第7話翻弄されたパラドックス・ウルフ

「このハスキーは失敗作になってしまったため、本来なら非情の殺処分を受けるはずだった・・・。でもこのハスキーを可愛がっていた僕の父さんは、このハスキーを連れて研究所をでた。」

「どうして?」

「父さんが勤めていた研究所は『人と動物が共に生きる』をテーマに研究を続けた、その頃からハスキーは研究所で飼われていたんだ。でも研究所の所長が変わって獣人化計画の研究をすることが、父さんには耐えられなかった。」

「そりゃあ、自分の理想に反することだもんね。」

「父さんは最後まで獣人化計画の研究に猛反対した、でも結局研究が実行されこのハスキーが、最初の実験台になってしまった。それで父さんは研究に嫌気がさして、ハスキーと一緒に逃亡したんだ。」

「そうか。じゃあ日本に来た時に、置き去りにされたというのは嘘なんだね。」

 ジョンは頷くと「ごめんなさい」と高山に謝罪した。

「それでジョンの父さんは、今も身を隠しているの?」

「・・・・・四か月前、何者かに射殺された。」

「そうだったのか・・・。」

「でもハスキーは無事だった。万が一の事を考えて父さんが信用出来る友人に、預けていたからね。でもその後まさか、日本に来ていたなんて思わなかったよ。」

 話を繋げるとジョンの言う父さんの親友が、祐介の言っていたSの親戚。そしてハスキーはその後S、祐介が当時勤めていた保健所と、たらい回しされたという事だ。

「僕が日本に来たのはもう数か月前、この時父さんの親友の親戚が日本の何処かの保健所に預けたということを知っていた。何日も日本中を探し続けたある日、そのハスキーが保健所を破壊したニュースを知ってすぐに、当時の関係者を捜したんだ。そして祐介という人と会った。」

「祐介と会ったのか!?」

 高山は動揺した。

「うん。彼はこのハスキーを殺処分しようと考えていたけど、やはり胸にちくりと刺さる気持ちを強く感じていた。だからハスキーを殺せなかった、親友が飼い犬を募集していてくれてよかった・・・、と言っていた。」

 無論その親友というのは高山卓である、高山は祐介の言葉の意味と祐介という懐かしい思い出に、涙を流していた。

「そうか、君と会っていた親友は祐介だったのか・・・。」

「それでその後、研究所が『キラーリスト』を雇ってハスキーの殺処分を企んでいるという事を知った。」

「キラーリスト?何それ?」

「キラーリストはナイフ・銃・毒などのプロフェッショナルばかりで構成された暗殺組織なんだ、金さえ出せばどんな奴でもあらゆる手段で仕留める。」

「でも何で殺し屋を雇ってまで、このハスキーの存在を無くしたいんだい?」

「言っただろう、このハスキーは生物兵器の失敗作なんだって。もし世間にこのハスキーの実態が知られたら、世間から非難され研究所は研究ができず利益が得られない。」

 高山はハスキーが可哀そうになった、それと同時に高山は命を軽視する研究所の人達が許せなくなった。

「わかった・・・。その研究所とやらが無くなれば、このハスキーは平穏無事に生きていけるんだね。」

「もしかして研究所と戦うの?」

「ああ、そうすればこのハスキーは何も心配ない。」

「だけどその研究所はアメリカ政府とも繋がっているんだ、君が思っている以上に手ごわいよ。」

「戦うと言っても、このハスキーに二度と手出しさせなくするだけだ。」

「・・・そんなにそのハスキーが好きなんだね。」

「ああ、やっと手に入れた俺の家族なんだ!」

 高山は右手を握りしめて、堂々と言った。

「・・・わかった、あなたに協力するよ。その代わりこちらの条件も、聞き入れてくれないか?」

「何だい?」

「もし研究所がハスキーに手を出さなくなったら、僕のチームに四か月だけハスキーを預からせてくれないか?」

「それはどうしてだい?」

「僕のチームには動物専門の外科医がいて、ハスキーのその厄介な能力を無くせることが出来るんだ。そうすれば安全にハスキーを飼い続けられる。」

「わかった、一緒に頑張ろう!」

「うん、これからよろしく!」

 高山はジョンと、固く誓いの握手をした。そしてその日は二人とも眠りに着いた。


 そして翌日、高山はジョンからより詳しい情報を教えてもらった。

「実はこのハスキーには、体内にGPSが入っているんだ。だから研究所は、ハスキーがどこにいるかが手に取るようにわかる。そしてハスキーの居場所を、キラーリストに教えているんだ。」

「それは隠しようがないという事か・・・、せめてキラーリストを動けなくすることが出来たらいいのに・・。」

「動けなくするって、どうやって?」

「・・・・・あっそうだ、祐介だ!」

「どいういう事?」

「だから祐介が殺された事件の犯人が、あいつらだと分かればいいんだよ。そうすれば警察が動くから、キラーリストも活動しづらくなる。」

「なるほど、でもどうやってその証拠を手に入れるの?」

「それをこれから考えよう。」

 しかしそれは決して容易なことではなかった、高山もジョンもなかなかアイデアが浮かばなかった。

「難しいなあ・・・、何か証拠でもあればいいと思ったのだが・・・?」

「高山さん、祐介の遺品を見させてもらうのはどうでしょう?もしスマートフォンが残っていたら、奴らに脅迫された記録などが残っているかもしれない。」

「そうだな・・・、一か八かだかやってみよう。」

 そして高山は祐介の実家に電話を入れて、二日後に訪れる手はずを整えた。


 そして二日後、祐介の実家に高山とジョンがやってきた。

 「おばさん、高山です。」

 「いらっしゃい、祐介の遺品が見たいということだったね。所で、その子は誰だい?外国人のようだけど・・・。」

 「家でホームステイをしている、ジョンです。最近来たばかりなんですよ。」

 「初めまして、祐介のマザー。」

 「あら礼儀がいいわね、どうぞ。」

 こうして高山とジョンは祐介の実家に入り、奈津子が持ってきた遺品を見た。

 「カバンに服に・・・、あれっ?スマホが無いですね。」

 「それがねえ、どうやら殺された時に犯人にカバンを持ち逃げされたようなの。幸いカバンは殺害現場からほど近い所にあったけど、中身が無くなっていたのよ。」

 さすがはプロの殺し屋、証拠隠滅に手抜かりは無い。

「はあ・・・、無いか・・・。」

 高山はため息をついた、ところがジョンは証拠品を見ておらずむしろ、生前の祐介と美央が写っている写真だけを見つめていた。

「一体誰が息子を殺したんだろうね・・・、警察はまだ手掛かりすら掴んでいないようなの。」

「でも犯人はカバンを持ち逃げしたというから、指紋は付いているのでは?」

「それが検査しても見つからなかったのよ・・。」

 結局、何も成果が無いまま祐介の実家を後にした。


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