「人が死なないミステリー」の難しさを知るからこそ分かるもの

 ミステリーというジャンルの執筆に一度でも手を着けた方ならお分かりでしょうが、「人が死なないミステリー」を書くことは難しいです。登場人物の"死"というものは、良くも悪くも容易くストーリーに起伏を生みます。

 だからこそ、ミステリーというジャンルに限らず、ときに書き手はその"刺激物"に甘えがちなところがあります(言わずもがな、登場人物の"死"ありきの作品もまた多数存在します。これは「人が死ぬミステリー」を貶めることを意図した記述ではありません)。
 
 そして、御作にその安易な"刺激物"は存在しません。
 しかし、読み手を引き付ける確かな起伏がそこにはあります。

 占いを否が応にも叶えにいってしまう──柴剣太郎。
 春に取り残されたような名前でありながら、エネルギーに満ち満ちている──山根小冬(ときにいいねbotと化す)
 頭の回る破天荒──木滝恒彦
 その佇まい、さながら文化部のエース候補──能沙妓乃

 ──何だかバンドのイカれたメンバーを紹介するぜ! みたいな流れで、冒頭のお堅い感じがもはや息も絶え絶えですがその辺りは目を瞑っていただくとして。

 私個人としては、作品の完成度も然ることながら、シリーズ物としてきちんと「第二章を読みたくなる第一章」に仕上がっている点が特長だと思います。

「人が死なないミステリー」の面白さを未経験の方、あるいはそれを形にする苦しみを身を以て知っている方にこそ、おすすめしたい作品です。