第4話 モンスター


 ジッと猫を見る。

 

 猫も俺を見ていた。


 「どうしたの?」

 委員長は今のは見ていなかったらしい。


 「猫がカードで成長した……」


 ん? と、小首を傾げる委員長。


 それを見て、猫の前にしゃがみこむ俺。

 そして、落ちていた猫のカードを拾い……。

 また、猫の額に当ててみる。

 

 ボワッっと煙を纏い、また少し猫が成長した。


 それを見た委員長「うわ!」っと、足元の出来事に跳びすさる。


 もう一度、猫のカードを当てようと拾い前に出す。


 「やめて!」

 そんな俺を突き飛ばした委員長。

 「何をするのよ! せっかくの可愛い子猫が台無しじゃないの」


 「エッ、イヤ……実験を」


 大きく成った猫を抱き上げ。

 「そんなの、もう必要無いわよ!」


 両腕で胸の部分から抱え上げられた猫。

 だらんと伸びたその下半身を見るにソコソコのサイズ。 

 しっかり成猫だ。 


 「カードから出て来ても、またカードが使えるのよ! それだけよ」

 抱えた猫を下ろして、自分でぶちまけたカードを拾い集める。

 もちろん、俺の握っていたカードも含めて。

 

 そして、また歩き始めた。


 そんなに、怒らなくても……ただ、確かめたかったダケなのに。

 

 委員長って……こんな性格だったか?

 イヤ、そもそもそれを知っている程には仲良くはしていなかったが。

 ただの、クラスメイトだし。

 でも、確かにクラスでは一番声が大きかった。

 委員長としても、普通に女の子をしている時にでも。

 誰かの声がすると振り向けば、いつもソコには委員長が居た。

 楽しげな声も、何かに怒っている時の声も。

 

 俺とは正反対だ。

 俺にだって友達ぐらいは居るが……目立たない地味なグループだった。

 その中に居ても更に大人しくしていた。

 目立つのがイヤだからだ。

 と言っても……俺は既に有名人ではあったが、それは兄と姉のせいでだ。

 二人共にもう卒業してしまったのだが……余りにも優秀過ぎる。

 その弟として盛大に注目されていた。

 注目される理由は簡単、それは皆が一様に思う「何故?」でだ。

 そんなの、俺が一番に思っている事なのに……。


 そんな事を考えていると、立ち止まった委員長の背中にぶつかった。

 

 なぜ急にと見れば、ソコに小さな穴が開いている。

 

 そして、それを指し示す猫。


 「ここを通れって?」

 這いつくばってやっとの大きさだ。


 頷く猫と委員長。


 俺はジッと委員長の顔を見つめた。


 「ナニ? 私に先に行けって言うの?」

 大きく溜め息一つ。

 「女の私に?」

 語気荒め。

 「あんた! 男でしょ、サッサと行きなさいよ!」

 指先、強く穴を差す。


 




 「どお? 何処かに通じてそう?」

 

 背後から声がする。

 それに対して、狭い穴のトンネルを這いつくばりながらに返事を返す。

 「暗くて良くわからない」


 「ランプは?」


 「ランプを目の前に行かせると、今度は眩しくて先が見えない」


 「あっそ……とにかく何処かに出れたら声を掛けて、ここで待ってるから」


 「出られたらね」


 「出られなかったら戻ってくれば良いわ」

 

 「戻れたらね」


 俺の返事に笑う委員長。

 「詰まったら、引っ張り出してあげるわよ」


 なんだ、それは……。

 他人事だと思って。

 

 愚痴りながらも、必死でホフク前進。

 何で俺がとブツブツ呻く。

 それでも、ほんの少しだけど明かりが有るだけましだ、この洞窟の不思議な明かり。

 こんな狭い所……真っ暗じゃ気が狂いそうだ。

 一刻も早くに広い所へ。

 そして、グイっと伸ばしたその手に冷たく柔らかい何か……。

 ギュウっと握って潰す。

 パチンとハジケてての中にカードが残る。

 あ! しまった。

 今のはスライムだ。

 そう気が付いたのだがもう遅い。

 罪悪感が残るが仕方無い。

 そのカードを見た。

 今までのとは少し雰囲気が違う絵。

 昭和の雰囲気のレトロな感じで、銃を構えた帽子を被ったスーツの男を丸い輪が囲んでいる、その輪は銃口か?

 スパイ映画のオープニングに有りそうな絵。

 そして、下の方に文字も有る。

 

 狙った獲物は外さない

 百発百中の男


 ……。

 なんだそれは。


 イヤ……しかし、今までの事を考えれば、絵の中のモノが出てくるんだ。

 つまりは、この絵の男……大人だ!

 この今の状況での大人はキッと助けてくれる!

 藁をもすがる気持ちでカードを額に当てた。


 ……。

 だが、目の前でボワッと煙と共にカードは消えたのに……肝心の大人は出てこない。

 「なんだよ……それは」

 期待したのに。

 大きな落胆と溜め息が出た。


 「出口は有った?」

 委員長の催促だ。


 「まだ、トンネルの中」

 取り敢えずは怒鳴り返して、先を進む。

 少しイラっと来た。


 程なく広間の様な所に出ることが出来た。

 が、出口らしきものは見えない、さっきと変わらずの土の壁に土の天井。

 ただ、少し広いダケ。


 来た穴に向かって委員長を呼ぶ。

 「何処かに出たけど……まだみたいだ」


 「そう、わかった……」

 

 「早く来て」


 「今、向かっているは」


 

 



 待つ事、少し。

 委員長が穴から這い出してきた。

 

 制服に着いた泥を払いながら。

 「こんなのを見付けた」

 と、カードを差し出す。


 その絵は、筋肉ムキムキの海パン1枚でポーズを決めて居る男……。

 下の方には。


 威力100


 あぁ……ハズレのヤツだ。

 さっきのと同じ感じだ。


 「これ、この人が出てくるのかしら?」

 少し嫌そうな顔の委員長。


 「出てこないよ」


 「じゃ、どうなるの?」


 どうにも為らない……と、言おうとして、少し考えた。


 「そんな感じのムキムキに成るんじゃない?」

 と、カードを指差す。


 えぇ……と、顔をシカメた委員長。


 その顔で少しウサが晴れた。

 「嘘だよ、それはハズレで何にも為らない」

 そう答えながらに、笑ってしまった。

 

 「そう……じゃ」

 と、呟いた委員長がイキナリにカードを、俺の額に押し付けた。


 「うわ! ナニするんだよ」


 「どうにも為らないんでしょ」

 と、嫌な感じの笑い。


 カードは目の前でボワッと成ったが、確かに何も無い。

 別段、筋肉が着いた風でも無い。

 自分で言った事なのだが、つい確かめてしまった。

 もちろん、海パンの男も出てこない。


 「あら、ホントだね」

 クスッと笑って。

 「ハズレも有るのね」


 俺で試さなくても良いだろう!

 声に出さない代わりに睨んでおいた。


 「で……次はどっち?」

 

 その問に、委員長は猫を見る。


 見られた猫は、頷き歩き始めた。

 「ニヤ」

 直ぐに反対側の壁の小さな穴を指す。


 「また……潜るのか……」

 

 頷いた、委員長と猫。


 俺は、既に諦めていた。

 最初に行くのは俺なのだろう。

 ソコは揺るぐ事の無い事実なのだろうから。


 しゃがんで這いつくばり、そして穴の中に進む。


 しかし、今度の穴は短かった。

 潜って直ぐに、次の広間に出る。

 ソコもヤハリ、さっきと同じような場所。

 ただ……。

 ソコは一点だけが違う。

 それは……ここがスライムだらけで埋め尽くされている。

 つまりは……ここはモンスターハウスだ。


 その事が、ランプの明かりでわかったその瞬間に。

 スライム達が1ヶ所に集まり初め、合わさり、合体し初めた。

 ほんの数秒で、それは巨大なスライムに成り。

 そして、俺の方にと進み初めた。

 

 巨大と言っても、1メートル程の高さなのだが、スライムの形はそのままなので、幅も1メートル程、

 手のひらサイズがそこまで大きく成って、そして迫ってくる。

 ズルズルと音を立てながらに。

 初めて、敵意を感じた気がした。

 半透明な身体の奥に悪意も見えた気がした。


 俺は、その場から一目散に、逃げ出した。

 委員長達の事も忘れて。

 適当に目に着いた、別の穴に潜り込み。

 這い出して、耳を済ませる。

 ズルズルと響く音が、確実に近付いている。

 

 明らかに俺を追って来ている。

 スライムはヤハリ本物のモンスターだった。

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