第12話 みんなで海。二人きりの海。③

「行きますよ、皆さん!」


 高らかに声を上げて、水着姿の水瀬先輩がビーチボールコートに立っていた。片手にはビーチボールを持って、スタートの合図を行う。


「みんな頑張ってねぇ」


 ネットが張られたコートには私と麻也香と天音ちゃんもいる。そして脇には日傘をしたお母さんが審判として立っていた。


 二人一組のチームに別れての勝負。チームは私と麻也香ちゃん、そして天音ちゃんと水瀬先輩の組み合わせだ。


「咲。なんかこの組み合わせ、世界の格差を感じないか」


「うん、それは思ったよ」


 私と麻也香ちゃんの前には、先輩と天音ちゃんが当然ながら前にスタンバっている。そして水瀬先輩がサーブをしてボールが宙を舞う。


「咲行ったぞ!」


「大丈夫行くよ!」


 左側には私、右には麻也香ちゃん。ボールが来たのは私の方で、少し飛び込んでボールを弾いた。


「おっしゃ、行くぜ!」


 ビーチボールはうまい位置に上がり、麻也香ちゃんは飛び上がり、そのままボールを叩いてスマッシュする。


「させません!」


「止めるわよ〜!」


 それをブロックせんと、両手を伸ばして二人が立ち塞がる。しかし、麻也香ちゃんは二人の動きを読んでいたのか、ボールの軌跡は二人をすり抜け、そして地面へと落下した。


「はい、咲ちゃんと麻也香ちゃんチームに一点。すごいすごい」


 こちらが得点を入れたお母さんは嬉しそうに手をたたきながら、褒め称えてくれた。


「すごいよ、麻也香ちゃん! ナイスナイス」


 私も彼女の活躍に称賛した。しかしながら、麻也香ちゃんの表情は芳しくない。


「うぅ、くぅぅ……」


 彼女は泣いていた。


「ど、どうしたの麻也香ちゃん!?」


 あの一瞬で何があったのか。あんなにハツラツとしていた麻也香ちゃんが急に覇気を無くして、涙を流している。いったいどうしたのか。


「おっぱいお化けがいる」


「へ?」


「さっき言った格差。目の前に行くとよく分かる。あんな化け物を胸にぶら下げやがって、うぅくぅぅ」


「あ、あぁうん、そうだね」


 悲痛の叫びだった。私もそうだが、麻也香ちゃんもそこまで大きなバストではない。一方で天音ちゃんはEカップの巨乳、水瀬先輩はDカップのほどよい美しい大きい部類のお胸だ。そんなダブルおっぱい達を至近距離で目の当たりにしたらそうなるのもおかしくない。


「おっぱいこわいこわいよ」


 もはや彼女に戦闘の意志がない。ここは私が行くしかない。


「大丈夫私が行く。見てて!」


 手と膝をついて倒れる麻也香ちゃんの肩に手を軽く置いて、私は前を向く。そして前にそびえ立つ2つの文字通りの巨頭に立ち向かう。


 まるで少年マンガの絶体絶命ながらも敵に立ち向かう主人公になった気分だが、まぁそこは置いておこう。


「じゃ、次は咲ちゃんからね」


「ふふ、負けませんよお嬢様」


 サーブ権がこちらに回る。私は二人からボールを受け取った。そして全力ジャンプをしてボールを相手のフィールドへと打ち込んだ。






★★★★★★★★★★





「一人じゃ無理……」




 疲れはてて、私は立てた傘の元に戻っていた。あの後、うなだれた麻也香ちゃんは戦いに参加できず、ずっと一人で二人を相手にしていた。天音ちゃんはともかく先輩は運動神経はかなりよくめちゃくちゃ走り回らされた。


 また麻也香ちゃんとは別の意味で、私もおっぱいの被害にもあった。


 私はそこまで胸の大きさに関しては劣等感はない。しかし水瀬先輩のおっぱいは別格だ。美しいフォルムに、母性あふれる女神の象徴。あんなものをぶるんぶるんと振り回されたら私の正気が保てない。何度鼻血を出したことか。


 結局、それに見惚れてボールを顔面に受けてダウン。そしてそのまま傘に直行したわけだ。しかしながら私はそうなってよかったと思っている。それはなぜか。




「お嬢様大丈夫ですか」


「ふあぁ、は、はい♪」




 そうなんと今私は水瀬先輩に膝枕をしてもらっているのである。


 むっちりとした太もも、そしてそこから見えるたわわなお胸。なんという絶景なんだろうか。


「お嬢様がボールを顔にぶつけられたときはとても驚きましたよ。ご気分はいかがですか」


「あ、いやはい。大丈夫です」


 気分なんて最高にハイに決まっている。突き出したおっぱいは見えるし、近づきすぎてめちゃくちゃいい匂いするし、なにより汗をかいた先輩が妖艶すぎる。めちゃくちゃエロいのである。


「ですが、顔が赤いですよ。やはり気分が悪いのでは?」


「い、いえそんなことないです。ただ熱くて」


 確かに先輩の言う通り、顔が赤くなっているのは確かなはずだ。気分は悪いわけないけど、ドキドキが止まらないもの。


「しかしながら、お三方は元気ですね。先程まで意気消沈されていた麻也香様はすっかりのりのりでボールを弾いてますし。1人なのに大したものです」


 少し視線をビーチボールコートに移すと、そこには麻也香ちゃん1人と向かい合ってお母さんと天音ちゃんが戦っている。


「麻也香ちゃんは運動部ですからね。体力だけはあります。お母さんも趣味でジョギングしてるし、天音ちゃんもスイミングをしているとよく言ってました」


「そうなのですか。みんな楽しそうにはしゃいでますね。こっちに気を取られることもないくらいに」


「先輩?」


 私が説明中に、先輩の声のトーンが急に変わった。そして先輩はそう言葉を漏らした後、ふと立て掛けていた日傘に手をのばす。


 影を作るための日傘は、全員が影に入れるように三本ほど立て掛けてある。そんな3本のうち一本を先輩は手を伸ばして引き抜いた。そして私達の体がビーチコート側から完全に見えないようにその日傘を置いた。


「せ、先輩何を!?」


「ふふ」


 先輩は少し口元を緩めると、私の耳元に口を寄せる。


「もしかして顔が赤いのは私の体に欲情していたのではありませんか?」


「ふぇ、せ、先輩、うぅ!?」


 その瞬間、先輩から猛烈なキスを受けた。


「うぅ、はぁ、くちゅ、はぁ❤」


「お嬢様、うぅはぁ、ちゅ、はぁ❤」


 そしてしばらく口づけを交わすと、口元を離す。すると少し糸が引き、ぷつんと切れた。


「せ、先輩……、はぁはぁ」


 すごく濃厚で気持ちよかった。頭がふわふわして、とても心地いい。先輩も熱い吐息を漏らしている。


「これで少しは回復したのではないでしょうか。ふふ」


「ふあぁ、は、はい」


「ではお嬢様はしばらくここで休まれてください」


 先輩はそう私に告げると、クーラーボックスに入った大きな保冷剤お取り出す。それをタオルで巻きつけると、枕代わりにして私の頭の後ろに敷いてくれた。


 そして先輩は立ち上がるとビーチコートに向かっていく。ただ少し歩いたところで先輩はくるっと私の方向を向きなおした。そして軽く微笑んで私に言葉投げかける。


「メイドからのちょっとしたプレゼントでした❤」


 最後にはウィンクをして先輩はそのまま3人に合流していった。




「はぁ、先輩には敵わないよ」


 さっきされたキスの感触を思い出しながら、私はゆっくりと目をつむった。

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