27 明神市を空から散歩しよう


 明神市。

 私が暮らす街を空から見ると、真ん中辺りに木々の列があり、そこを境に建物の傾向ががらりと変わる。

 木の列は防風林の名残で、元々海岸だった。

 そこを埋め立てて、今の明神市がある。


 私が空の散歩を楽しみつつ適当に写真やビデオを撮っていると、明神大学の方から空に人が飛び出した。

 腕が翼になっているタイプの亜人のようだ。

 毎度思うが、不便は感じないのだろうかと思う。

 実際に知ろうとするほど興味はない。


「誰かと思ったらコウモリさんじゃないですか」


 暫く前に引っ越して来たらしいコウモリの亜人がこちらに。

 その場で羽ばたきつつ私は「こんにちは」と挨拶をした。

 彼女とは彼女が越してきたばかりの頃から時々空で会話をする仲だ。最

 近増えてきたとは言え、まだまだ空を飛べる亜人は少ない。

 飛べる亜人向けのマンションばかりポコポコ増えてもしょうがないと言うに。


「あ、こんにちは」


 彼女は最近、地上を男の方にしがみついて移動していた。

 彼女の大きな翼は広げれば上からでもよく目立つ。


「今日はいつもの男の方とは一緒じゃないので?」


 そういうと彼女は少し頬を赤らめて、はにかむように目元を緩めた。


「あ、ご存じでしたか。彼は今日は実家に寄るので、私だけ先に家に戻るんです」


 胸元を見ればネックレスのように鍵を身につけている。

 私も持っている鳥系獣人用マンションの窓の鍵だ。

 はて、前は普通のワンルームマンションに住んでいたような。

 見れば陰りがあった彼女の表情にはそれらしきものが一切残っていません。


 しかし鳥系獣人の定義の関係とはいえ、私のような手足が十全な者に支給し、彼女の様な手足が使えないような方に支給されないのは問題があると思います。


「そうでしたか。ではお気を付けて」


 私は深い詮索をするのは辞めることにしました。

 よい人を見つけたのでしょうね。


「はい、ではまた」


 彼女は羽ばたきを緩めて下降していく。

 この辺りに住んでいるのでしょうか?

 私と話すためにわざわざここまで上がってきたのかと思うと、少々こそばゆいものがありますね。


 思考を切り替え、旧市街の商店街を見て見ます。

 一際背が高く大きい方が見えます。あの方は私の隣に住んでいる方でしょうね。

 殆ど自宅には帰らない私ですが、彼女の存在感は巨大な体と比例するように大きいのですから、よく覚えています。

 広くて快適だから、という理由だけで家賃の高いウチのマンションを借りたと言っていたことも。


 商店街から少し離れた場所にはドリアードが庭に住んでいることで有名なお宅が見えます。

 上からは南国っぽい葉の茂り方をしている低木が二つあるくらいしか分かりませんが、これが彼女たちなのでしょう。


 次は新市街に言ってみるとしましょう。

 飛べばすぐですからね。


 元防風林の上を越えて暫くすると、幼稚園が見えます。新しくてそこそこの広さで立派です。

 ここは前来たときは白いモコモコの塊が園児たちと遊んでいたのですよね。

 気になって降りたら羊の獣人で大層ビックリした覚えがあります。

 彼らって凄く閉鎖的で、自分たちだけのコミュニティを作るんですよね。

 少数しかいないこの街にもビルを4棟くらい自分たちで買い取って使っている、という話を聞きました。


 幼稚園の周囲には学校が固まっています。

 小学校や中学校、高校が揃っていますが、それぞれの校舎はとても大きいです。

 恐らく亜人の子どもでも不便なく通うためなのでしょう。

 そう考えると設備も揃っていて便利そうですねぇ。


 ちょうど、高校から長い蛇さんが出てくる所です。

 アレが本当に亜人なのかどうかは私には判断が全く付きませんが、法律的に蛇人は人の範疇、らしいですね。

 腑に落ちませんが。

 そしてあの蛇さん、鱗がてらてらしてて非常に眩しいです。


 高校の下校時間、ということはもう結構な時間ですね。

 時計、前落として壊してしまいましたから分からないんですよね。

 早めに新しいのを買った方が良いようです。


 私も帰ることにしましょうか。

 自宅ではなく、あの愛しい人の家に。

 もう少し押せば落ちると思うんですよね。

 そうすればマンションを引き払って大手を振って一緒に住めるのに。

 とはいえ、居候のような私に布団をきっちり用意してくれる辺り優しいのでしょうね。

 そこにまた惚れ直してしまいます。


 さ、今日はどうやって誘惑してしまいましょうか。

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