第34話 奇病の終焉

 イルファの実家への道を歩きながら、エラは語る。


「キュアポーションの素材も足りないのじゃが、錬金術師の手も足りないのじゃ」

「作れる人がいないってこと?」

「正確には効果の高いキュアポーションを作れる手が足りないってことじゃな」

「大変なんだね」


 そんなことを話している間に、ララとエラはイルファの実家までやって来た。


「大きい家だねー」

「ああ見えてお嬢様じゃからな」

 

エラがドアをノックし、出て来た使用人に名を名乗ると、すぐに中へと通された。


「イルファのお加減はどうなのじゃ?」

「あまりよろしくありませぬ」

「……そうか、薬は?」

「品薄ゆえ……」

「ふむ。そうか」


 裕福に見えるイルファの家でもキュアポーションは手に入りにくいようだ。

 そうこうしている間に、イルファの部屋の前に来た。


「イルファお嬢様。エラさまがいらっしゃいました」

 使用人がそう呼びかけてから扉を開けてくれた。


「イルファ。加減はどうじゃ?」

「……おみまいありがと」


 そういってイルファは微笑んだ。

 だが、顔は発熱で真っ赤だし、少しやせているようにも見えた。

 本当につらそうだ。


「ただのお見舞いではないのじゃ。ララが流行りの風邪がどんなものか知りたいと言ってな」

「イルファ、私が診察してもいいかな?」


 イルファはこくりと頷いた。


「ララが凄腕なのは知ってるから、お願い」


 早速ララは診察に入る。

 魔法を使って、身体の状態を調べていく。


「ふむ……。師匠、イルファの症状って他の患者と同じ?」

「そう見えるな。もちろん症状の重い軽いはあるのじゃが」

「そっかー。イルファ、結構しんどかったでしょう?」

「……ふふ。大丈夫よ。鍛えているから」


 イルファは口ではそう言うが、明らかに無理をしている。


「ララ。どんな病気? 風邪ではないでしょう?」

「そだねー。風邪じゃないよ。でも大丈夫。薬を作るね」


 ララは横にあったイルファの机を借りて、錬金壺を二つ置いて薬を作り始めた。

 その様子をエラはじっと見る。


「ララ。私の病気ってなに?」

「えっとね――」


 ララが病状を説明しようとしたとき、扉が力強くノックされて、すぐ開かれた。


「イルファ! 大丈夫か!」

「……おじいさま。ノックから開くまでが早すぎるわ」

「……すまぬ」

「いまは薬師さまがいらっしゃっているから」

「く、薬師?」


 その時、ララはイルファは祖父に背を向けて、薬づくりに集中していた。


「よし、できたよー」


 ララは二つの壺で二種類の薬を作った。

 それを、それぞれ瓶に詰める。そして瓶の一つをイルファに手渡した。


 その様子を見ていたイルファの祖父は、

「さすがに、わ、若すぎぬか?」

「お爺様、薬師さまに失礼ですわ」

「す、すまぬ。だが……」

 不安そうにララを見て、怪訝そうな顔をする。


「……お主、いや薬師様、どこかで、いや何でもありませぬ」


 イルファは手渡した薬をじっと見てからララを見る。


「これを飲めばいいのね」

「そうなんだけど、ちょっと待ってね」

「はい」

「イルファ、背中みせて」

「え? 背中?」

「そ、背中」


 イルファは寝巻の前のボタンをはずし始める。

 慌ててイルファの祖父は後ろを向いた。


 イルファがララに背中を向けて寝巻をはだけると、赤い斑点がついていた。


「師匠、これみて」

「何かわかったのかや?」


 皮下出血はこの病気では、よくある症状ではある。


「小さすぎて見にくいと思うから……、魔法を使うね」

「お、おう」


 ララは右手の親指と人差し指で輪を作って、赤い斑点にかざす。


「十倍に拡大してみたよ。指の間を覗いてみて」

「う、うむ……、これはなんじゃ?」

「ダニだよ。魔ダニの亜種かなー」

「魔ダニじゃと? それはわらわも見たことあるが、もっと大きかったと思うが……」

「こんなに小さいのは私も初めて見た」

「もしや、今回の流行り病はダニの流行じゃったというのか?」

「ほかの患者も見ないと何ともいえないけど、たぶんね」


 そしてララはダニの駆虫薬を取り出した。


「煙が出るけど大丈夫?」

「うん、お願い」

 そこからは昨日魔熊相手にやったのと同じだ。

 煙でダニを殺してから、アンチドーテを塗って、飲ませる。


「魔ダニの中でも、特別な種みたいだから、キュアポーションも飲んでおいて」


 イルファは素直にララの指示通りに薬を飲む。

 すると、すぐに安らかな表情になって、眠りについた。


「ふう。多分もう大丈夫」

「ララ、さすがじゃな」

「ララ殿だと?」


 イルファの祖父がなぜかすごく驚いていた。


「ララだけど……。あ、おじさん、久しぶりだね」

「やはり、ララ殿でありましたか! お久しぶりでございます」


 イルファの祖父は、六歳の時にララが倒した剣聖だった。


「ララ、剣聖様とお知り合いなのかや?」

「小さい頃に遊んでもらったことがあるんだー」

「そうであったか」


 そんなことをララとエラが話している間、剣聖はイルファの額に手を当てたりしている。


「ララ殿。イルファを助けてくださって、ありがとうございます」

「イルファは友達だから!」

「ありがとうございます」


 剣聖はもう一度深く頭を下げた。


 エラはすやすや眠るイルファを見てほっとしたようだった。


「そうか。魔ダニであったのじゃな。薬の効果が薄いと思ったのじゃ」

「やっぱりキュアポーションよりアンチドーテかなー?」

「ふむ。さっそく、錬金術師ギルドに報告しておかねばならぬのじゃ」

「それがいいと思う!」

「ララよ、ダニ駆除剤とアンチドーテの製造に注意点などはあるかや?」

「うーんとね……」


 ララはエラにダニの習性や毒の特性などを説明する。


「わかったのじゃ」

「じゃあ、私はダニ駆除剤と、アンチドーテを沢山作っておくね」


 エラは錬金術師ギルドに向かって走っていった。

 そして、ララは剣聖にエラの工房へと送ってもらう。

 おかげで道に迷うことなく工房へと到着できた。


「ララ殿は魔法だけでなく、錬金術も極めておられたのだな」

「極めてないよー」

「謙虚でおられる」


 剣聖は心底感心したようだった。


 エラの工房に到着したララは、アンチドーテ、ダニ駆除剤の量産に入る。

 秘儀書を読んで学んだことを生かして、次々と完成させていった。


「やっぱり素材をたくさん集めておいてよかったね!」

「りゃあ」


 ずっと大人しくしていたケロも嬉しそうに鳴く。


 ガレーナの街を襲った謎の奇病事件は、ララの活躍もあり無事終息したのだった。

 その後、ララは故郷に帰って、父も無事回復させることに成功したのだった。

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魔王の娘。勇者にやられた父を癒すために錬金術を極める えぞぎんぎつね @ezogingitune

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