42 Hさんのお話④双眼鏡にうつるもや


「朋さんは双眼鏡で遊んだことがありますか?」



Hさんに突然こう尋ねられました。



「昔、雑誌の付録でついてきた

 双眼鏡を覗いたことがあります。

 まあ、簡単なものなので、

 ピントがあわせられるわけじゃなくて、

 拡大鏡みたいなものですが。」


とにかく、本格的なものではないが使ったことはあると伝えると、



「そうなんですね。

 いや、これは怪談になるか

 分からないんですけど、

 双眼鏡を覗いているときに

 不思議なものを見たことがあるんです。」



とこんな話を聞かせてくださいました。







彼女がまだ小学校1、2年生だった頃。




星を見るのが好きなお父様から、

値段が高い高性能な双眼鏡をもらいました。





乱視の彼女に合わせて、

右には度ありのレンズ、

左にはただのガラスのレンズがはめられていたそうです。






Hさんはそれをとても気に入り、

夜になっては部屋の中からそれを使って外の景色を見ていました。




彼女の家は町中にあるので、

星ではなく、民家のある町並みを

ただ眺めていたのだとか。






その日もHさんが双眼鏡を使って景色をあてもなく眺めていると、

ふと、ある家が目にとまります。




そこはただの一軒家で中庭があるのですが、

道路と中庭の間に、

何か影のようなものが見えるのです。





(なんだろう?)




気になったHさんはその影にピントをあわせることにしました。






性能がいい双眼鏡ですので、

おもちゃとは違い、

ピントを合わせる調節リングがあり、

片目で覗きながら、

左右のピントをあわせていきました。






まずは乱視のある右側、

そして、左側。



ピントがあったので両目で覗くー

が、民家や中庭はくっきり見えるものの、

肝心の影はただの白いもやでしか見えません。




汚れか傷かとレンズを拭いてみますが、

もやは動くことも消えることもなく、

確かに民家の前にいるようでした。




(汚れとかじゃないなら

はっきり見えるはず。

ピントが民家にあっちゃってるのかな?)



と、今度はもやにピントをあわせようと考えたHさん。




先ほどと同じように、

乱視のある右目からあわせます。




たしかにそこにもやがいるのですが、

どれだけダイヤルを回しても

一向にはっきりと見えません。




あきらめて左のピントをあわせようとした時、

「え?」と目を凝らしました。




左目で覗いている時だけ、

白いもやが見えないのです。



そんなはずはない、と

右目で覗くとたしかにいる。





しかし、また左目で覗くと見えなくなってしまう。




「左のレンズはただのガラスですから、

 度入りのレンズの方が

 しっかり見えるんです。

 いつもなら。」




片目だけでしか見えない白いもや。




普通でないと気づいた瞬間にぞっと

鳥肌が立ち、

「あ、これは見てはいけないものだ。」

と理解したHさんは、

すぐに双眼鏡から目を離して、

外を覗くことをやめたそうです。






「いえね、乱視ですから

 変な風に見えただけかもしれませんが、

 いつもはちゃんと見えるので…。

 ほんと、ただそれだけの話なんですが。」







ネットでは洒落にならない怖い話として、

いくつか双眼鏡にまつわるお話が見受けられます。




レンズを通してこの世ならざるものを

見てしまったのかもしれません。





夜の景色を眺めるのがほんのり怖くなる

不思議な体験談でした。



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