第20話 放課後の図書室

 一昨日のデートを終え、月曜日を迎える。


 朝の登校は普段通り、ひいなと一緒に学校に行き、いつもの教室に入るときのこと。


 自分の荷物を机の上に乗せて、中に入っている用具を机の引き出しにしまうと


「よう、土曜日のデートはどうだった?」


「順調だったかな……」


 僕に尋ねてきたのは、同じクラスメイトの国光君だ。


「実はな、柳木達がデートに行っている間に、本屋で恋愛のハウツー本を買ってきたんだぜ」


「え……?」


「まぁ、お前がもし本当に誰かと付き合うって言う話になるなら、こういうことも勉強した方がいいんじゃないかと思ってよ、ちなみに柳木の分も買ってきてるからな」


 なぜか、こういうことに無頓着な彼から恋愛のハウツー本を受け取る。


「あ、ありがとう……」


 数冊分の本の表紙を見てカバンにしまった後


「それとお前に女の子から放課後の図書室に来いっていう伝言を頼まれたぜ」


 もしかすると、華さんからの伝言の可能性が。


「具体的には、どんなこと?」


「そこんところは何も聞いてねぇな」


 おそらく、彼には直接それだけを伝えるように言ったから、詳しい情報は分からないのだろう。


「分かった、とりあえず行ってみるよ」


 僕達は席に着き、教室で一時間目の授業を受ける。





 そして、四時間目の授業を終え、図書室に向かうと


「来てくれたのですね」


 そこには華さんとその隣に胡桃さんも一緒にいる。


「こんにちは、柳木君!」


「これはどういうことですか?」


 彼女達が一緒にいるのが不思議に思う彼。


「はい、先週のことで少し気になる点があったので、私が二人のお話をお伺いするためにお呼びしました」


 彼女との先週といえば、図書室で話したことぐらいしか思い浮かばない。


「ですので、まずは席についてもらってからにしましょう」


 彼女に言われるまま、椅子に座り、華さんは僕の隣に、胡桃さんは華さんに向かい合うように座る。


「では胡桃さんからお聞きします」


 華さんは、胡桃さんの目の焦点に合わせる。


「先週の金曜日のとき以外にも、以前に柳木さんの後を追っていたのはなぜですか?」


 華さんがなぜか先週の金曜日以外の日に僕の後をつけられていることを知っている。


「それはですね……」


 胡桃さんが僕の目線に合わせて 


「柳木君は言っちゃっても大丈夫ですか?」


「いや、それは……」


 おそらく、密着取材で得た情報のことだろう。


「はい、私は構いませんよ」


 こういうときの華さんは僕に味方をしてくれないのだろうか。


「でもきっぱり言った方が気が楽になりますよ、それにどのみち通らなければいけない道だと思いますし」


 確かに今後のことを考えれば、彼女の言う通りかもしれない。


「分かりました……」


 彼の承諾のもと、彼女は話を進める。


「彼の後を追っていたのは、新聞部の取材で浮気調査をしていました」


「柳木さん、それはどういうことですか?」


「これは彼女の語弊で……」


「まあまあ、そう気をはやらせないでください。話はこれからですので」


 一旦気持ちを落ち着かせた後、彼女の話を聞く。


「実際、彼を調査したところ浮気とかはありませんでした。けど、彼はある女の子と仮の恋人をやっています」


「仮の恋人ですか?」


「はい、そうです」


「その柳木さんの仮の恋人をしている人は誰ですか?」


 彼女が彼の血の引くような顔を見て、「ふふふ」と息を漏らし


「では、簡単に教えるのは面白くないのでヒントを出しましょう」


 華さんが胡桃さんの話に耳を傾けて


「まずは服装ですが———」


 そうして、彼女のヒントから華さんはその答えにたどり着き。


「それはおそらく姫菜さんですね」


「ご名答です」


 やはり、中学時代から知り合っている仲なら特徴の一つや二つを言えば気づかれるのだろう。


「ですが、どうして柳木さんが姫菜さんの恋人役をやっているのですか?」


「それはいろいろと事情がありまして……」


 彼が仮の恋人をしたきっかけは、新学期が始まって、彼が彼女に屋上へ呼び出され、突如、恋人になって欲しいと頼まれたときのことだ。それは、僕に将来好きな人が出来たときのための練習相手としてだ。


「なるほどです。将来のための練習相手として、頼まれたということですか」


「はい」


 彼女はどこか安心したような表情をする。そして、華さんが頭の中で考えを整理すると


「事情は分かりました。胡桃さんが彼の後を追っていたのは、こういう新聞部としての取材のためだったんですね」


「まぁ、それもありますね」


 なぜか含みのある言い方をして


「他に何かありましたか?」


「いえ何でもありません」


 彼女は苦笑いを浮かべる。


「それにしても、柳木さんが仮の恋人をやっていたなんて知らなかったです」


 それは、僕の格好から想像すれば、恋人をやることに縁がないのだろう。


 しばらくして話を続けている中、彼女がふと時計の針を見て


「あと三十分でチャイムが鳴ってしまいますね」


 華さんも時間を確認して


「はい、ではこれで話は終わりにして、とりあえずご飯にしましょう」


 みんなが図書室に事前に持ってきた弁当を机の上に広げ、弁当箱のふたを開ける。


「柳木君の弁当、ものすごく美味しそうですね……一口もらってもいいですか?」


「どうぞ」


 胡桃さんが伊達巻き卵をパクッと食べる。


「味がしっかりしていてすごく美味しいです……今度から私に弁当を作っていただけませんか?」


「機会があればですけど……」


「私も一つ味見していいですか?」


 どうやら、ここは彼女達の試食会のようだ。


「よかったら私のもありますので食べてください」


「ありがとうございます!」


 こうして、三人は残りの時間を使ってお昼を満喫する。

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超有名人高校生は普通の学校生活を送るために本気で変装をするようです 赤坂白 @akasakasiro

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