41 Hさんのお話③見えない


ここまでのお話で分かる通り、

Hさんのお祖母様はとても強い霊感の持ち主であります。



Hさんは「自分には全く霊感はない。」

というのですが、

お祖母様の話によると

彼女が幼い時分には、

見えない存在によくちょっかいをかけられていたのだとか。





「実はHちゃんがお婆ちゃん家来るとね、

 座敷わらしが出て一緒に遊んでたのよ。

 Hちゃんが高校生になってからは

 いなくなっちゃったけど。」

と高校生の時に教えられてとても驚いたと言います。



気になってどんな見た目か聞くと、

「赤いちゃんちゃんこを着て、おかっぱ頭だったわ。背丈はHちゃんが子供時と同じぐらい小さくて。

ただね、顔だけがお婆ちゃんだったのよ。」

とにこにこと答えたそうです。



Hさんには座敷童子と遊んだ記憶は全くなく、見えたこともないそうですが、お祖母様の目にははっきりと見えていたのだとか。






こんな調子でいつもにこにこと不思議な体験を話してくれる朗らかでちょっと天然なお祖母様。



そんなお祖母様が穏やかな調子を乱し、

少し慌てた姿を見せたことが

Hさんの幼い頃にありました。





Hさんが小学校に上がる前くらいのこと。



両親が共働きだったので、

保育園が夏休みになると、よくお祖母様の家に預けられていました。




二人の兄も一緒だったので、Hさんは特に臆することなく、遊んでおりました。




ある日、いつものように兄達と遊んでいると、

そこにお祖母様がやって来て、

Hさんの姿を見るなり、

「あらあらあらあら。」と困惑の声を漏らしたのです。




Hさんが首を傾げていると、

お祖母様はお祖父様に兄達のお守りをするように頼んで、Hさんの手をひきどこかへと歩きだしました。




「おばあちゃん、どこ行くの?」

と尋ねるHさんにお祖母様は

「うーん。ちょっとね、Hちゃんの姿がはっきり見えなくてね~。」

と歯切れ悪く答えたそうです。





姿が見えない?

どういうことか分からず、余計に戸惑ってしまいます。




状況が飲み込めないまま、とうとう山の麓にあるお寺に着きました。



お祖母様が声をかけると中から顔見知りのお坊さんが出てきました。




よく知っているお坊さんが出てきてほっとしたHさんですが、どうもお坊さんの様子がおかしいことに気がつきます。




お祖母様とは話をするのに、こちらを見ようとしません。



お祖母様が「孫の姿がみえなくなったからお祓いしてほしい。」と頼んでも、首を傾げているばかり。



お坊さんは状況が把握できていない様子で、「えーと、お孫さん、だっけ?まあ、どうぞ。」と怪訝な色を浮かべながら、奥に通してくれました。



Hさんは子供ながらに、

姿がみえなくなった孫を何とかしてほしいという奇妙な相談だから仕方ないと納得したものの、だとしても、お坊さんの態度が冷たく思え、居心地の悪さを感じたそうです。




奥の間に行って、

Hさんはお祓いを受けました。



ただ、この時読経があったとか

背中を叩かれたとか、とにかく何をされたかは全く覚えていないのだとか。



ただ、お坊さんとお祖母様がなにやら話をしている姿だけは印象に残っていました。




さて、お祓いは無事にすんだのですが、

Hさんはどうも腑におちませんでした。



それもそのはず。


Hさんは自分の姿が見えなくなっている実感が全くなかったからです。


効果はあったのか、

そもそも、本当に見えなくなっていたのか

疑問を抱きながらお坊さんと雑談するお祖母様のもとへ向かいます。




すると、彼女の姿を見たお坊さんが感嘆の声をあげました。



「わあ!こんなにも可愛い子だったんだね!」



その反応から、

お坊さんは奇妙な依頼をいぶかしんでいたわけではなく、

Hさんの姿が全く見えていなかったことが分かりました。



お祖母様もお祖母様で彼女を見るなり

目を輝かせて、

「顔が見えるようになったわ!」と嬉しそうに頭を撫でられました。



そこでようやくHさんは

本当に姿が消えてしまっていたのだと自覚し、

無事にもとに戻ったことに安堵したのでした。






「そんな感じで、ほんと一瞬ですけど

 姿が見えなくなったことがあるんです。

 自覚症状はないんですけどね。」

とHさんは笑って話をしめられました。







作者は彼女の話を聞いて

昔読んだ妖怪図鑑に書かれた

ある一文を思い出しました。





『鬼の唾をつけられたものは姿が見えなくなる。』






Hさんの姿が見えなくなったのは何故か、

そして、その事に気づける人がいなかったらどうなっていたのか。



見えないから、経験がないから安全、

なんてことはないのかもしれません。



気づいていないだけで、

きっと、今も傍に…。




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