第2話 すべてが輝き始めた

同窓会は半年後の10月最初の日曜だった。


場所は丸の内のステーキハウスを貸し切って行われるという。


ワクワクした。


次の瞬間には、弱気が出る。


『こんな姿じゃ行きたくない。


服は?


靴は?


バッグは?


髪は?


どうする、どうしよう、どうしたらいいの!』


その時、神が私の耳元でささやいた。


(まだ半年もあるんだよ。別人になってしまいなさい)


神はいつだって、楽天家だ。


大事なことを忘れていた。


その頃にはちょうど


田んぼの稲刈りがある・・・。


中高の同窓会に行きたいから、と言った


ら夫はなんというだろう。


『皆んな行くっていうから』


そうだ、そう言おう。


夫は『皆んな』という言葉に弱い。


皆んなに合わせるのが好きな男だ。


東京にいた時に夫も含めて


良く一緒に飲みに行ったA子も Y美も行くらしい、と言えば


賛成してくれるだろう。


義父母はどうだ。


『先生の長寿お祝いを兼ねている』


そう言ったらどうだろうか。


先生、とか、


長寿祝とか、


冠婚葬祭を重要視するのが義父母の


特徴である。


A子にラインをした。


『同窓会行く?』


『ごめん今、エジプトなんだよね。


そんな知らせ来てた?


いつ?』


ベテラン添乗員のA子は


大抵日本にいない。


日にちを伝えると


『なんだ、半年も先なの?


行こうよ!


Y美にもラインしてやって』


Y美は


『迷ってたけど2人が行くなら絶対に行く』


そう言った。


夫に話し、義父母の了解も取り付けた。


『先のことだから、稲刈りはわからんけど、


先生のお祝いならしょうがない』


義母はそう言ってくれた。


その瞬間から、


私の生活はすべてが輝き始めた。


目がよく見えるようになった気がした。


一日に何回も同窓会の知らせのハガキを読んだ。


良く見ると、幹事はチアリーダー部だ


ったM子だった。


意外な気がした。


同窓会を、自ら企画するような感じには


見えなかった。


しかし中高を共に過ごし、


卒業から30年が経とうというのだから


かつてのイメージなど、当てにはならないだろう。


みんなどんな風になっているだろうか。


みんな、と言いながら、


私の心の中には


彼のことだけがあった。


彼。


初めてキスをした、山田章介くんのことだ。


鏡の中の自分の顔をこんなにじっくりと見たのは何年ぶりだろうか。


シワやシミがいっぱいだった。


その顔を見ると、悲しくなった。


誰にも会いたくなかった。


だけど、


だからこそ、だ。


なんとかしないといけないんじゃないの?


鏡の向こうで、私が言った。


『明日、デパートいくよ』


私はへそくりを貯めている封筒から


10万円を引き抜いた。

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