後編 〜〜居酒屋にて〜〜

 派遣社員の私のお給料は決して高いとは言えません。

 そういうわけで、昔正社員で働いていた頃の職場の友人と会うのも、小洒落たビストロなんかではなくて安いチェーンの居酒屋です。

 割り勘にするので、気を使わせていることに忸怩たる思いはありますが、私も彼女もこういう店の雰囲気はキライではありません。


「なんかもう定例化してきたわよね、あんたの愚痴や失恋話を聞くの」


「えっへっへぇ。今回はちょっと違うんだ〜」


「へぇ。いつもいつも似たようなチャラいイケメン惚れて貢いで捨てられて、のあんたが、今回は違うタイプの男に惚れた、と?」


 そこで私は、<a href= "https://kakuyomu.jp/works/1177354054891855028/episodes/1177354054891855032" >前半みたいな話</a>を嬉々として語ったのでした。


「へぇ。年齢トシはともかく、あんたにしてはマトモな人に惚れたみたいね」


「えへへ。でしょう〜? 十歳違いなんて充分アリだよねぇ〜」


 

 その時、新しいお客が入ってきました。


「いらっしゃいませー!」

「ご予約の黒根様ご来店でーす!」


 ――黒根、様……?


 たぶん私の顔は百面相のように目まぐるしく変わっていたことでしょう。

 振り向くと、そこには中年サラリーマンが3人、その中のひとりは確かに黒根主任でした。


「で、どの人?」


 察しのいい友人はそれだけで判ってしまったようです。


「……えと、あの、一番メタボっぽい人……」


「はぁ……。540度くらい回って、ずいぶん趣味変わったわね」


「えへへ」


「別に褒めてないわよ?」


 私の背中の方から、乾杯の声が聞こえます。


『なんかもう定例化してきたな、黒根のノロケとあと部下自慢』


『嫁さんや娘さんの自慢する奴は時々いるが、部下自慢っていうのはあまり聞かないよな』


『いや、だってホント優秀なんだよ、この前入った子!』



 向かいに座っている悪友がニヤニヤ笑っています。


「あらあら、あんたのコトじゃない? もしかして」


 ――ノロケ? 嫁自慢? 娘自慢? 主任、結婚してらっしゃったんですか?



『なんか人間関係で会社辞めて今は派遣社員をやってるらしいけど、スキルもあるし、人当たりはいいし、段取り上手いし、今産休の子が戻ってきても残って欲しいね』



「あらあら、評価高いじゃない? あんた」


 悪友はチェシャ猫のように笑っています。


 ――私、思っていたより評価されてる?!



『産休って言えば、お前相変わらず職場じゃ嫁自慢、娘自慢してないのか?』


『ああ、今いる子たちって、男も女も独身が多いからさぁ。何が地雷になってセクハラだ、パワハラだって言われるかわからないじゃん?』


『たしかにそういうのあるよなぁ』


『だからって結婚指輪まで外してるのってどうなん?』


『いや、だって僕が指輪してなくたって勘違いする女性はいないよ』


『まあ、見た目はなぁ』


『ははは』



「あらあら、ココにちゃんと内面に惚れた女がいるのにねぇ」


 目の前の悪友は、昔のカルピスのキャラクターのような目をしてニヤニヤわらっています。


 ――ああ、私、告白とかするまでもなく、また失恋したんだ……。


「でも……次はいい恋できるんじゃない? 職場の同僚もいい人みたいだし、独身多そうだし?」




 fin.

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