羽田さんの話②山の主

これもまた、前回のお話と同じ平屋で体験したお話。


いつ頃体験したかは忘れたそうですが、

一つ目の体験からそこまで時間が経っておらず、あまり特徴的な天候でもなかったことから、恐らく秋の始まりか春先ぐらいじゃなかったか、と羽田さんは話されました。



どちらにせよ、のどかな日和で、過ごしやすい時期であったと思われます。




ある日のこと。


羽田さんのお母さんは思い立って、すぐ近くにある山に行きました。


登山というよりはふもと辺りを散歩したという感じで、ふらっと寄ったという感じでした。


なぜ、お母さんが山に行ったかというと、ある噂を聞いていたからでした。



その山は、全国的には全く有名ではなく、代表するような神社仏閣すらありません。

さらにはどこの誰が所有者かも分かっていないような、とにかく在り来りな普通の山。


なのに何故か、その山の近くに住んでいる地元の人達の間では、パワースポットとして知られていたのです。


どんな恩恵を授かれるかも分からないし、

具体的にこんな幸せなことがあったなんて話も聞かないので、お母さんはあまり期待せず着の身着のまま山に行き、少しばかり巡って帰宅しました。




翌日、その日は小学校がお休みでした。

自分と妹とお母さんの3人一緒に家で過ごしていると、中庭の方から人を呼ぶ声が聞こえてきます。



お母さんは家事で忙しそうにしていたので

羽田さんが庭に行ったところ、そこにはよく知った顔の近所に住む妙齢の女性が立っていました。


人を呼んでいたのは彼女で、お母さんを呼んできて欲しいと頼んできました。


普段から“隣のおばさん”と呼ぶほど、親交がある人だったので、なんの疑問も抱かずお母さんのもとへ。



「お母さん、隣のおばさんがなんか呼んじょったよ。」

それを聞くとお母さんは作業をやめて中庭に向かいました。


いつも通りちょっとした世間話だろうと踏んでいた羽田さん。

しかし、庭から聞こえてきたのは、言い争いをする訳では無いものの、何かを話し込むようなやりとり。



普段とは違う雰囲気を察して、

羽田さんは落ち着かなくなりました。




しばらくして戻ってきたお母さんは

どこか困惑した面持ちです。

羽田さんは、思わず尋ねてしまいました。



「おばさんと何の話してたの?」

「うーん…。お母さんもね、

 なんでこんなこと言われたのか

 ほんとに分からないんだけど…。」

「え、なんて言われたの?」

「なんか、山の主にならないか?って

 そう言われたの。」

「ええ!?」




羽田さんはあまりの突拍子のなさに、思わず声をあげてしまいました。


おばさんはそんな変なことを突然言うような人ではありません。

ましてや、彼女は山の所有者でも関係者でも何でもなかったのです。



「母が山に行ったこととおばさんの訪問が関係あるかは自信が無いんですけど、昨日の今日って感じであまりにもタイミングが良すぎるというか…。

変な話としてすごく印象に残ってるんです。

ほんと、なんだったんですかね?」


羽田さんはそう言って首をひねりました。


山がパワースポットと言われている理由も、

おばさんが羽田さんのお母さんを山の主にしようとしたきっかけもよく分からない、何とも不思議なお話です。



もしかしてお母さんは山の主に魅入られてしまったのではないか…

そんなことを考えてしまいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

匯畏憚-かいいたん- 実話録 遊安 @katoria

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ