」 

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