第27話 脇道それずにただまっすぐに!(出現カウントダウン開始!)

 あーあ、すっかり暗くなっちゃった。本当はこの時間帯に家に着いて飯食ってる予定だったんだけどなぁ。あの鍛冶屋で長いこと剣見てたし、店員さんと話し込んじゃったから仕方ないか。

 ……あ! そういえば、折角買った新しい剣でサリなんちゃら斬ってない。あー、しくったぁ。まぁ、いいか。また今度で。


 などと考え事をしながらを辿って帰っている最中、ふと、思い出す。






 ん? ここ……。あのエルフがいたとこじゃね?





 …………いやいや、考えすぎ。さすがに家に帰ってるって。もし追ってきてたとしたらもう鉢合わせてる頃合いだろうし……あ! ほら、もう森も抜けるし会わないって。ね? 自分を信じてこのまままっすぐ森を抜ければ会うことはないって。そう、このまままっすぐ。脇道それずにただまっすぐに!








 あと30メートルくらい。よし、いける! ……あー、今日は歩き疲れてお腹すいたなぁ。












 あと20メートルくらい。晩御飯なににしようかな? この時間帯だと家で食べるより外で食べようかな? 

 








 あと10メートル。そうだ、ラルクさんの店にしよう。ボリュームのある定食があったはず。食べて帰ってシャワー浴びたら寝ーよっと。













 森を抜けた。そして声を掛けられた。







「レルクロイ様、おかえりなさい」


 森の外が僕の家ではないよ? それに、なんでいるのかなぁ?


「なんでいるのかなぁ?」


「それはレルクロイ様に付いて行くからです」


 ん? 心を読まれた?


「心を読まれた?」


「私に人の心を読む能力はありません。単に口に出しているからです」


「そ、そうか」


 僕はどうやら動揺のあまり思ったことを口に出していたらしい。気を付けねば。それと僕がタメ口になってるけどこれも動揺のせいか……。

 いや、この際、僕の口調はどうでもいい。この付いてこようとするエルフをまくことを考えなくては。……でないと僕はこのエルフを始末しないといけない。面倒くさい。飯食いたい。


「ところでなんで付いて来ようとするの?」


「レルクロイ様と一緒にいたいからです」


「なんか出会った時と口調変わってない?」


「助けてもらった命の恩人に礼儀を尽くしたいだけです。……それにぐいぐいイクとまた逃げられそうですし」


 礼儀を尽くしたい……か。後のセリフは頬を赤らめ、モジモジしながら小声で言っていて聞き取れなかったけど……なるほど、礼儀ね。道理は合うけど他に何か様子もおかしい様な気がする。

 僕は何か見落としていないか? うーん、例えばそうだな……。


「…………もしかしてだけど、その……エルフ族の風習でアクセサリーか指輪か何かを異性に上げたら結婚しなきゃいけない風習でもあるの? それかプロポーズの意味でもあったりするの?」


「いえ、ないです。……ただ私が、レルクロイ様に惚れてしまっただけです。……す、好きになってしまったんです」


 顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに告白する彼女の仕草を僕は見逃して言葉面だけを読み解こうと目を瞑って考え込む。

 違うのか。それよりも、そんなことってあるのか? ……いや、ないな。偶然出会って、偶然好きになる。そして相手の意見聞かずに付いてこようとするエルフなんてマンガのヒロインじゃあるまいしありえないって。裏あるって。だろ?

 だとしたらなんだ? 敵? 敵なら新魔王軍? ……今、真正面から組織と戦争してるしあり得るな。他に考えられるとすれば……敵国? なら、どこだ? 単純に考えてエルフ国か。別に表向き敵対してる訳じゃなかったはずだからエルフ国がスパイ送るか?

 このに対してのスパイではなくに対してのスパイなら僕に接触するってのは辻褄が合う……か。いずれにしてもスパイである可能性が高い。最近だとフォルちゃんが良い例だ。イルちゃんも僕からしてみれば黒よりのグレー。そしてこのエルフは黒。連れていくリスクが高すぎる。仮にスパイでなくても僕の能力がバレる危険性が高くなるからそういう意味でも連れていくのは却下したい。あ、そういえば……。


「森から出るなって僕言わなかったっけ? エルフの国から出てくるなって」


「なんでもしますと言いましたがレルクロイ様と離れること以外でお願いします。……私、どうしてもレルクロイ様と一緒にいたいだけなんです」


 少し涙目になりながら上目遣いで懇願するこのエルフの言動に僕は少したじろぐ。

 食い下がってきたな。やはり敵か? うーん。リザさんがいれば楽なんだけどなぁ。来ないかなぁ。……無理か。リザさんは今ごろ別作戦中だろうしここに来る理由もないからね。


 と、なれば他に頼れる人はいなかったかなぁ。このエルフを僕から引き剥がせるような人は……。エルフ? あ、そういや組織の人でエルフいたわ。中性的な声と顔立ちで言葉遣いも丁寧だから男性か女性かわかんない人。名前はルーシャさん。

 ルーシャさんは僕と同じ実行部隊の人で弓での超遠距離の狙撃での暗殺が得意な人。ルーシャさんの弓の射程距離が地平線までで数ヶ月前に「射程距離を延ばす練習をしてくる」って言ってたっけな……。

 山の山頂から見える地平線ギリギリの対象を射ぬく神業をやる人がまだ高みを目指すという一種の化物のような人がいたなぁ。


 組織の集まりがあった日はルーシャさんとよく話してたからきっとこういう時に助けてくれるはず。って言っても今回の作戦にいなかったからまだ練習してんのかな? ってか、練習でどうにかなるもんなのか? 地平線の向こう側を弓で射ぬくって。……ルーシャさんなら練習でどうにかなりそうで怖い。

 でさぁ、このエルフと同じエルフ族なんだからなんとかしてくんないかなぁルーシャさん。ここで颯爽と現れて僕を助けてくれないかなぁルーシャさん。


 ……そう都合良く現れて助けてくれるヒーローみたいな人なんていないか。









 ねぇ? ルーシャさん?













「あ、レルさん、お久しぶりです」


 偶然通り掛かったルーシャさんが後ろから声をかけてきた。


「ルーシャさん、お久しぶりです。久しぶりに会ってそうそう悪いんですけど助けてください。後ろのエルフをまいて欲しいんですけど」


 僕は振り返り挨拶をし、後半は後ろのエルフに聞こえないくらいの小声でお願いしてみた。ルーシャさんはチラリとエルフを見て僕にウィンクしてから挨拶を交わす。


「あ、これは失礼しました。私はルーシャ・アルチダ。あなたは?」


「私はフェニーリエ・フォン・アルノワールです。レルクロイ様の……妻です」


「違うよ!?」


「あ、、違いますね。ところでアルチダさんはレルクロイ様とはどのようなご関係で?」


「わ、私はレルさんの…………こ、ここ、恋人ですけど?」


 ルーシャさんは眉をヒクつかせながら笑顔で僕が合わせやすいように答えてくれた。さすがルーシャさん。恋人がいるならこのエルフも諦めてくれるはず。そう考えての発言なのだろう。


「そ、そうそう。ルーシャさんと僕は恋人同士。僕が卒業したら結婚する予定なんだ。だから君とは結婚するとこも付き合うことも出来ないんだ」


「////////」


 ルーシャさんはすごく恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。勢いで結婚するとか言っちゃったけどこのぐらい言わないときっとこのエルフは引かないだろう。


「……ん~? ほんとうですか?」


「ほ、ほほほ、ほんとうだとも!!」


「私はこの指輪をレルクロイ様からプレゼントしてくれましたけど? アルチダさんは何かプレゼントしてもらったりしたことないんですか? それに、最初に合った時、恋人同士なのに『お久しぶり』なんて言いませんよね? ふつう」


「……うっ」


 ルーシャさんは真っ赤な顔を上げて反論するがフェニーリエに反撃をくらう。

 くっ、このエルフ鋭いな。やはり組織に接触して来ようとするやつだけあって目ざとい。ここまで僕に探りを入れてくるということは純粋に僕に惚れたという線は限りなくゼロになった。だけどエルフ族という種族なだけあって安易に始末してしまうと後々、面倒事になりなねない。

 はぁ、始末できれば楽なのにな。……やっぱ、ここは無難にやり過ごさないと。


「え、えーと、そ、そう! ルーシャさんは恥ずかしがり屋さんなんだ。だから外にいる時は他人行儀な会話しか出来なくて、あ、あと、僕からのプレゼントと大切に仕舞ってくれてたり、プレゼント自体を他の人から見て見えないところに付ける物にしてあげたりしたんだ」


 うんうん。僕の言い訳は完璧だ。これなら辻褄が合うだろう。ルーシャさんがこのまま恥ずかしがり屋さんのをしてくれれば筋が通る。うん、完璧な言い訳だ。

 ……ところで『他の人から見えないところに付ける物』って何がある? 指輪をこのエルフにあげた手前、何か身に付けるネックレス的な物とかブレスレット的な物とかあげたていで話したけど具体的に『他の人から見えないところに付ける物』ってどんな物があったかなぁ?


「し、下着をプレゼント!? まさかそこまでの関係になっているとは……。くっ、うっ……」


「////////」


 ルーシャさんは手を胸や股に当て、モジモジしながら再び俯いてしまった。

 どうやら僕はルーシャさんに下着をプレゼントしたことになってしまった。僕はそんな変態じゃない。って反論したいがルーシャさんのを無下には出来ない。それに何よりこの方がこのエルフを納得させることが出来るだろう。下着であれば『本当に渡した物か確めさせて』とか言えないだろうからこの勘違いとルーシャさんのは完璧だと言える。

 ただ一つ問題があるとすれば僕が恋人に下着をプレゼントする変態と勘違いされることだが……。それは僕が我慢すればいいだけ。それでこのエルフが去ってってくれれば御の字だ。


「く、くやしくなんてないんだから!! 今度合った時は絶対、ぜえぇぇぇったい! 私を嫁に貰ってもらうんだからね!! 覚えておきなさい!」


 などと子悪党の捨て台詞っぽいのを叫びながら街の方へ走って行ってしまった。

 あれ? 街に行った? 森に帰れよ。僕もそっち行くんだよ。

 で、ルーシャさんは耳まで真っ赤にして恥ずかしがってるをまだしているので、もうはいいんですよ? っと言おうしたら……。


「わ、私、ギルドに行かなきゃ行けないから、レ、レルさんとはここでお別れです。じゃあ、また今度ギルドで会いましょう」


「あ、はい。また今度」


 僕に顔を見せずにあたふたしながら風魔法で体を浮かせて街の方へ飛んで行った。


 さすがルーシャさん。は気を抜かずに今日一日は続ける気ですね。いつあのエルフが現れるかわからない現状でを止めるわけにはいかない。そういうことですね。ルーシャさんって完璧主義者なとこありますからね。









 にしても……。
















 お腹すいた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る