28 三ツ目地底人娘1


 電灯が少ない夜道を遠くにある灯りを頼りに歩いていると、向こう側からふらふらと揺れる光が近づいてくる。

 かなり高い位置で、懐中電灯や自転車・バイクの類ではあり得ない。

 人魂か、と身構え、鞄の中に常備している懐中電灯を人魂らしき物体に向け照らす。


「きゃっ!」


 と同時に女性の悲鳴が。

 僕が照らす懐中電灯の明かりの中に女の子がいた。


「あ、ごめん!」


 僕は慌てて懐中電灯をカンテラモードにし、謝る。


「あーびっくりした」


 彼女がそういった瞬間、僕もビックリした。

 彼女は人間、ではあるのだが、最近よく耳にする亜人という類の少女だったからだ。

 人間の額は光らない。人型で喋るのでたぶん亜人であっていると思う。


 戸惑いを押し殺しつつ僕は言い訳をすぐさま考え、結局最初に感じたことを正直に述べることにした。


「ごめんよ、その、光るソレが人魂に見えて」


 カンテラになった懐中電灯に照らされる彼女はとても色が白く、皮膚の向こうにある血管が透けて見える。

 目は大きく、黒目がちでまんまるだ。

 そして額が光っている、と思っていたが実際には額に埋め込まれた何かが光っているらしい。


「ひとだま……?」


 彼女は少し小首を傾げ、右の人差し指を赤い唇の下に添える。

 少しだけその姿勢で止まってから「ああ!」と嬉しそうな声を上げて笑顔になった。


「光るオバケ、でしたっけ。地上の方って明るいところに住んでるのに光が怖いんですか?」


 両手のひらを胸の前で合わせはにかむ彼女。

 彼女のそんな問いに僕は照れながら質問に答えることにした。


「光が怖いんじゃなくて、得体の知れないものが怖いんだよ」

「ま、失礼ですね。でもこれで正体がはっきりしたでしょう?」


 彼女は額の光るソレを指で示す。


「私のおでこの目だって!」


 ……目?



「目?」


 僕は思わず思考を口からだだ漏らしてしまう。目が、光るのか。


「私たちはえーと、日本語でいうと“額の目”に当たる言葉で呼んでいるんですけどね。えら~い学者さんも目が進化してこうなったんだって」


 受光器官が発光するってそれはどうなのだろうか。


「ほら、私たちの種族って地下で暮らしていたから」


 あ、地底人なんだ。

 そういえばさっき僕を「地上の方」って言っていたな。

 というか初対面、だよな。


「それで光るようになったんです」


 間の説明が欲しかった。

 けれど笑顔で答える彼女にはとても言いにくいので言わないことにする。


「ああそうだ。ちょうどよかった」


 彼女は胸の前で手を打ち合わせ、声のトーンが高くなる。


「わたし、ホテルミュー明神に泊まる予定だったんですが見当たらなくて。どこにあるかわかります?」


 って明神?

 ホテルミュー明神は明神駅の駅前にあるホテルだ。


「ここ、明神市じゃなくて隣の馬尋市なんだけど」

「え?」


 このあと彼女を明神駅の駅前まで徒歩で送り、それが切っ掛けで付き合うことになるとはこのとき思いもよりませんでした。

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