第3話 17才の心と48才のカラダ

夫はある夜、私にこう言った。


『お前やけにはしゃいでるな』


はしゃいでいるだろうか。


そんなつもりはない。


しかし人間というのは、やはり獣の勘


を持っているらしい。


心の中の祭りが


ダダ漏れしてしまうらしい。


気が付くと、鼻歌なんか歌っている。


あわてて咳ばらいをして、困ったような顔を作る。


東京に帰れるというだけで嬉しいのに、


彼に会える。


チケットを使う。


身震いがした。


なぜ、彼=チケット=不倫ということになるのか。


わからない。


勝手に脳が即断したのだ。


彼と寝るんだ、と。


(そんなことはできるはずはない。


ありえない)


反対側へ行こうとする自分がいる。


見慣れた風景の中で、なにひとつ変わらない


飽き飽きとした安定を食べて、死んでいけばいい。


そうささやく自分がいる。


一方で、絶対に彼に抱かれるのだ、と決めている私がいる。


抱かれたこともないくせに・・・。


もしも、それを成し遂げたら、


自分が異次元の世界に行くくらい


変わる気がしている。


そうだ、たしかに私は浮かれている。


だからこその、


静けさを、表面では保とうとするのに、


漏れてしまう、、、。


ただ祭りの中にひとつの不安が湧き上がってきた。


『シワが目立つ』


ということだ。


仲良しのA子とY美は


S美容外科の常連である。


シワやたるみは、歯医者に行くような感覚でお手入れしている。


A子は添乗員、Y美は不動産会社の


社員として、美容外科に通うくらいの


自由な金を持っている。


私はそうは行かない。


へそくりはまあまあある。


だけど、美容外科なんてこの街にはない。


それに顔に注射をするのはどうも怖い。


『何が怖いの?芸能人ならみんなやってるよ

そんなシワのあることの方が怖い』


A子はそう言う。


でも嫌だ。


怖いったら怖い。


顔ももちろん、


身体はどうだ。


こちらもひどい。


頭の中が17才に戻れても、


自分の身体を見ると


萎える。


やっぱり無理だ、と思う。


彼に抱かれるということは、


彼の前で


裸になるということだ。


17才の私しか知らない元カレに


今の私の裸を見せられるというの?


そんな当たり前のことにどうして


気づかなかったのだろう。


無理だ。


自分で見るのも嫌な身体を


どうして彼に見せられるというのか。


ああだめだ。


とてもじゃないが、


こんな身体じゃ、不倫もなにもない。


『どうしたのよ、ため息ばっかりついて』


義母がうんざりした顔で私を見ている。


はぁー。


(不倫チケットの権利をいよいよ行使するつもりなんですけどね、


顔と身体をなんとかしないと


できないことに気づきましてね)


なんて言ったら、


義母は何て言うだろう。


なんだかおかしくなってきた。


『すみません、気を付けます』


私は素直に謝った。




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