第26話 口達者な奴だと聞いたが、喋る前にはお前はもう……(テイク2)

 氷漬けのフォルちゃんをそのままにし、僕はこの近くのサリなんちゃらがいる教会跡地に向かった。


 うーん? ほんとになんで凍ったんだ? ……でもまぁ、ついでにれてよかったよ。学園で始末するとなると人目があるから組織のサポートが必要だし、休日は偶然会うか住んでるとこ組織に探ってもらわなきゃだったし。結果オーライってことで。










さて──。


「……ここか」


 廃村から十数分程でたどり着いたが辺りはすっかり暗くなっていて、ここまでの道は手入れされていないため、雑草が多くほとんど獣道のようになっていた。


 ライトで教会の外観を照らしてみると、建物はボロボロで中まで見える。屋根は無く、太い柱の数本と申し訳程度の壁と何故か綺麗に残っていた入口の扉だけだった。

 中は崩れた屋根の木片で埋まっていて、とても中に魔王軍参謀とやらがいるように見えなかった。が、組織の情報は確かなハズだから僕は信じて入口の扉を開く。


 う……眩しい!! 光? なんで?


 そこは外観から想像がつかない程明るく照らされた空間で、目を凝らして見ると壁や天井のどこにもほころびが無い。天井は高く、屋根は崩れ落ちてなくちゃんとある。教会にあったはずの長イスはなく、長机やイス、ホワイトボードなんかが壁際に寄せてあった。

 あと教会にあるはずの神か女神かなんかの銅像が台座にない。代わりに台座には禍々しい翼を生やした人間史史上、最古の魔王ゼア・ベルグの銅像があった。


 魔王ゼアは僕でも知ってる。この世界で初めて魔族が大々的に他種族の国を攻めて占領した。その時の魔族の先導者がゼア。

 それまでも他種族との小競り合いや小さい村や町なんかが襲われたりしたけど“国”が完全に落ちることはゼアが現れるまで記録に無い。

 少し強い魔物の個体が別の魔物を従えてることもあるけどそれも魔王と呼ばれるほどの魔力量も無ければカリスマ性のある魔族はいなかった。


 魔族自体が群れを作ろうとせず個で生きようとする生物だし、魔族は『群れているということは個が弱い証明』という考えでいるかららしい。そんな思想の中、ゼアは魔族だけ群れを作り、存在をを認められ、そしてまとめ上げた。そんな天才が魔王ゼアである。


 僕はライトをしまい、建物内の中央まで歩く。そこで僕はゼアの銅像に向かって誰もいないので予行練習をする。


 両足を肩幅より少し広げ、膝を曲げ、腰を軽く落とし、右手を剣の柄に、左手を鞘に。そして鯉口を切り、刀身が少し見えた所で能力を発動する。






「口達者な奴だと聞いたが、喋る前にはお前はもう、死んでいる」






 3






 僕はいつも通りに……そう、いつものようにタイミングを合わせて剣を納刀していく。


「……」






 2






 あと2秒。……ゆっくりと、格好いい姿勢を崩さず、ゆっくりと刀身を鞘に納めて───。


「……」








 1







 知っているかもしれないが、僕のこの能力は。よって、何もなければ不発に終わる。だから練習をしているところを誰かに見られたら僕は恥ずかしくて死ぬと思う。


 あ、そうそう、練習する時はいつも人気の無いとこでから練習してるから大丈夫。たまに近くの茂みから動物の鳴き声が聞こえたりするけどそれは人じゃなくて動物だから別に恥ずかしがることないよね。


 そして今回もそう。外からは幻術(?)の魔法かなんかで建物の中は見えてないし、中もタイミング悪かったのか敵はいないし、気配も感じない。

 ……カッコ良く「気配も感じない」とか心の中で言ったけど気配なんてもの感じたことないんだよね。勘だよ勘。雰囲気ってやつ? あるでしょ? それそれ。僕の勘って結構あたるんだよねぇ。たぶん外したことないんじゃないかな?


「……」










 ──カチンッ













『ヴァナァァアナァァァーー!!!!』




「……」




 くぐもった断末魔が目の前のゼアの銅像からし、銅像が砕け、血吹雪を散らし、バラバラになった肉片と銅像の破片が台座から崩れ落ちていく。

 そしてボールのような何かが僕の足元まで転がって来た。いや、ボールではない。頭だ。顔に切り傷があったが映像で見たサリなんちゃらの顔だった。


「……な……ぜっ……」


 !? しゃ、しゃべった!? うわ、こわ! 新魔王軍の幹部だからか? 参謀だからか? 最期のセリフを言おうとしてるよ。こえーよ。いつもなら断末魔上げたやつはもう喋んないのにやべーよ、こいつ。


「……わ……わたしは、九つの……命が、ある……のに……な……ぜ……」


 はぁ? 何言ってんのこいつ? 九つも命あるってこえーよ。……え!? でもなんで? 僕も知らないよ? うーん、なんでだろ? ……なんかそれっぽいこと言っとくか。


「命の繋がりを断ち斬った。……ただそれだけのことだ」


「!? …………そう、か……」


 僕はなんか格好いいセリフを背を向けながら言い、そのまま教会の入ってきたドアに向かう。

 サリなんちゃらは心底驚いた様に目を見開いて、そして何かに納得したかの様にゆっくりと目を瞑った。


 なんで? 何に納得したの? まぁ、いいか。何か心当たりが合ったんだろうか。それとも僕のセリフに合わせてくれたんだろうか……。何はともあれここに用はないし、もう帰るか。


 僕は入ってきた教会のドアから出る。後ろを振り向けば、入る前はあんなにボロボロに見えた教会が今では新築のようなピカピカの建物に見えた。

 僕は家に向かって歩きながらいるであろう記録係に声を掛ける。


「対象は斬った。他がいるかは知らない。……じゃ、あとはよろしくお願いします」


 そして僕はそのまま帰路につく。


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