第25話 お前は気付いて無いだけだ。そう、『斬られている』と言う事実に。(事実、斬ってない)

 じゃあ……。


「これを持ってとっととエルフの里に帰りな。そしてもう人間に近づかないことだ。少なくともあと100年は。……ああ、それはピンチになったときに助けてくれるアイテムらしい。気休め程度の効果しか無さそうだけど無いよりマシだと思って肌身離さず持っておけ」


 僕はポケットにしまったフェンリルと妖精から貰った指輪を渡した。うん、まぁ、エルフは基本的に人と関わらないような生き物だから今回、人さらいに遭いそうになったし、もう人と会いたいと思わないだろう。それにエルフは正直言ってそう簡単にほいほい斬って組織に「ミッションついでに邪魔なエルフ始末しましたー」って報告しても大丈夫だろうか? いや、やっぱ、あんまエルフは斬りたくないな。エルフ族と戦争になるかもしれないし。


「はぁ、はぁ……。わ、わたし、これからイロイロされちゃうんですね? もうこれはレルクロイ様に尽くすしかない感じですね? ハァハァ、責任とってくれるんですか? はぁハァ、この指輪は、そーゆーことですかぁ? ハァハァ……肌身離さずってそーゆー意味ですよねぇ?」


 ねぇ、人の話を聞く耳持ってる? その長い耳はただのでかいゴミ? 頭にゴブリンでも沸いてんの? ってくらい人の話聞いてないなぁ。えー、どうしよ。


「ほ、ほら、こ、この指輪、私の指にピッタリですし、つ、つまり!! 結婚指輪ってことですよね!! そーですよね!」


 ???? エルフの皮を被ったオークなの? かわいい女の子に迫られて嬉しいは嬉しいんだけどさすがに中身がオークは愛せないよ。僕でもドン引きだよ。


「え、えっと……。ど、どっから来たかわかる? あと、ここらからの帰り道って分かる?」


「エ、エエエエルフの里から来ましたぁ。ばバババ場所は分かりますぅ! 結構ここから近いんですよー!! いま案内しますねぇー!!」


「え? いや、別に案内しなくていいよ。そのまま帰ってくれ。僕はこれから行くとこあるから。……じゃ、これで」


「あ……」


 面倒臭くなった僕は全力疾走で逃げ出した──。










 ふぅ。なんとかまいたか。あのエルフから逃げるのとさっきの森の妖精やら聖獣やらのテリトリーに入らないようにしながら走って森を抜けたけど……。あ、ちょうど良かった。ボロッボロの家とボロッボロの意味の成してない柵があるからどうやらここはサリなんちゃらがいる教会近くの廃村みたいだな。


「ここに来ると思っていたよ。マルチデリーター。やはりサリフィスの予知は正確だったな」


 ん、誰だ? 村の入口付近の原型を留めていない家の物影から僕に語り掛けながら女の人が姿を現した。夕陽の逆光で顔が見えない。声は女の人。うーん……。どっかで聞いたことのある声だ。


「ふふっ。ようやく……ようやくわたしの本気をぶつけられる相手が!! ハァァーー……ッハァ!!! 『リミッターリリース!!』 さぁ! !!」


 僕の目の前の人がなんかさっきまで無かった気迫というか殺気というかそんな感じのやつが剣を引き抜いた途端、体から溢れ出て来た。というか、なんで開幕からそんな強そうなオーラみたの出してんの? 僕、3秒持つか怪しいよそれ。

 ど、どうしよう……。あの人ヤル気マックスなんだけど。ま、まぁ、いいか。いつも通り相手に合わせてやるしかないしな。はぁ……。

 僕はキザったらしくカッコいい感じにセリフを並べる。


? いや、その必要は無いよ」


「?」


 きっと今はいぶかしげな表情をしているだろう。逆光で顔なんて見えないけど、今までの人達はみんなそんな表情をして僕の続きのセリフを待っていたからね。


「だって……」


「……」


 そう、ここで溜める。1秒後には斬りかかるよ状態の相手は息を呑む。そして僕は左手で新しい方の剣の鞘を握り、鍔を軽く弾き、淡く青い色した刀身を見せ、能力を発動する。









「お前はもう、死んでいる」








 3







「!?」


「お前は気付いて無いだけだ」


 ハッとする相手の表情はいつも笑える。まぁ、今は逆光で見えないけど動きでわかる。








 2







「ど、どう言うことだ!!」


「そう、『斬られている』という事実に」


「そんな……バカな……ありえない……」


 相手は動揺し、狼狽うろたえる。僕はそっと右手を剣の柄に持って行き、タイミングを測る。









 1









の本気は!! 居合い斬りじゃ無かったの!?」


「!?」


「剣を交える事さえ出来ない程、きみは遥か高みに──」


 僕は動揺し、狼狽える。……? もしかして!! いや、それよりもうタイミングだ。僕は剣を納刀する。












 カチンッ












「い……──」


「ん?」





 パキーーーーン!!






 一瞬、僕の能力が不発したのかと思ったわ。なんせいつものように断末魔を上げて散ってかなかったから。いつもと違う? 何が起こったって? そりゃあ、僕もこう聞きたいよ。


「なんで村が氷漬けになったんだ? まぁ、いいか。結果オーライってことで」


 目の前の相手も村も全て氷漬けになった。疑問しか浮かばない。けど、僕が巻き込まれて無かったことから推察するに、組織の誰かがやったってことかな?

 そういえば僕のミッションはサリなんちゃらとフォルちゃんだけが対象だったからこの村を氷漬けにするなんて誰か受けてたっけ? うーん、覚えてないな。ってか、そもそも僕はミッション対象以外は聞いてなかったわ。……って、そーだ!

 僕は目の前の氷漬けになった人に近付き顔を確認する。あー、やっぱり。




















 フォルちゃんだ。







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