第5話 出口
そして俺は、逃げた。
洞窟の中を走り、転げながらに大穴から狭い穴へ、這いつくばって、転がりながらに潜り込み全身泥だらけな状態で、ひたすらに逃げていた。
追って来るのは合体した巨大スライム。
息を切らせて、幾つ目かの狭い穴を潜り抜けて出た先は鍾乳洞の様な場所。
そこは少し広めのホール。
そして、今までとは違い白いヌメリの様な壁と天井。
所々に水晶も見える。
壁や天井に刺さって光輝いていて、床にも幾つか落ちている。
大小の水晶の結晶。
ソコにはもう逃げ道は無い。
キョロキョロと辺りを見渡しても何処にも通路も穴も無い。
完全に袋小路だ。
どうする? と、入って来た穴を振り返る。
スライムが顔を覗かせていた。
ズルズルと穴から這い出し、ブヨブヨと蠢き迫り来るスライム。
ジリジリと下がり、背中に壁が当たり逃げ道をふさぐ。
こめかみに汗が伝う。
スライムが手を伸ばせば触れる程に近付き。
一瞬縮み、そして延び上がる。
喰われる!
スライムに口が在るとも思えないが、しかしハッキリとそう思えてしまった。
迫り来るスライム。
目線は釘付けのままに切る事も出来ず、自分が喰われるその瞬間を見てしまうのかと、絶望が支配した……。
その時、突然にスライムが払い退けられ、目の前に委員長。
スライムは、側面の壁に叩き着かれている。
だが、倒れたわけじゃない。
未だ、蠢いている。
俺の視線もそのままスライムに引きずられたまま。
そんな俺の目線に回り込み入り込む委員長。
「ちょっと! 女の子を置いて逃げるなんて最低じゃないの?」
語気荒く。
「イヤ……スライムが」
と、指差した。
意識はスライムに張り付けたままに。
「居るわね」
チラリと見てのその一言だけ。
「デカイ……」
アレが恐くないのか?
何故だ?
アレは……恐くないのか?
「大きいわね」
声のトーンは荒げては居るが……。
その対象は、スライムにでは無くて明らかに俺に向けてだ。
「襲ってきた……」
「そう……」
溜め息一つ。
「じゃ、倒せば」
簡単に言う。
「えぇ!」
「たかがスライムじゃないの、ちょっと大きいダケよ」
その場にしゃがみ、地面のこぶし大の水晶の欠片を拾い、俺の手に握らせる。
これをどうしろと?
手の中の水晶を見る。
「もう、だらしないわね」
自分も水晶を拾い。
「こうするのよ!」
と、それをスライムに投げ付けた。
投げられた水晶はボヨンとスライムの身体に当たり、力無くに地面に落ちる。
「効いて無い……」
その、俺の呟きに、ジロリと睨み。
「効くまで投げ続けるのよ!」
と、また投げた。
何度も繰り返す委員長。
それを、ただ見ているダケの俺に。
「あんたも投げなさいよ!」
その怒鳴り声に驚き。
意識も無くに言われるがままに、身体が動いてしまった。
巨大スライムに向けて、手の中の水晶の欠片を投げ付ける。
自慢じゃ無いが、運動神経は人並みだ。
良くも悪くも無い、普通。
そんな俺が投げたのに。
何故か、水晶が当たった瞬間に、スライムがハジケて倒れた。
とても呆気なく。
あっさりと。
そのスライム、パンと破裂して、煙に成り消える。
ソコにヒラヒラとカードが落ちてくる。
「やるじゃない」
こちらを見ずに、カードを拾いに行くついでの一言。
俺は、呆けてジッと自分の手を見る。
そんなに強く投げてはいないと思う。
委員長に言われての無意識の動き。
……。
スライムが弱かったのか?
イヤ……確かに弱かったのだろう、が。
力一杯に委員長が投げた時には大した事も無かったのに。
俺と委員長。
女と男だけど……そこまで差がつくものか?
何が何だかわからない事に成っている俺の意識を、委員長が一言でもぎ取った。
「これ、もしかして出口?」
そう言って、俺の目の前に1枚のカードを差し出した。
そのカードに描かれた絵は、とても見慣れた景色。
あの、駄菓子屋だった。
「ここに来るのもカードだったし、これは確実よね」
そう言う事だったのかと、納得の顔。
半信半疑の俺。
そんな俺は無視して、カードを挟みイキナリに頭突きした委員長。
また、目の前に星が飛ぶ。
何故に、頭突き何だと呻いていると。
「ほら、ヤッパリ」
その声に誘われ、辺りを見れば。
ソコは、何時もの駄菓子屋の前だった。
帰って来た様だ。
イヤ……そもそも本当に行ったのか?
ただの夢じゃ無いのか?
「わぁ、カードが増えているわね」
委員長が、箱の中を覗きながら。
「猫も居るわよ」
1枚のカード取り出した。
さっきまで一緒に居たハチワレ猫の絵のカード。
その他のカードも、フクロウもランプも有る。
そして、草原の絵のカードも。
それを手に取り。
「次は、草原なのね」
夢では無いようだ。
夢の内容を他人と普通に会話出来るなんてあり得ない。
あの場所が、異世界なのか?
異空間なのかはわからない、もしかしたら精神世界とか……。
現実の何処か……は、無いだろうが、その近い延長線上とか……。
例えば誰かの作ったゲームの世界とか。
経験出来ないモノを経験させる事の出来る装置を誰かが作ったとしたら。
場合によっては小説の中にだって入れそうだ。
入れる? 覗く?
そんな感じなのか?
……。
でも、そんなのはいくら考えてもわかる訳がない。
俺が、答えの出ない考え事をしている間も委員長は喋り続けていた。
話ながらに考えるのが委員長流なのだろうか?
「聞いてるの?」
いつの間にか、目の前に仁王立ち。
「明日の放課後、ここで待ち合わせよ!」
「何で……?」
「行くに決まってるじゃない! 草原のカードよ!」
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