第24話 僕の間合いに入った時点で──。(次の言葉は……わかるよな?)

 まさか森ん中で盗賊と出会って、エルフの女の子とも出会うとは思ってもなかったなぁ。


 もしかしたら、もしかしてだけどこの運の良さ(?)悪さ(?)のせいでこのあと森の中にいるし『森の妖精』に出会ったり『森の聖獣・フェンリル』に出会ったりなんてしないよね? ね?

 いやいや、まさかそんな『運』なんて僕にはな──。















「クスクス」「クスクス」

「ねぇねぇ」「ねぇねぇ」

「あれにんげん?」「これにんげん?」

「どうする?」「どうしよう?」


なんじは我が森の聖域に何用か?」


「せーいき」「せいいき!」

「なによー」「なによう?」













 うん、ちょっと待とうか。











 最初でけぇ蛾かと思ったよ。しゃべる蛾が数匹、僕の周りを飛んでるのかと思って結構ビクッてしたよ。かたや白くてやたらとデカイ熊かと思ったわ! チビったわ! いや、あの……ほんの気持ち程度な!


 あとついでにこの待ってもらってる間に『妖精』と『フェンリル』の説明をさせてもらうよ。


 まず、『妖精』ってのはどこにでも居る生き物で、ただ見えてなかったり気付かなかったりするみたいだから滅多なことがない限りは認知できない存在なんだ。

 あと、場所によって妖精の性質は多少違うみたいだけど基本的な性質は同じで人とあまり関わりを持たない。人と話すような珍しい妖精はいたずら好きなやつか好奇心旺盛なやつくらいで、つまり今、そのどっちかの珍しいやつが僕の前に数匹いる。

 容姿は綺麗な蝶の羽を生やした手のひらサイズの小人って感じ。ここ森の中のちょっと薄暗いとこだったから羽が黒く見えて蛾と見間違えちゃったよ。


 で、『フェンリル』ってのは犬の神みたいな存在。ちょうどこのあいだ、学園でこの世界の神についての授業してたから分かるよ。

 あ、そうそう、それで思い出したけど正しくは神ではない。けど、は神としての扱いって話。神聖な存在で普通は一生の内で会うことすらないらしい。

 見た目は狼で体格は熊を一回り……いや、二回り程大きいモフモフ。


 で? そんなこいつらとどう接するのが正解ですかシュベル先生? 実践で予習しろと? んな無茶な……。こんな珍しい生き物がパッピーなセットの如く、一緒に出てくんなよな。

 うーん、と、とりあえず、質問に答えてみようか。あ、敬語が良いのかな? ため口はさすがにマズイよね。

 敬語なんて普段使わない僕はあやふやな敬語で話し出す。


「えーっと、この先を通り抜けて教会跡地に行きたいだけです。ここを荒そうとかそういうのじゃないので……あ、なんなら回れ右して迂回させて頂きますー」


 隊列の授業で綺麗な回れ右を褒められた僕の華麗な回れ右を今こそ披露する時!!

 僕は『気を付け』をして左後ろ45度に右足を下げ──。


「待たれよ」


「またれよー」「たれよー」

「たれ?」「たれー!」


 ? ん? なに? 僕の美しい回れ右は見なくていいの? 見せなくていいの?

 僕は一歩斜め45度後ろに引いた右足を前に戻す。


「えー、はい、なんでございますでしょうか?」


「汝は望まぬのか?」


「まぬのかー」「まぬのか!」

「マヌノカ?」「ぬのかー!」


 ???? なにを? と思い、口に出そうとした時、僕の心を読んだかのようにフェンリルが続けて言う。


ちからを」


「からおー」「からおう」

「ちからお!」「ちからを!」


「我の存在を知っている人間は我に跪き、我に力を求める。我の力の一端など我からすれば些細な力に過ぎん。だが、人間にしてみれば過ぎた力らしいがな」


「しいがなー」「しーがなぁ」

「がなぁー」「がおー」


「して、人間。よもや我の存在を知らぬ訳ではあるまいな。その立ち振舞いを見るに我の存在を理解している者だろう? 別に我は力を与えることは構わない。ほんの些細な力であるからな。もう一度問おう。汝は我の力を望まぬのか?」


「「「「力をほっしないのか?」」」」





















 ハモんなよ。こえーよ、妖精。僕は力なんていらないよ。僕の今の能力以外に新しい能力なんて持ったら組織を抜けづらくなるだろ?


「えっ……と、いらないです」


「!? なんと、いらぬのか? ……グァハハハハハ!!」


「グァハ!」「グァハ!」

「ガハハハハ!」「ハハハハ!」



 フェンリルも妖精達も笑いだす。 ???? ん? どうしたん?


「我がここまで力を与えようとしてその力を拒絶されたことなど一度もなかったわ。グァハハ! よし、気に入った! 力は要らぬと申すのなら加護は要らぬか? いや、なぁに、たいしたものではない。汝の身に危険が迫った時、我が危険から守ってやるというものだ。ただし、我がすぐに駆けつけられる状況であればな」


「守ってやるー」「ただしなー」

「これを受け取れー」「受け取れー!」


 え? 受け取れって……これを? 別に加護もいらないです。はい。

 妖精が小さな指輪を差し出してきた。僕はこれを受け取らなかったら怒るかも知れない。仕方ない。貰おう。


「あ、どうもです。では、失礼します」


 僕は指輪を受け取ったあと指輪をポケットに入れ、そそくさと逃げるように来た道を戻った。

 あ! 回れ右し忘れた。ま、いいか。……ん? なんか声が聞こえる。






「ひゃー! 誰か助けてー!!」


 ん? さっき聞いたような声がする。あと、こっちに向かって来てる気がする。


「テメー! よくもサジとヒズとロゼを!!」


「だから私じゃないですって!!」


「テメー以外に誰がこんな森ん中いるだ!? それにテメー……よく見れば上玉じゃねぇか。じゅるり」


「ひぃ!! 同じこと言われた!?」


「あ! やっぱしあいつらのこと知ってんじゃねぇか!! テメー以外に犯人はいねぇんだよ!」


 あ、エルフの女の子。あ、また追われてる。あ、てかまだ仲間いたのか。あ、目が合った。あ、こっち来た。


「また助けて下さいーーー!!」


 やれやれ。また会うとは思わなかったな。で? どうしろと? エルフのこの人にもう会うことは無いだろうと思って能力連発しちゃった手前、この人の前であんま能力使いたく無いんだよね~。どうしよう。まいったな。能力使わずに済む方法なんて何か無いかな?


「えっと……」


「あの! またまた図々しいですけど助けて下さい。お願いします! しますから!!」


 何でも? じゃあ……。

















「僕の後ろで目を瞑って耳を塞いでて下さい。終わったら肩を叩きますんで」


「ふぇ? ぇ、え?」


「助かりたくないんですか?」


「ふぇ!? は、はいぃ!! 助かりたいです!! どうか助けて下さいーー!」


 よし、何でもしてくれるって言うなら僕が能力を使う瞬間を見ずに聞かずにいて貰おう。死にたくないならちゃんと言うことを聞くはずだ。


「おい、テメェ。そいつを寄越しな。死にたくなければなぁ」


「えっと……。黒いドクロマークの人ですか?」


「ほう。知ってるなら話ははえー。ほれ、この左腕が証拠だ。俺達に逆らおうものならどうなるか……わかるよな?」


 よし、念のために聞いといて良かった。斬っていいやつだ。こいつは。

 僕は足を軽く広げ、腰を少し落とし、左手で普段使ってる方の剣の鞘を握り、その握った手の親指で鍔を軽く弾き、右手で柄を掴み、刀身を少し見せて能力を発動する。


「僕の間合いに入った時点で──」

「おっお! やっろってのか?」


「──『お前はもう、死んでいる』」




 3




 目の前の男がバトルアックスを二本腰の後ろから取り出す。

 バトルアックス……戦斧せんぷというのは文字通り戦う用の斧だ。


「ふふふ。久しく俺達に歯向かうような──」




 2






 男がバトルアックスを構える。僕は徐々に剣を鞘に収めていく。


「──やからなんていなかったからなぁ。殺りがいってもんが……」







 1





 男がしゃべり終わったタイミングで斬りかかって来そうだったから僕はゆっくりと剣を鞘に収めながら男を煽る。


「来世は大人しく木こりにでも就職することだ」


「!! な──」












 ──カチンッ













「──メックせいジイィィーーーーンン!!」


 男は断末魔を上げながら両手を広げ、体に無数の斬り傷を付けて仰向けに倒れ込み、死ぬ。

 僕は振り返りエルフの女の子の肩を叩いて「終わったよ」と、言おうと思ったら何故か目を開いて耳も塞いでなかった。死にたいの?


「死にたいの?」


「ふぇ? ぇ……。す、すみません!! 約束破ってしまって!」


 今までこういうことはたまにあった。そしてこういう時は今まで能力でしてきた。さて、今回も同じように始末しなきゃいけなくなってしまったな。

 僕は左手を鞘に添える。






「あ、あの! 何でもしますからどうか命だけは助けて下さい!!」



















 ……ん? 何でも? 何でもしてくれるなら、じゃあ──。






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