第13話 お風呂とメイドさん

 昼間にみんなと浜辺でビーチ。そして泳いで遊びまくる。楽しい時間はあっという間に終わってしまうもの。いつしか時間は夕方になっていた。


 時間は6時半くらい。そろそろお腹も空いてくる頃合いである。とはいえ海に入って塩や汗で体がベタベタである。はっきりいってそんな状態ではゆっくりご飯も食べれないので私達はホテルのお風呂へと向かった。





「はぁ、カバンからシャンプー探し出すの大変だった。もうなんで見つからないのさぁ」


 とぼとぼとため息を付きながら私は先輩と泊まっていた部屋から出てきていた。みんなでホテルの銭湯に一緒に入ろうと約束していたのだが、シャンプーは普段自分が使っているの使いたいので、わざわざ部屋まで取りに行っていたわけだ。


 でも全然見つからず、随分と時間がかかってしまった。


「あ、咲ちゃん。遅かったねぇ」


「もう、うちら入っちゃったよ、咲」


「あぁ、ずるい。待っててくれても良かったのに」


 通路を歩いているとそこにはお風呂上がりの二人が見えてきた。首にバスタオルを巻いており、その肌には艷やかがある。先にお風呂に入ってしまったようだ。ちょっと悔しい。


「遅かったからしゃあないだろ。あたしらは先に部屋戻っとくからさ、咲も早く行きなよ。なかなか良かったよ」


「じゃあお先ねぇ~。咲ちゃん」


「はいはい。行ってきますよ~だ」


 私は先に入られてあからさまに不満げになっていた。そんな子供っぽい姿の私を見ながらくすくすと笑う二人に余計に腹が立つ。しかし高級なホテルのお風呂にはとても興味があったので、急ぎ足でそこに向かうのであった。





★★★★★★★★★★






「はぁ、お母さんまで先に部屋に戻ってるし、あ~あ、みんな薄情だな」


 とは愚痴るものの、時間は7時半前になっていた。みんなでお風呂に行こうと言ってから既に1時間が経過。ここまで来ると流石に自分が悪いと思うしかない。


「さて、髪もくちゃくちゃだし入ろっと」


 私の髪は天然気味なのですぐにくしゃくしゃになる。しかも海水だし髪もぎしぎしだ。はやく洗い流したい。私は更衣室で服を脱いで着替え用の服と今まで着ていた服をしっかりと小分けする。


「よし、じゃあいきますか」


 そして準備が整うと、浴場への戸を開けた。



「おぉお、すごい広い」


 流石は高級ホテル。かなりの広さであった。地元の銭湯とはまるで敷地面積が違う。何よりも豪華なのだ。配色もものすごくきれいだし、美術品のような彫刻も飾られている。


「泡風呂や電気風呂、その他色々もいろいろ完備してるなぁ。しかもここを貸し切りの時点でめちゃ贅沢だよねぇ」


 その光景に感心しながら、入り口近くに積んであったお風呂用の椅子を一つ取り、シャワーと鏡、蛇口が置かれている場所へと移動して座り込む。もちろん、自前のシャンプーとリンスを手に持ってだ。


「ふんふーん」


 お湯を出してシャワーを頭から浴びる。そして髪にシャンプーをふりかけて泡立たせる。そして手でよく撫ぜながら、最後には洗い流す。お次はリンス、しっとりと髪にまぶすと、軽くなじませた後に洗い流して髪を整える。


「入ってるときはこんなにきれいにまとまるんだけどな、私の髪」


 自身のくせっ毛の体質に嘆きながら、今度は体を洗おうとした。その時である。


「お嬢様。お背中お流ししますよ」


「う、うわ先輩!?」


 急に声をかけられて思わず、体をビクつかせる。そして振り返るとそこにはタオルを羽織った水瀬先輩の姿があった。


「先輩、いたんですか!?」


「えぇ、お嬢様を待っておりました。私だけが部屋には戻れませんからね。さ、後はお任せください」


 先輩のその姿は相変わらず美しいく、バスタオル越しにうっすら見える姿がとても艶めかしい。流れるきれいな銀髪にも見惚れてしまう。でも先輩から体を洗ってもらうなんて。


「いや、そんな、先輩にしてもらうなんていいですよ」


「私はお嬢様のメイドですよ。私はもう洗いましたから、それくらいお手伝いさせてください」


「わ、わかりました」


 恥ずかしすぎてというかドキドキしすぎて断ろうとしてしまったが、先輩に押されて、結局承諾する。自分でもいい加減このドキドキをなんとかできないかと少し不甲斐なく感じる。


「では失礼いたします」


「は、はい」


 先輩は私から体を洗うための小タオル受け取り、背中をゆっくりとさすってくれる。


「やっぱりお嬢様の体はきれいですね。すべすべしていますし、非常に女性らしい体つきで」


「そ、そんなことないですよ」


 先輩はゆっくりと丁寧に手や足元などをタオルで擦っていく。すこしこそばゆいが心地よい。だが問題はある。


(む、胸がタオル越しに当たってるよ……)


 むにむにとそのやわらかい感触が私の背中を刺激する。非常にまずい、頭がおかしくなりそうである。というか先輩のおっぱいが相変わらずとってもやわらかい。このままでは私の理性が保ちそうにない。


「せ、先輩。ってそこ!?」


 さらには前の方まで手が伸びてくる。思わず驚嘆の声が上げてしまう。


「どうしたのですか? 背中が終われば今度は前ですよね。ふふ」


「きゃ、きゃう」


 先輩は嬉しそうにタオルを持ってお腹やお胸付近をこすってくる。くすぐったくて変な声が出るてしまう。


「かわいいですね、お嬢様❤」


「せ、先輩、もし誰か来たらやばいですよ」


「お忘れですか? 今日は貸し切り、お客さんは私達だけです。だからこんなことしても大丈夫です」


 そう言って先輩は指で先っぽをぴんと指で弾いた。


「ひゃ、ひゃう!!?」


「ふふふ、お嬢様、エッチな声が出ましたね❤」


「く、くぅう……」


 恥ずかしさ半分、気持ちよさ半分、なんだがとてつもなく複雑な気持ちである。


「ではシャワーで流して終わりましょうか」


「え、きゃ!?」


 考える暇もなく、最後には桶にためられたお湯で頭から体へと流される。そして綺麗サッパリと泡が流れ去った。


「はい、完了いたしましたよ、お嬢様。ではお風呂にでも浸かりましょうか?」


「……はい」


 胸はドギマギなのにテンション下がり気味。なんとも微妙な空気で体を洗う工程は終了した。




★★★★★★★★★★





「ふぅ、ここは銭湯だけと思ってましたが、外に天然の露天風呂もあったのですね。夜景もきれいです」


 先程から数分後、私と先輩は、お風呂の奥にある露天風呂を見つけていた。外の海が見える絶景で、すっかり暗くなった空に点々と星が広がっている。外にあったプレートの表記には天然の温泉と書かれていた。


「そうですね」


 しかし私は口元をお湯につけてぶくぶくと口から泡立てている。


「機嫌を戻してくださいお嬢様、先程は本当に失礼致しました」


 私はさっきのセクハラが頭から離れずに悶々として、それでいて少しばかり苛立ってもいた。そのことが流石に後ろめたいのか先輩は私のご機嫌取りをしていた。


「いいんですよ。先輩は私の体にしか興味なんですから」


 一体私は拗ねて何を言ってるだろう、自分自身でも恥ずかしい限りである。とはいえ先輩となら別に体だけの関係でも良いと思ってしまう自分もいる。だって先輩と体を触れ合ってイチャイチャなんて最高ではないか。と心の悪魔がささやいている気がする。


「そんなことはありませんよ。私はお嬢様を敬愛しています。幼少期に助けてもらった恩は決して忘れません」


「……」


 幼少期。私には記憶がないが、どうやら先輩の容姿を馬鹿にする子どもたちを助けたらしい。そのことがきっかけで私にメイドとして付添い、好きでいてくれると先輩は以前に語ってくれた。


「先輩。それは前にも聞きましたね。でも私はその記憶がないんですよ。そんなひどい私をを先輩はなんでずっと『お嬢様』と言ってくれるんです?」


 いくら恩と言っても、存在を忘れたやつにここまで尽くせるだろうか。自分はちょっと複雑だ。


「しかも、今はずっと先輩に頼りっぱなしで、何も返せてないです。こんなろくでもない私にどうしてそこまで?」


 不機嫌なせいか、それとももやもやとしてるからか、少しばかりネガティブになってしまう。


「なんで、先輩は……うぅ!?」



 何度もそんなことを投げかけていると、先輩は私に軽く口付けを交わした。



「これが答えです」


「え、先輩?」


 目の前に映るのは、頬を紅潮させる先輩。その表情は儚げで、優しくて、情熱的だ。


「私にとっては些細なことです。好きになるのに理由はありません。一目惚れだったんですよ」


 そうして先輩はくすくすと笑う。笑顔を見るとなんだかさっきのことが馬鹿らしくなってくる。


「先輩、こんな私みたいな人に一目惚れなんて危ないですよ。私じゃなかったらどうしたんですか?」


「そんなことはありえません。それに私はどうやってもお嬢様に会っていたと思っています」


「そう……ですか」


 純粋な瞳。先輩のほうが年上で人生経験も積んでるはずなのに、私なんかよりよっぽど純粋だ。時々いたずらまがいのセクハラもされるけどね。やっぱり先輩は好きだ。そう思う。


「でも、あのもし。お嬢様が私に悪いと思ってるなら、何もしていないと思うなら、やっていただきたいことがあるんですが」


「え」


 しかし先輩は突然そんなことを言い出し、少しだけもじもじし始めた。どうしたのだろう。


「実はその幼少期の時に、お嬢様にはこのコンプレックスだった髪のことを褒めていただいて、その後に手で撫でてもらったことがあるんです。なので、あの、その、私の頭撫でてもらってもいいですか」


「え、えぇ!?」


 意外な要求に私は驚いて変な声が出た。とはいえ別に断る理由もない。でもよく考えれば今の先輩の容姿ではそんなことを他の誰かに頼むのは無理だろうな。


「だ、だめですか?」


「そんなことはないです」


 先輩のほうが背が高いのにわざわざ視線を下ろして上目遣いでお願いしてくる。そんなのズルすぎる。かわいすぎる。


「じゃあいきますね。こんな感じでいいですか?」


 お湯で濡れていた手ではあったが、頭の上を優しく撫でる。髪の毛がすごくさらさらで銀の髪が温泉に濡れてきれいに輝く。


「お嬢様……❤」



 先輩は少しだけ自分の体を私の体へと体重をかけてくる。そしてゆっくりと目を閉じて、私の胸元に寄り添ってきた。


「なんだが、先輩が子供になったみたいですね」


 体を触れ合い、心身ともに熱くなる。でもそれがとても心地が良い。



 外の風景を味わいながら、甘える先輩の髪をゆったりと撫で続けた。

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